ECサイトでの買い物にモバイル化の影響は?EC利用実態のいま
すっかり生活に定着した様子のネットショッピング。総務省の調査では2015年の時点でネットショッピングの利用率は70%以上となっていました(図表1)。
年代別に見ても、最も低い20代で67%、40代以上は70%以上と、各世代で多くの人が利用しているという結果でした。ネットショッピングが広く浸透していることがわかります。
図表1:ネットショッピングの利用率
(出典)総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年)
一方で以前この記事(スマホの利用率はどのくらいまで伸びた?2016年度のスマホ利用実態)でご紹介した様に、デバイスの利用率は2016年にスマホとパソコンが逆転しています(図表2)。
図表2:デバイス別の利用率推移
データ: マルチデバイス利用調査 (2016年12月実施) RDD調査
※各年同様に調査を実施
対象:15歳~69歳男女 計9,000名
このデバイスの移り変わりは買い物の仕方に影響するのでしょうか?
インテージでは、調査協力モニターの日々の買い物行動ログを捉えたデータベース、SCIを用いて、いまのEC利用実態を追ってみました。
とりあえずウィンドーショッピング? ECを利用するきっかけ
そもそも、ECで買い物をするのはどういう時なのでしょうか?
インテージの自主企画調査によると、ECで買い物をする時の主なきっかけは「なんとなく・特に決まっていない」が35.2%と、最も多く見られました(図表3)。なんとなくECを見てみて、買いたいものに出会ったら買うという行動が習慣化している人が多いようです。
図表3:ECサイト利用動機
データ:EC利用実態調査(インテージ自主企画調査 2016 年4月実施)
対象:SCIモニター42,535名 20~60代
次に多かったのが、「このサイトで購入している商品がなくなりそうになったとき」の21.2%。Amazonダッシュボタンが話題になりましたが、買うものは決まっているから店頭に行って選ぶまでもない、といった人は多いようです。
他に上位で目立ったのは、「重い物や大きなものを買うとき(18.8%)」「買い物に出かけられないとき(14.8%)」といったECならではの利便性が反映されたものでした。
一方で、「電子メールやメルマガを受け取ったとき(15.8%)」「WEB広告・バナー広告を見たとき(7.8%)」という人も多くみられました。ECサイトからのアプローチが買い物に導いている様子がわかります。
このデータを性年代別に比較したところ、
・「なんとなく・特に決まっていない」は若年層ほど、特に男性で多い
・「このサイトで購入している商品がなくなりそうになったとき」は中高年の主婦層で多い
といった傾向が見られました(図表4)。
「重い物や大きなものを買うとき」「買い物に出かけられないとき」といった、ECならではの利便性を活かした使い方は、子育て世代の主婦層である30代女性を中心に多く見られました。若年層、特に男性が非計画的にECを利用することが多いのに対し、主婦層は計画的に利用する傾向にあるようです。
また、ECサイトからのアプローチに反応して買い物をするという「電子メール・メールマガジンを受取ったとき」が高かったのは、男女とも50~60代という結果でした。
図表4:ECサイト利用動機(性年代別)
データ:EC利用実態調査(2016 年4月実施 インテージ自主企画)
対象:SCIモニター42,535名 20~60代
KeyPoint1
ECで買い物をする時のきっかけとして最も多いのは「なんとなく・特にきまっていない」。なんとなく訪問して買いたいものに出会った時に買っている。
普段の買い物をすることの多い主婦層は、重いものを買いたいときや買い物に出かけられないとき、決まったものを買うので店頭で選ぶまでもないとき、といったECならではの利便性を活かした計画的な買い物も多い。
普段の買い物ではどのくらいECが利用されている?
