

人口の減少、少子高齢化に加え、直近では値上げと、ここ数年で、国内市場を取り巻く環境は、近年大きく変化しています。
このような中で、「将来の顧客を増やし続けられるような取り組みをしなければ、ブランドが先細りしてしまうのでは」という不安を抱える方も、多いのではないでしょうか。
一方で、短期的な成果につながらない取り組みは軽視され、取り組みが進められないというお悩みも、よく伺います。
本記事では、短期・中長期両方の視点も取り入れながら、持続的成長に向けた戦略策定を行うために、ブランドの顧客構造を点ではなく「線」でとらえたマネジメントフレームをご紹介いたします。
また、実際のデータを例に、シンプルな売上や顧客数の分析からは見えづらいブランドのリスクを発見し、今後取り組むべき注力領域を特定するプロセスをご説明します。本記事の内容が、説得力のある成長プラン策定の一助となれば幸いです。
(本記事は2025年8月21日に実施したセミナー「“選ばれ続けるブランドへ”~購買データが導く成長戦略~」の内容を再構成しております。セミナーの内容について詳しく理解されたい方は、記事後半のリンクよりアーカイブ動画をご視聴ください。)
フレームの詳細を説明する前に、「ブランドの持続的な成長」に必要な要素を整理します。ブランドの売上は、「間口(購入者数)」と「奥行(一人当たりの購入金額)」に分解されることも多いですが、日用消費財において、ブランドを成長させるためには間口の拡大が必要不可欠です。2023年に弊社が実施した分析からも、ロングセラーブランドの成長率は、奥行きよりも間口(購入者数)との相関が強いことがわかっています。(図表1)
図表1

「間口の拡大」は、新規顧客の獲得と、既存顧客の維持のいずれかによって実現されます。同分析からは、成長を続けるブランドは、成長に必要な間口を新規顧客の獲得だけで増やすのではなく、2年3年と買い続けてくれる継続・定着顧客を増やすことでも間口を拡大していることもわかりました。(図表2)
図表2

また、継続・定着顧客ほどブランドの購入金額も高くなる傾向にあり、買い続けてくれる顧客を増やすことは、間口だけでなく奥行きの成長にも貢献します。(2023年の分析について、詳しくは、こちらの記事をご覧ください)
つまり、ブランドの持続的成長を目指すうえでは、単に間口が増えているかどうかだけでなく、以下のような視点を持つことも重要だと考えられそうです。
・どのような顧客が増えている(減っている)のか
・新規顧客だけでなく、継続・定着顧客を増やせているかどうか
・増やせていないのであれば、どこに問題があるのか
上記のような考え方に基づいた、ブランドの顧客構造を分析するためのフレームワークがこちらです。
図表3

このフレームでは、ある期間におけるブランドの購入者を5つのセグメントに分類しています。横軸は継続度を表しており、前期は非購入で直近1期間にブランドを購入した顧客を「新規顧客」、2期間連続で購入している顧客を「継続顧客」、3期間以上連続で購入している顧客を「定着顧客」としています。(図表4)
図表4

また、縦軸は奥行の度合いで区分しています。今回は「購入者内シェア」という指標を採用するパターンをご紹介します。これは、直近の1期間におけるカテゴリの購入金額のうち、自社のブランドがどの程度を占めているか、を表しています。
これら5つのセグメントのうち、ブランドを3期間以上買い続けており、なおかつ購入者内シェアも高い「定着H」顧客は、最終的に増やしたい「重要顧客」と言えるでしょう。
ただ、「重要顧客」は短期的な売り上げには貢献しますが、中長期的にブランドを成長させるとなると、将来的に重要顧客となりうる新規顧客の獲得も必要になってきます。
このフレームをベースに、ブランドを持続的に成長させるために必要な要素を改めて整理すると、以下のようになります。
①新規顧客を獲得すること(新規獲得)
②その顧客に買い続けてもらうこと(継続化)
③指名買いしてくれる、または購入量が多い重要顧客を増やすこと(重要顧客化)
④重要顧客を維持・拡大すること(維持拡大)
このどこかにほころびが生じているのであれば、それはブランドの成長にとってのアラートが出ている状態とも考えられます。
そこで、各セグメントについて、時系列推移の確認や競合比較を行いながら、ブランドの成長に向けて①~④のどこに優先して取り組むべきか、注力領域を判断します。
ここからは、飲料カテゴリのメーカーXを例に、上述のフレームを用いながら、実際にブランドの注力領域を特定する分析の流れをご説明します。
図表5

図表5が示すように、メーカーXは、直近3期間で購買規模が増加しており、特に間口の拡大が好調なようです。続いて、図表6では、先ほどのフレームで、メーカーXの顧客構造を確認してみます。
図表6

