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コロナ禍から学ぶ生活者行動パターン

インテージのデータサイエンティストがデータサイエンスでの課題解決について解説するコラム。今回は、未知のリスクに直面したときの生活者の消費行動がテーマです。

未曾有の事態から不確実な未来へのヒントを得る

2020年初から世界規模で感染が広まった新型コロナウイルスは、拡大と落ち着きを繰り返し、2年が経過しようとしている。思い返せば、日本で新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、未知のウイルスに直面した我々生活者は、心理的にも行動的にも混乱の渦中にいた。感染拡大防止のための国・地方自治体の施策、SNSによる情報拡散の影響に加えて、ステイホームの意識の高まりやリモートワークの浸透などライフスタイルも変化した。2020年はこのような変化がほんの1~2か月の間に起った、まさに未曾有の事態であった。

生活者行動研究の観点では、非常に大きなインパクトが生じた状況下での消費者行動を振り返ることが、今後生活者が未知のリスクに直面したときの行動予測に役立つ。新型コロナウイルス感染拡大初期の「混乱期」から、何度かの拡大と落ち着きを繰り返しながら至る「順応期」までの行動変遷を捉えることを通じて、未来を洞察するヒントが得られるのである。

この記事では、より生活者に身近なレベルで環境変化をとらえるために、消費財の購買に着目する。心理学者アブラハム・マズローによる「欲求5段階説」(図表1)による生活者のニーズ(欲求)の分類のうち、消費財は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」といった生命や生活維持の欲求充足に関わってくる。多くの未曾有のリスクは基礎的な欲求の充足・未充足に強く影響する。消費財の購買傾向を捉えることは間接的に、基礎的な欲求の変化やパターンの考察につながる。

図表1

感染拡大により受ける影響を「類型化」する

消費財の購買変化を捉えていく上では、単一の商品カテゴリーではなく、「連動して動くカテゴリーは何か」という視点に着目することが有効である。連動して動く商品カテゴリーは「食品」「飲料」「トイレタリー」という分類でまとまることもあれば、それらが混在することもある。商品カテゴリーに跨って存在する「共通性」に目をむけていくことで、「生活者がどのようなタイミングで、何を求めていたか」がみえてくる。今回は新型コロナウイルス感染拡大前と拡大後の商品カテゴリー別販売金額の変化に基づき類型化する。データは弊社が提供するSRI+(※)を利用する。

分析は2つのステップで行う。1番目のステップでは感染拡大による影響度を算出する。まず、日本国内における感染拡大前の期間として2017年1月2日~2020年2月23日の各商品カテゴリー(約300商品カテゴリー)の販売金額の週次時系列データを準備する。この学習データを入力として、時系列予測モデル(状態空間モデル)を構築する。このモデルに基づき感染拡大後の期間である2020年2月23日~2021年3月29日の各商品カテゴリーの販売金額の予測を行う。このときの販売金額予測値は感染拡大前のデータに基く予測なので「仮に新型コロナの感染拡大がなかったときに想定される販売金額」とみなすことができる。つまり「予測された販売金額」と「実際の販売金額」の差分=「新型コロナウイルスの感染拡大により受けた影響度」ということになる(図表2)。

図表2

このアプローチの強みは「どのタイミングで感染拡大の影響が大きくなるか」を可視化できる点にある。感染拡大後に生じた様々な出来事と対応させて、変化の背景を考察しやすくなるのである。

2番目のステップでは、統計的な手法(k-means法)に基づいて、算出した商品カテゴリー毎の感染拡大影響度を入力として、同じような影響度の変化をたどる商品カテゴリーを類型化する。こうして、「どのような商品が、どのタイミングで新型コロナの影響をどのように受けたか」を解釈し、インサイトを獲得しやすくなるのである(図表3)。

図表3

コロナ禍の消費財購買類型

ここからは分析を通じて得られた類型のうち、図表3に示した以下の4類型に着目して紹介しよう。なお、図表4の縦軸は新型コロナウイルスの影響度(実際の販売金額-予測された販売金額)の類型ごとの平均値である。

類型A)【パニック型】20年2月末に急激に販売金額が増加。その後は感染拡大前と同水準に落ち着く。
類型B)【内食需要型】類型Aと同タイミングで急増し、落ち着く。加えて、20年3月末から販売金額が増加する
類型C)【巣ごもり快適化型】20年2月末の変化は少ないが、20年3月末から販売金額が増加
類型D)【コロナ禍順応型】20年2月末以降、販売金額が落ちるが、その後感性拡大前の水準を回復していく
※20年2月末は臨時休校要請など一連の新型コロナウイルスによる影響に初めて生活者が直面したタイミングであり、20年3月末は外出自粛要請や緊急事態宣言が検討され始めた時期