食品や日用雑貨品といった普段の買い物。ドラッグストアでも牛乳などの日配品や生鮮が買えるなど、店頭での買い物が便利になっているいま、普段の買い物はどのくらいEC化されているのでしょうか。
SCIの購買ログデータを使って、ECで普段の買い物をしたことがある人の割合を調べてみると、52.6%の人がこの1年間にECで食品・日用雑貨品の買い物をしたことがある、という結果が見られました(図表5)。
さらにEC利用者が1年間にどれだけECで普段の買い物をしたか、その回数を見てみると、平均で17回と月1.5回程度でした。これはリアル店舗、例えばスーパーの126回と比べるとかなり少なくなっています。
図表5:チャネル利用者の年間利用回数※
データ:SCI (※食品・日雑品の買い物)
集計期間:2016/8~2017/7
利用回数の分布を見てみると、ECで週1回以上のペースで普段の買い物をするというヘビーユーザーが利用者の10%いる一方で、利用回数は月1回未満というライトユーザーが利用者の62%を占めていました(図表6)。多くの人にとっては日常使いのチャネル、とまではいかないようです。
図表6:ECの年間利用回数※の分布
データ:SCI (※食品・日雑品の買い物)
集計期間:2016/8~2017/7
KeyPoint2
この1年にECで日常の買い物をした人は20~60代の半数超(52.6%)。そのうち毎週ECで買い物をする人は10%いるが、62%は月1回未満。
スマホで買うときとパソコンで買うとき。買い物のしかたは違う?
前述したとおり、2016年はスマホの利用率がパソコンを上回りました。
各社のサイト設計もモバイルファーストへとシフトしてきています。そんな中で普段の買い物はどのくらいモバイル化が進んでいるのでしょうか。
インテージではSCIのモニターのうち8,732名に対し、11/28~12/11の2週間におけるECでの買い物1回1回について、パソコンとスマホどちらを使ったのか、さらに商品一つ一つについて事前の購入予定の有無と購入理由を調査しています。
このデータを集計したところ、2週間の3461回分の買い物におけるスマホ利用の割合は14%でした。対してパソコンが82%、タブレットが4%という結果でした(図表7)。パソコンで買うケースがほとんどのようです。
図表7 EC利用時のデバイス
データ:SCI計画購買データ
集計期間:2016/11/28~2016/12/11
以前こちらの記事でモバイルサイトとパソコンサイトの使い分けを捉えましたが、その際に見られた、「多くのサービスはスマホでの利用率が高まっているなかで、ECはパソコンで利用されることが多い」という傾向に当てはまります。
図表8 【参考】スマホとパソコンのECサービス使い分け実態
データ:i-SSP データ期間:2016年4~6月
商品の選びやすさなどからモバイル化が進んでいないとみられるECですが、使い勝手が異なって感じられるパソコンとスマホでは買い物の仕方は違うのでしょうか?
1回の買い物で使う金額を比べてみると、パソコンの方が高いものの、それほど大きくは変わりませんでした。
買うもののバラエティ(商品の種類数、カテゴリーの種類数)もそれほど変わらず。むしろ、買う金額が少なめなスマホの方がバラエティはやや多めという結果になりました。
図表9 デバイス別のEC利用実態
データ:SCI計画購買データ
集計期間:2016/11/28~2016/12/11
実は、スマホで日常の買い物をしていた人の多くは、20~40代の女性でした(図表10)。
この世代はテレビよりもモバイルの接触時間が長い、モバイルが生活により密着している人たちです(参考記事:テレビ視聴実態のいま~視聴ログに見る「テレビ離れ」と逃げ恥の視聴者ジャーニー)。
図表10 デバイス別EC利用者属性構成
データ:SCI計画購買データ
集計期間:2016/11/28~2016/12/11
スマホだからと品数が絞られるということもなく、パソコンと遜色なく買い物がなされているのは、サイトが使いやすくなってきていることに加え、スマホ利用に親しんでいる層がメインの利用層だから、ということでしょうか。
続いて、パソコンで買うときとスマホで買うとき、それぞれ何が買われているのかを比べてみました。
図表11 ECデバイス別カテゴリーランキング
データ:SCI計画購買データ
指標:バスケット出現率 集計期間:2016/11/28~2016/12/11
1位はパソコン、スマホ共に冷凍調理品という結果になりました。特にスマホでは、ほぼ2回に1回の確率で買われている、という結果でした。冷凍水産品・冷凍農産品も上位に入っており、重くて品質管理面でも持って帰りにくい冷凍食品がECで買われやすいことがわかります。
