ビッグデータ活用事例【後編】「データアクティベーション」によるビッグデータ活用3つの事例
そのままでは活用が難しいビッグデータを、マーケティング領域で活用できるデータに変える「データアクティベーション」。様々なビッグデータを集めて、マーケティングリサーチのノウハウで足りない部分を推計することで、市場全体の動向や生活者の全体構造までわかるデータにして活用価値を拡張します。
【前編】ではデータアクティベーションの概念や実現方法、メリットなどを解説しました。【後編】では実際に企業に導入された事例をご紹介します。
目次
データアクティベーション事例(1)
小売のID-POSデータから購買ポテンシャルを推定する
小売店が収集しているビッグデータ「ID-POS」(※1)のデータアクティベーションについて、インテージの「genometrics」(ゲノメトリクス)というサービスによる事例を紹介します。
小売業の企業が所有する「ID-POS」は自社のチェーンで購入した顧客限定のデータです。また、人に関する情報はあまり詳細に収録していません。このため、顧客がどういう気持ちでこのシャンプーを購入しているのか、どういう好みを持っているのか、競合の小売チェーンとどう使い分けているのかといったところまでは分析できません。
このデータに対し、インテージの「SCI」(※2)というデータを用いてデータアクティベーションを行います。このデータは、継続的な消費者調査で、協力モニターがどのような意識や好みを持っているのか、いつ・どこで・何を買っているのかまでわかっています。
ID-POSの一人ひとりの購買履歴データとSCIのデータを疑似的に繋ぐことで、ある人のID-POSデータから「この人は子供がいて健康志向が強く、このカテゴリーをこれくらい買う人だ」といったヒトトナリや買い物のポテンシャルを推定することができます。
同じ物を勧める時でも、「体にいい」が響く人もいれば、「本格的な素材」が響く人もいます。何をどういう言葉で勧めると喜んでもらえる人なのか、といったヒトトナリがわかれば、価格によるプロモーションではなく、相手にとって思いがけない物を、心に響くメッセージで勧めるという「価値観」によるプロモーションが実現できます。
図1 genometricsによるID-POSデータの拡張イメージ
ヒトトナリや買い物のポテンシャルから「この人はもっとプッシュできるのではないか」と判断でき、さらに「この人はうちでは買っていないが他の店だとこういう物を買っている」といった行動や価値観がわかれば、「この人たちはこういう価値観を持っているから、こんな商品をお勧めすべき、広告やメルマガではこんなコピーが響く」といった具体的な仮説が導けるようになるのです。
自社の顧客に対してはメルマガやポイントアプリなどを通して直接的にメッセージを届けることができるので、効果的なプロモーションを実行できます。
この「genometrics」は小売企業への導入がスタートし、実際に店舗の売り上げ向上に貢献したという事例も出てきています。
ID-POSの一人一人のデータから顧客のヒトトナリを推定してタイプ分けすることができれば、個別の店舗単位での顧客特性を理解することができますし、メーカーと小売でターゲット像を共有することで、顧客起点で商品開発から販売、プロモーションまでを行うことが可能になります。この取り組みもトライアルが始まっています。
データアクティベーション事例(2)
企業サイトへのWebアクセスデータからユーザー像を推定する
続いて、企業サイトのWebアクセスデータのデータアクティベーション事例を紹介します。
インテージでは車に関する価値観と購入プロセスを調査したデータ「Cat-kit」(※3)と、サイト行動ログのデータ「i-SSP」(※4)を独自で収集しています。この2つを組み合わせて自動車市場の全体像を捉え、自動車メーカーの企業サイトへのアクセスログという全数データとつなぐことで、自社サイトに来ている生活者がどういう人たちなのかを推定しています。
図2 サイトのアクセスログデータの拡張イメージ
キャンペーンの後にはどういう人が来たのか、自分たちの狙い通りだったのかを評価し、狙いとずれていれば、今後どういう展開をすればいいのかを考える、というPDCAプロセスを回していけます。
さらに、ドコモとインテージの合弁会社、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの位置情報ビッグデータ「モバイル空間統計」(※5)をつなげることで、それぞれの車種のユーザーが訪れている場所を把握できます。そこから他社も含めた各ブランド・ユーザーのライフスタイルを解析し、マーケティングのアプローチを考察しています。
■データアクティベーション事例(3)
小売店舗の商圏内の販売ポテンシャルと買い物客の特性を推定する
前出の「モバイル空間統計」は1時間ごとに基本属性別の人口動向がわかるので、店舗の500mメッシュの商圏に、どういう属性の人が訪れているのかを把握できます。さらに、店舗のデータベース「i-Store DB」(※6)を使えば、同じ商圏内にどのような競合店舗があるのかといったこともわかります。
これらの全体を示すデータと、小売企業が所有している店舗のID-POSデータを組み合わせることで、「商圏内にどのくらいの購買ポテンシャルがあり、店舗ではどれだけ取り込めているのか」、といった評価が可能になります。さらに、どのような人が訪れているのかというヒトトナリの情報を元に、顧客の取り込みを強化するための施策検討を行えます。
図3 店舗の商圏における購買ポテンシャル推定イメージ
このように、企業の持つ全数データを様々なデータベースでアクティベーションしていくことで、全体のポテンシャルを捉えた評価、生活者のヒトトナリを捉えた施策検討につなげていくことが可能です。
データアクティベーションが活きる会社とは?