図表4

類型Aに該当する商品カテゴリーは、トイレットペーパー、ティッシュペーパーなどの「紙類」や米や育児ミルクなどの「備蓄性の高い食品」である。感染拡大当初は、国・自治体による臨時休校要請や店頭での商品欠品がニュース・SNSで多く見受けられるなど、いわば「パニック」のような状態であり、食事・生活の維持に直結するこれらの商品が求められたと考えられる。一方で、商品供給は安定的であり、その後、急激な販売の増加が起きることはなかった。非常事態が起こったときに顕著に発生しうるパターンといえるだろう。

類型B、Cは感染拡大初期の販売増加の水準に違いはあるが、共に20年3月23日週から販売増加し5月末には通常の販売水準に戻っていく。このタイミングは初の外出自粛要請、緊急事態宣言から解除にいたる期間に相当する。類型Bには醤油、マヨネーズ、サラダ油などの「調味料」、冷凍調理品やアルミホイル・食品包装用ラップなどが含まれており、ステイホームに伴う内食需要が高まった影響が見て取れる。急激なライフスタイルの変化に快適に適応していくための購買行動といえるだろう。また、類型Cはコーヒー、紅茶やスナック、ワイン、ウィスキーなどが含まれる。生活維持や内食需要への対応から、徐々にステイホームの生活を快適にしていくための購買行動がみてとれる。

類型Dは感染拡大後にやや販売金額が減少するが、緊急事態宣言解除に伴い拡大前水準に回復し、10月以降は感染拡大前よりやや増加傾向に転じる商品カテゴリー群である。ここにはマスカラや眉目料(アイシャドウ、アイブロウ等)、乳液、ヘアトリートメントが含まれており、外出制限やリモートワークの浸透に伴い需要が減少したのちに、「withコロナ」への移行に伴う外出機会の増加で需要が回復していった商品といえる。とりわけ、外出時のマスク着用習慣化は、マスクで隠されない目元などへの意識の高まりにつながっていると考えられる。また、ステイホーム中にスキンケア、ヘアケアに意識が向けられた生活者が少なからず存在するといわれており、こうした背景での需要喚起も考えられる。いずれも、コロナ禍への順応期における変化ともいえるだろう

類型A~Dは未曾有の事態かつ行動制約が比較的長期に発生する場合に今後も起こりうる購買変動ともいえる。まずは生存や最低限の暮らしを満たすものをそろえ、変化したライフスタイルに合わせるように商品を揃え、快適な生活を作っていく。そして、状況に適応するに従い利用や購買が減少していた商品も回復していく。また、行動制約で見直されたニーズに基づく消費も生まれていく。このような変遷が、複数カテゴリーの購買変動の共通性を通じて見えてくる。

過去に学び、未来に活かす

新型コロナに限らず、未曾有な事態にいて先読みをしていくことは重要でありながら、過去のデータの延長線にない事象は高度な機械学習モデルを用いても予測は困難である。今回のアプローチのように基本的な欲求が脅かされる状況下(震災やウイルス流行など)での生活者の行動パターンを抽出し、蓄積、参照できる状態にしておくことで、不確実性の高い未来を洞察する上での有益な材料になりうる。例えば、新たな災害・疫病などに遭遇した場合、マーケターは類似した事象における生活者行動パターンを検索・参照することで、今後の生活者の動きや、生活者の動きを受けてどのような施策を講じるべきかを洞察しやすくなる(統計的アプローチと定性的アプローチの融合ともいえる)。こうした蓄積からの洞察と目先で収集した情報を組合せることで、不確実な状況におけるチャンスやリスクの発見につながっていくであろう。


【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2021年6月現在

著者プロフィール

株式会社インテージ事業開発本部DX部 篠原正裕(しのはらまさひろ)プロフィール画像
株式会社インテージ事業開発本部DX部 篠原正裕(しのはらまさひろ)
2005年インテージ入社。
消費財・耐久消費財のデータ解析、消費者パネルデータおよび解析ソリューションの開発に従事後、現職。
市場予測、広告効果測定、マーケティング予算配分最適化などのデータ解析プロジェクトを数多く経験。
データサイエンスと育児の両立に奮闘中。

2005年インテージ入社。
消費財・耐久消費財のデータ解析、消費者パネルデータおよび解析ソリューションの開発に従事後、現職。
市場予測、広告効果測定、マーケティング予算配分最適化などのデータ解析プロジェクトを数多く経験。
データサイエンスと育児の両立に奮闘中。

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