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モビリティと購買行動に対するインド生活者意識の変化~コロナ時代のアジア自動車ビジネス②

インテージでは、日刊自動車新聞に「コロナ時代のアジア自動車ビジネス」をテーマに連載枠をいただき、中国、インド、タイ、日本の4カ国について、現地スタッフを交えて生活や自動車市場の変化をレポートしました。その内容を、知るGalleryでもお届けします。
2回目はインド。コロナ禍に生活スタイルを適応させつつも“らしさ”を残す、インドの生活者像をレポートします。
1回目の記事はこちら 中国自動車市場の現在とオンライン販売の可能性

インドのコロナ禍のモビリティ事情

8月には1日当たりの新規患者数が6万人、累計患者数が250万人を超え、世界3位の「新型コロナ大国」となったインド。私が駐在するバンガロールでも7月から感染者が急増して、自宅から数十㍍の区画が隔離エリアに指定されるなど、新型コロナの脅威を身近に感じて生活しています。その一方で、政府は税収減や失業率の問題が深刻化しているため、新型コロナと共存しつつ経済活動再開へ舵を切っています。このような状況下で、生活者意識は多方面で変化を見せ、モビリティに対する意識も変わってきています。

大きな変化として挙げられるのは、公共交通機関を利用することへの不安です。インドのラッシュアワーの混雑具合は、都内の地下鉄以上。密な空間での感染に対して危機感を覚えるのは当然の反応でしょう。例えば、バンガロールでは1日のバスの利用者は360万人で、市民の主な交通手段となっていました。しかし、すでに運行を再開しているバス・タクシー・リキシャ(オート三輪タクシー)など不特定多数が利用する交通機関は、乗車人数の制限があっても避ける傾向が見られます(図表1)。

図表1asia-carbusiness-2_01.png

一方、二輪や自家用車は他者との接触を避けることができるため、利用意向がやや高まっています。7月の新車販売速報値を見ると、二輪上位6社合計の販売台数は、対6月比23%増の約124万台、乗用車は昨年同水準の約20万台と回復基調にあります。乗用車の中では、マルチスズキの「アルト800」(約50万円~)など低価格の小型車の販売が堅調であり、個人利用できる移動手段へのニーズの高まりを反映した結果と言えそうです。

インドでは10月からの祝祭シーズンが、自動車や家電製品などの耐久財にとって大きな商戦期になります。現地では祝祭シーズンへ向けて販売が回復するのではないかといった報道を目にしますが、懸念材料がいくつかあると考えます。一つは経済の停滞です。2019年の自動車市場は、景気減速の影響によって販売が思わしくありませんでした。そこへ新型コロナが直撃。小型車に対する需要が一巡りした後に、市場が減速する可能性は否定できません。弊社自主調査では半数強が「将来のための貯蓄を増やす」と回答しており、生活者の声としても節約志向の高まりが見受けられます。(図表2)

図表2asia-carbusiness-2_02.png

また、クルマの利用頻度≒走行距離の減少も買い替えサイクルへ影響を与えそうです。ショッピングモールは再開していますが、8月中旬頃の客足は以前の1割程度にとどまっています。高齢者や子供の外出規制や、モールなど混雑した場所へ出かけることの不安に加えて、自宅時間の楽しみ方を覚えた今、その必要性が減ってしまったという側面がありそうです。インテージ・インディアが5月に実施した自動車オーナーに対するヒアリング調査でも、「プライムビデオなど自宅で楽しめるので、モールなどへあえて車で出かける必要性を感じなくなった。通勤含めて車を利用する機会が減ったので、しばらく同じ車に乗ろうと思う」と購入を先延ばしにする声が聞かれました。

車の利用が減りそうな都市部に対し、農村部ではロックダウンの雇用に対する影響が少なかったこと、また、今年は農作物が豊作だったこともあり、自動車やバイクの販売が好調という報道を目にします。人口の約7割が農村部に住むと言われるインド。人口規模で見ると非常に大きな潜在需要があると言えます。メーカー各社もコロナによる都市部での落ち込みをカバーするために、農村部での営業に力を入れるのではないでしょうか。コロナ禍による移動手段の変化は、自動車・2輪の販売営業戦略へも影響を与えそうです。