まず、人数構成ですが、最も多いのは新規顧客(43%)で、重要顧客である定着H顧客は29%ほどです。一方、金額構成を見てみると、定着H顧客はメーカーXの売上の64%を占めていることがわかります。つまり、定着H顧客は人数こそ少ないが購買規模に占める割合が大きく、メーカーXにとっても彼らは「重要顧客」であると言えそうです。今後も成長を続けるためには、新規顧客を獲得するだけでなく、より長く・多く買い続けてもらうことで、購買規模増加への貢献度の大きい重要顧客へと育成していくことが重要だと考えられそうです。
さらに、各セグメントの人数推移を確認してみます。(図表7)
図表7

購入者数を伸ばしているメーカーXですが、セグメント別に内訳を確認すると、新規顧客の増加による影響が大きいようです。一方で、重要顧客である定着H顧客は、直近の1期間で減少してしまっており、購買規模が増加しているとはいえ、必ずしも楽観視できる状況ではないかもしれません。
先ほどの4つの取り組み領域に当てはめると、「①新規獲得」は好調だが、「②継続化」「③重要顧客化」「④維持拡大」のいずれかに課題がある可能性がありそうです。
より詳しく課題を特定するために、「継続化率」と「重要顧客増減要因」という指標を確認します。
まず、「継続化率(前期の新規顧客のうち、当期もブランドを購入した割合)」ですが、この指標が直近1期間で低下してしまっています(図表8)。新規顧客は増やせているメーカーXですが、獲得した顧客が次の期間も買い続けてくれる割合は減っているようです。
図表8

新規顧客は一人当たりの購入金額が少ない一方で、その獲得には既存顧客の維持と比べ数倍のコストがかかると言われることもあります。そのため、一度きりで終わってしまう新規顧客ではなく、将来的に継続・定着化に繋がる可能性のある新規顧客を獲得できたか、という視点を持つことが重要になってきます。この視点を、本記事では「間口の質」と表現します。限られたリソースで成長を実現するためには、いかに「質のいい間口」を獲得できたか、という視点でも現状を把握し、戦略を組み立てる際の視点に加えていくことが重要になりそうです。
メーカーXに話を戻すと、継続化率が低下している、という状況は、この「間口の質」が低下している、ともとらえることができます。
「間口の質」の改善に取り組むためには、実際に獲得した新規顧客のうち、「継続化した顧客」と「離反してしまった顧客」の属性(性別・年齢・ライフステージ・職業など)や意識・価値観を比較してみることで、打ち手のヒントが得られます。
続いて、「重要顧客増減要因」については、2つの視点から確認します。(図表9)
図表9

ひとつは、前期の購入者内シェアL顧客が定着し、当期に定着Hになった人数、もうひとつは、前期の購入者内シェアH顧客が当期に定着し、当期も定着Hになった人数です。これらはそれぞれ、「③重要顧客化」「④維持拡大」に対応しています。
「③重要顧客化」について、こちらは直近3期間で減少しています(薄いオレンジ色の矢印)。このことから、メーカーXは、ここ数年で顧客の「指名買い」を獲得する力が弱まっている、とも読み取ることができそうです。
続いて「④維持拡大」ですが、こちらは直近1期間で人数が大きく減少してしまっています(濃い赤色の矢印)。このことからは、メーカーXは既存の重要顧客の離反が起き始めている、とも考えられそうです。
重要顧客化や、維持拡大に取り組むためには、継続化率の改善同様に、対象となるセグメントの属性や意識を比較することで打ち手のヒントが得られそうです。
さらに深い顧客インサイトを得るためには、定性調査も有効です。
顧客を動かすためのブランド価値は、数少ない重要顧客を深く理解することで見えてくることがしばしばあります。
ここまでご紹介したような考え方をベースに、購買パネルとそれに付随する属性・意識などのデータで仮説を作り、仮説を持った状態で重要顧客へのインタビューに臨むことで、打ち手の解像度をさらに高めることができます。
本記事では、持続的成長を目指す日用消費財ブランドが、短期・中長期の両視点を取り入れながら成長戦略を描くためのマネジメントフレームをご紹介しました。本記事の内容を簡単に整理すると、以下のようになります。
・ブランドの成長には間口拡大は不可欠だが、成長を続けるブランドは、新規顧客を獲得すると同時に継続・定着顧客を増やすことで間口を拡大している、という特徴がある
・顧客を新規・継続・定着に分解することで、ブランドのコンディションを「線」で把握し、注力領域を特定することができる
・課題への打ち手については、購買データに紐づく属性・意識などのデータから仮説を得たり、仮説を持った状態で重要顧客などにインタビューを行い仮説検証したりすることで打ち手の解像度を上げていくことができる
2025年8月21日に実施したセミナーでは、この「属性・意識データから打ち手のヒントを得る」ための分析についてもご説明をしておりますので、詳しく理解されたい方は、ぜひアーカイブ動画をご視聴ください。
また、2026年2月25日には、売上を支える「習慣購買」を増やすヒントを得るための定性調査の手法についてご紹介するセミナーを開催予定です。「習慣化」にご課題感をお持ちの方は、ぜひご参加ください。(お申し込みはこちらから)
本記事でご紹介している分析フレームをはじめ、インテージでは生活者を主語としたビジネスマネジメントの実現を支援するソリューションをご用意しております。
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