観光マーケティングに欠かせないデータ分析の視点とは?
東京オリンピックを2020年に控え、日本各地で国内外の観光客を誘致しようとする動きが高まっています。観光地域づくりは“地方創生“につながる一大テーマとして、政府も大きな政策資源を投入しようとしています。
これからの観光地域づくりに強く求められているのが、客観的なデータに基づいたマーケティングPDCAです。DMO(注)では「データの継続的な収集・分析」は団体登録要件とされているほか、自治体や民間旅行会社など観光地域づくりに関わる多くのプレーヤーが、多様化する旅行者ニーズに応じるため、旅行者をより深く・正しく知ることの必要性を認識し始めています。
この記事では、観光マーケティングの観点で必要とされるデータ分析の視点と分析例を、国内旅行・観光市場の実態を「行動」と「意識」の両面から精緻に捉えるデータサービス「うご-kit」を用いて、ご紹介します。
(注)Destination Management/Marketing Organization 観光マーケティングを担う官民一体の観光地経営体
季節で異なる旅行者の属性・ニーズを捉える
観光施策において旅行の季節性は考慮すべき重要な要素の一つとされています。
安定的な観光経営を図るために、集客の平準化を課題とする地域は少なくありません。この課題への取り組みの一歩として、観光客数や宿泊者数といった旅行者の動態変化を理解することはもちろん必要ですが、旅行者の属性や意識の変化にも目を配ることで新しい気づきにつながることが期待されます。
例として、京都府への旅行者について、夏の旅行シーズン(8月)と冬の旅行シーズン(12~1月)それぞれの旅行者の属性や意識の違いを、データから見てみましょう。
夏の旅行者には20代以下の若い男女が特に多く見られ、冬の旅行者では60代の男性や30代以上の女性の割合が増加していることがわかります。(図表1)
また、夏は大阪、京都といった近場からの来訪者が多いのに対し、冬は愛知、東京、神奈川といった近畿圏外からの来訪者の割合が増加していることもわかります。
図表1
さらに、旅行に期待した事柄を比べたところ、夏は冬と比べて「歴史や文化に触れる」ことや、「友人/恋人と共に旅行を楽しむ」ことに期待している人が多く、逆に冬は「リフレッシュ」への欲求や「食」への期待が夏よりも高くなっていました。(図表2)
図表2
このように同じ旅行先であっても、季節によって旅行者の属性が異なり、年代による価値観の違いのためか、旅行先に求めるものにも違いがみられることがわかります。当然、集客に寄与している行事・イベントも違うことが想定されます。
京都市では観光客が最も多かった月と最も少なかった月の差が、2003年の3.6倍から2015年に1.4倍に縮まったとされています(注)。既に季節に応じた集客のシナリオを持ち、実行した結果と考えられます。旅行者の特性を示す上記のようなデータを継続的に追跡することは、集客のシナリオが季節ごとのターゲットや訴求資源が想定通りの成果をもたらしているのかを検証する上で有意義といえます。また集客の平準化の手がかりをこれから探ろうとしている地域にとっても、季節ごとの旅行者のニーズや来訪可能性が高い旅行者層を探る上で、基礎的な情報となることでしょう。
(注)京都市「京都観光総合調査 平成27年(2015年)1月~12月」
旅先の行動パターンを知る
旅行者の行動パターンを知ることで、これまで見過ごされてきた周遊ルートやその背後にある旅行者のニーズ・期待の気づきにつながることがあります。さらに、こうした行動パターンは旅行者の年代や居住地からの距離など、旅行者の属性によっても変わってくることが想定されます。
「うご-kit」の持つ位置情報と、旅行者属性情報を使って、実際に、2017年8月に京都市に旅行で訪れた人の行動パターンを見てみましょう。
まず、各エリアにどれだけ旅行者が訪れたかをあらわすのが図表3です。人が観光することの多い真っ昼間、14時台のデータで見てみました。
図表3
アクセスがよく、買い物にも便利な祇園エリアの訪問者が圧倒的に多く、次いで嵐山エリア、清水寺エリアと続いています。
次に、それぞれのエリアの旅行者にどの年代層が多いのかを比較してみたところ、特徴的な違いが見られたのが京都御所エリアと伏見稲荷エリアでした。(図表4)
図表4
伏見稲荷エリアは若年層の多さが目立ち、10代と20代で47%と旅行者の約半分を占めていました。一方で、京都御所エリアは40~50代の来訪が特に多いという結果が見られました。
伏見稲荷エリアにある伏見稲荷大社はフォトジェニックな観光スポットとして千本鳥居が有名で、旅行口コミサイトのトリップアドバイザーの「外国人に人気の日本全国・観光スポット」の最新ランキングでも1位を獲得する人気スポット。SNS映えの要素が若年層を引き付けているのでしょうか。一方、京都御所エリアはゆっくり庭園や歴史の舞台の内部を味わうような場所です。楽しみ方の違いが異なる客層を呼び込んでいることが確認できます。