コンタクトレス化が進む買い物行動

この記事を執筆している8月の時点では多くの商業施設が再開していますが、他者との接触を可能な限り避けたい生活者は、EC(ネット通販)や配達サービスをより活用するようになってきています。インテージ・インディアが実施した自主調査でも、普段の買い物をする場所を比較すると、ロックダウン以前よりもネット通販の利用率が高まっている様子が見られます。(図表3)

図表3asia-carbusiness-2_03.png

私もロックダウンが始まってからは、オンラインスーパーを主に活用しています。ロックダウン当初は欠品が多かったのですが、5月頃からは在庫状況は改善されました。また、フードデリバリー大手のゾマトやスウィーギー、ダンゾーのようなデリバリーサービス業者が実店舗から日用品や食料品の配送を担うようになったことで、利便性は向上しています。余談ですが、ゾマトやスウィーギーといったフードデリバリーのスタートアップは、EV二輪の採用の検討を進めており、二輪メーカーにとって今後有望な顧客セグメントの一つとなっています。

もう一つのロックダウン以降の買い方の変化としては、コンタクトレス化が多方面で進んだように感じます。例えば、ネット通販事業者と購入者との接触を最小限にするために、クレジットカードやデジタルペイメントなどコンタクトレスでの決済が推奨されています。オンラインショッピングの際に72%が現金代引で決済していると2019年のジェトロ「インドEC市場調査」にもあるように、インドではネット通販であっても現金決済が主流だったため、これは大きな変化と言えます。決済に加え、配達もコンタクトレスが推奨されており、配達完了時には玄関前に置かれた商品の写真が送られて、配達員と会うことなく商品が受け取れるようになっています。

コンタクトレス化は、空港やショッピングモールでも導入されています。例えば、空港ではオンラインチェックインが推奨され、荷物のタグも搭乗者が基本的につけるようになっています。また、バンガロールのショッピングモールでは、フードコートでの注文・決済がウェブ上でなされるようになっていました。このようなシステム導入・変更はロックダウン中に完了しており、改めてインドのIT技術の高さと対応の柔軟さに驚きました。

このように日常の買い物のコンタクトレス化は徐々に浸透してきています。では、クルマの買い方においてはどうでしょうか。今年2月にデリーで行われたモーターショーの「オートエキスポ」では、現代自動車がオンライン販売を展示するのみで、他の出展企業は特に訴求をしていませんでした。しかし、コロナ禍で生活者が他者との接触を控える中、メーカー各社もオンライン・コンタクトレス販売を訴求し始めています。弊社が5月に実施した自動車オーナーに対するヒアリング調査の中で、オンライン・コンタクトレス販売について質問したところ、ディーラーとの商談やテストドライブの事前予約の利便性向上、保険・ローンなどの透明性に対して期待を持っていました。

その一方で、実際の車を見て・触って確認することが通常の購入プロセスのため、ディーラーでの実体験を省略することに対しては消極的な意見も聞かれました。また、インドの生活者の多くにとって、自動車購入は人生の一大イベント。ある方は「家族全員でディーラーへ赴き、鍵の受け渡しの瞬間を皆で共有したい」と話していました。他にも、値段交渉が好きなインド人らしく「ディーラーと対面で価格交渉をしたい」といった意見も聞かれました。
新型コロナの収束長期化が予想されるインドでは、安全のためのコンタクトレス化と生活者が求める「実体験」との共存が自動車販売に求められていると言えそうです。

著者プロフィール

中村 亮介(なかむら りょうすけ)プロフィール画像
中村 亮介(なかむら りょうすけ)
インド在住のリサーチャー。ムンバイ・デリー・バンガロール3都市の駐在を経験。
データに潜む消費者の実像を理解するため、地方・スラム問わずフィールドへ足を運ぶ。

インド在住のリサーチャー。ムンバイ・デリー・バンガロール3都市の駐在を経験。
データに潜む消費者の実像を理解するため、地方・スラム問わずフィールドへ足を運ぶ。

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