データアクティベーションの導入メリットが大きいのは、ビッグデータを所有していて、生活者のヒトトナリや競合を含めた全体像がわかればもっと活用できそうと感じている企業です。
行動情報・Web上のログ履歴・ECの購買データ・リアル店舗の購買データ・通販会員の購買情報などは、データアクティベーションで価値化できます。
今後はIoT領域のビッグデータ活用も期待を集めています。センシング系のデータやスマートテレビのような機器系のビッグデータも、今後アクティベートしてマーケティングに活かせる可能性の大きい領域です。
データアクティベーションに必要なこと
データ活用で一番重要なのは、まず「何のためにデータを使うのか」という目的を明確にすることです。データを使って何かできるんじゃないか、せっかくデータがあるからどうにかできないかといった曖昧な目標設定でスタートすると、迷走して思い通りに進まないことが多いものです。
そのためには、顧客満足度向上を目指すのか、売上アップなのか、顧客とのリレーション強化なのか、など、データ活用で課題を解決する領域を明確にする必要があります。
成長分野だけにビッグデータを巡る環境も目まぐるしく変化しています。従来のマーケティングリサーチの進化、新しいビッグデータの登場、第三者のオープンなDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の公開など、様々な方向性で変化が続いています。そんな激動の波を活かすためには、その時々の全体観を持ったデータ戦略が必要で、全体がわかるパートナーと一緒に考えていく必要があります。
データアクティベーションの基本となるヒトトナリ理解には、カスタマージャーニーとしての購買前・購買後も含め、ベースとなる生活全体を捉えて深めていく必要があります。
その手段としては生活者コミュニティ調査や表情解析などのノンバーバルな調査手法、インサイトを深掘りしていく定性調査など、行動データだけではなく、意識データの活用も欠かせません。そうした深い生活者理解がビッグデータの翻訳、価値化につながります。これはつなぎ手であるマーケティングリサーチ会社が進めていくべきことです。
一方、企業のマーケターも、社内の調査部門、データを所有している部門、情報システム部門などとのコミュニケーションが必要で、企業全体でデータ活用をどう考えていくのかが問われています。その中で、自社のデータ整備・他社データの利用・マーケティングリサーチとの組み合わせなど、総合的なデータ活用を考えていかなくてはなりません。
おわりに
自社データのみを使った自社顧客の「刈り取り」は、デフレを生みやすくなります。そういう企業が増えれば、全体もデフレに陥ります。日本の生産性を上げようと考えると、市場全体が見渡せるデータを流通させる必要があります。
これまでも市場全体がわかるようにリサーチパネルが始まり、各社が使える社会資産になっています。ビッグデータも同様に社会的な価値を高めるためには、データホルダの許諾や社会的な合意、国や行政の後押しが欠かせません。
ビッグデータが社会資産となることで多様なビッグデータが流通し、それらのデータアクティベーションが進むことで情報・データの流れが生まれ、モノの流れを生み、お金の流れを生む。データアクティベーションはそんなビッグデータのエコシステム作りに寄与する手段と言えるのではないでしょうか。
この記事の関連ソリューション
Genometrics(ゲノメトリクス)
Genometricsの活用で、性別・年代だけでは見えにくいお客様の価値観まで把握できます。一歩踏み込んだ属性や、潜在的な購買規模(ポテンシャル)も含め、ID-POSデータだけでは把握できない様々なプロファイルを見える化します。
※1 「ID-POS」とは、レジでの購買履歴(いつ、どこで、何を、いくつ、いくらで購入)というPOSデータに対し、会員登録時などに判明した購入者属性(年齢、性別、住所など)を関連付けたビッグデータ
※2 「SCI」(全国消費者パネル調査)とは、インテージが1964年から独自に行っている日本最大の消費行動調査。全国15歳~79歳の男女52,500人について、メディア接触、購買行動だけでなく、価値観まで継続調査して把握
※3 「Car-kit」(カーキット)とは、インテージがマンスリーで実施しているシンジケートデータ。毎月約60万人に前月の自動車情報を、さらに新車と中古車の契約者約5000人に車の購入理由からメーカー・車種選定といった購入プロセスを詳細に調査
※4 「i-SSP」(インテージシングルソースパネル)とは、インテージが行っている同一個人からPC・モバイル・テレビなどのメディア接触データと購買データを収集する国内最大規模のクロスメディア調査
※5 「モバイル空間統計」とは、ドコモの携帯電話ネットワークを使用して作成される位置情報ログデータ
※6=「i-Store DB」とは、インテージが独自に収集した、全国小売チェーンの位置情報付店舗データベース。 主要小売業約1,200チェーン、約88,000店の所在地、電話番号、売り場面積、駐車場台数、営業時間、店舗商圏の居住者特性等を収録
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(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
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