旅の楽しみ方が違えば、次に行く先も変わってきます。図表5は京都御所エリア、伏見稲荷エリアを訪れた人がそれぞれ次にどの観光地(京阪神の主要観光エリア)へ移動したかをあらわしています。
図表5
伏見稲荷エリアを訪れた人は、京都御所エリアを訪れる人と比べると、次に道頓堀エリアやUSJエリアといった大阪府の観光スポットに移動することが多く、旅における行動範囲が比較的広い傾向にあることがわかります。
このような動線を踏まえることは、集客するターゲットに応じた周遊ルートの磨き上げにも役立ちます。また、特定のルートを利用する移動者が一定規模みられた場合、人気観光ルートとして積極的なプロモーションの対象としても良いかも知れません。
ターゲット層の旅のしかたを理解する
誘致しようとする旅行者のターゲットを定め、ターゲット層の理解を深めることも、観光マーケティングの重要なプロセスの一つです。各自治体やDMOは「首都圏在住の20~40代女性」「一人旅を好む旅行者」「SNSや口コミなどによる情報発信力が強い女性層」など、性別・年代以外にもさまざまな切り口でターゲットを設定し、誘致を目指しています。
ここで、“首都圏在住の20~30代独身女性”をターゲットと仮定して、旅に関する意識や実態をみてみましょう。
国内旅行の時期として8月と並んで「時期は決まっていない」という人が多いことや、旅行検討時の情報源として、Facebook、InstagramなどのSNSを利用する人が2割近くいることが、この層の特徴としてみられます。(図表6)
図表6
また、国内旅行に期待することとして、思い出づくりしたい気持ちや旅先で刺激的な体験を求める気持ち、見たものや体験したことを発信したい欲求などが全体と比べて特に高いことも特徴です。(図表7)
図表7
このような特徴を生かし、例えば「普段味わえない刺激的な体験をしたい」ニーズをくすぐるような現地ツアーを用意し集客することができれば、SNSをよく利用する人たちですので、旅行の様子や感想を写真とともに発信してくれるかも知れません。旅先の、不特定多数に向けたアピール効果も期待できるのではないでしょうか。
ターゲットに訴求する観光客の受け入れ環境やプロモーションの在り方を検討するにあたっては、ターゲット層の行動特性やその背後にあるニーズ・興味・嗜好の理解が欠かせません。旅行者の詳細な属性やアンケート結果を基に、多様なセグメントを切り出せるデータを用いて分析することが、これらの理解を手助けするものとなるでしょう。
同一人物の態度の変化を追う
この記事で使用した「うご-kit」のデータによると、夏・冬両方で回答した772名のうち、夏・冬ともに同じ県を旅行している人は全体の15.1%いることがわかりました(注)。更に夏のアンケートで「行ってみたいエリア」として挙げていたエリアに冬に旅行で行った人は38%に上っていました。
同一人物の意識・態度を追い続けることで、特定エリアを繰り返し来訪するファン層の割合や「行ってみたいエリア」を実際に来訪する確度、さらにどのような人たちがそういった行動をとるのかを明らかにしていくことは、将来的には旅行行動の予測につながることが期待されます。観光地域ごとにこうした予測が可能になれば、アンケート回答を基にリピートの可能性や次回来訪の可能性が高い層を狙ってWeb広告を配信をするといった、プロモーションへの活用も期待されます。
(注)出張目的、帰省目的の移動者は回答から除かれている。
これからの観光マーケティングに求められるデータの活用。ご紹介した「季節性」、「行動パターン理解」「ターゲット理解」、「態度変容の追跡」の他にも「他エリアとの比較」などさまざまな視点がありますが、共通して追うべきは旅行者の行動やその裏側にある価値観・ニーズです。お客様である旅行者のデータに基づいた観光地域づくりが求められています。
この分析は、インテージが提供する「うご-kit」のデータの一部を用いておこないました。「うご-kit」は位置情報と詳細属性とアンケートを組み合わせ、行動と意識の両面から国内旅行・観光の実態を捉えることが可能な、旅行観光マーケティング支援を目的としたデータサービスです。
豊富なアンケート結果を用いて多様な切り口で実態が捉えられる他、位置情報を組み合わせて分析することで、周遊実態やエリア人口の時系列推移など、より精緻な分析も可能となります。また、分析結果を基にして有望なターゲット層に広告配信を行うことも可能です。
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