また、そもそも買う機会の多い牛乳やヨーグルト、豆腐類、納豆といった日配品はパソコン、スマホに共通して上位に入っていて、パソコンとスマホで買うものが違う、ということもあまりないようです。
例外として違いが見られたのは、パソコンで5位に入った健康食品でした。これはメインユーザーの中高年がパソコン利用者に多いためと考えられます。
さらに、いくつかの商品について、どの段階で買うことを決めたのかを比べてみました。リアル店舗での買い方と比べるために、スーパーでの買い方も並べた結果が図表12です。
牛乳をはじめとした日配品は「もともと買う商品までを決めていた」というケースが多数を占めていて、「買うつもりはなかったけれどついで買いした」というケースがスーパーで買う時よりも少ないことがわかります。
ECで「どの商品を買うかは見て決めよう」と、サイト上で商品を選ぶつもりで買い物をすることが少なく、いつものモノで済ませることが多いようです。この傾向はスマホで特に顕著に見られました。
一方、最も多く買われることが多かった冷凍調理品は、「そもそも買う予定はなかったのに買った」というケースが多く見られました。この場合、何が購入の動機になるのでしょうか(図表12)。
図表12 ECデバイス別 計画購買実態
データ:SCI計画購買データ
集計期間:2016/11/28~2016/12/11
指標:バスケット構成比
銘柄事前決定:ログイン前から、この商品(ブランド)を買うことを決めていた
カテゴリー事前決定:ログイン前から、カテゴリーだけ決めていた
非計画:ログイン後、画面の商品や品揃えなどを見て決めた
もともと冷凍調理品を買うつもりがなかったというケースについて、買ったきっかけを聞いたところ、その理由の1位は買い置き用でした(図表13)。「もともと考えてはいなかったけれど、どうせ買って持ってきてもらうならば保存が効き、重たい冷凍食品を買ってしまおう」と思いつく、ということが多いようです。
また、商品情報を見て買う気持ちになったから、というのも大きな理由になっていました。ECでの商品情報の訴求効果がわかります。
図表13 冷凍調理品非計画購買時の購入理由ランキング
データ:SCI 計画購買データ
集計期間:2016/11/28~2016/12/11
指標:バスケット構成比 ※上位5項目のみ掲載
図表13は冷凍調理品に限定したものですが、同じく「買うつもりがなかったのに買ったきっかけ」のデータを冷凍調理品以外のいくつかのカテゴリーについて見てみたところ、「商品情報を見て買う気持ちになったから」はパソコン、スマホそれぞれのデバイスで購入理由ランキングの上位に入っていました。とはいえ、必ずしも、パソコンの方がスマホよりも商品情報が効きやすい、という決まった傾向は見られませんでした。
ECにとって商品情報は、どちらのデバイスで買うときも同様に重要な要素と言えそうです。
KeyPoint3
スマホで買う人の方が「いつものもの」に固定しがちという以外、パソコンで買うときとスマホで買うときの買い物の仕方に大きな違いは見られない
日常の買い物をスマホで、という割合はまだまだ少ないですが、スマホ慣れした人たちが使い出しているという様子が見られました。
店頭やパソコンで買うときと比べ、日配品(日持ちしないデイリー商品)で買う銘柄を固定する傾向はありましたが、「スマホだから決まった買い物をする」というほどではなく、商品情報を確認しながら予定外のものを買ったりしているようです。
とはいえ、ユーザーの数はまだ限定的。パソコンの利用率が下がるなか、スマホへのシフトは進んでいくのでしょうか。
今回の分析は、自主企画のEC利用実態調査結果とSCIデータ、SCI計画購買データ、をもとに行いました。
【EC利用実態調査(自主企画調査)】
調査手法 インターネット調査
調査地域:全国
対象者条件:弊社SCIモニターの15-69 歳の男女
標本サイズ:42,535
調査実施時期:2016年4月20日(水)~2016年5月6日(金)
【SCI】
全国15歳~79歳の男女52,500人の消費者から、継続的に収集している日々の買い物データです。消費者の顔を詳細に捉え、消費者を起点としたブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただいています。
【SCI計画購買データ】
SCIのモニターが買い物データを入力する際に、その買物について追加で質問できる調査サービスPlus3を利用したデータです。
調査地域:全国
対象者条件:20-69 歳の男女
標本抽出方法:弊社SCIモニターのうち、15-69 歳の男女
標本サイズ:8,732
調査実施時期:2016年11月28日(月)~2016年12月11日(日)
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