
※この記事は経済産業所(RIETI)のコラムに一部加筆・修正して掲載しています
総務省の2023年度の「ふるさと納税に関する現況調査」によると、ふるさと納税寄附額は約1兆1,175億円、納税寄附件数は約5,894万件となり、いずれも過去最高を更新しました(注1)。これは制度開始年の2008年と比較して、寄附額は約137倍、寄附件数は約1,091倍に相当します。また、ふるさと納税の利用者数も初めて1,000万人を超えました(注2)。寄附額、寄附件数、利用者数のいずれもが年々増加傾向にあり、2024年度も同様の拡大が見込まれます。
私たちは2022年度、2023年度のふるさと納税に関する調査を行い、その結果を発信してきました(注3)。今回も引き続き、全国約1万人を対象に、2024年度の「ふるさと納税実態調査」を実施しました。
例年8月頃に総務省が公表する「ふるさと納税に関する現況調査」よりも早く最新動向を明らかにし、2025年度のふるさと納税の傾向も探ります。
これまでのふるさと納税実態調査の記事はこちらからご覧ください。
図表1は、2024年1月から12月の間にふるさと納税を利用した10,882人を対象に、寄附した時期を尋ねた結果です。昨年調査における2023年1月から12月にかけてふるさと納税を行った10,860人の回答結果をあわせ、比較できるようにしました。
令和6年能登半島地震が起きた2024年1月から3月は2023年の同時期よりもわずかに高く推移しています。最新の情報(2025年5月4日)によると、能登半島地震をきっかけとして、石川県内の2024年度の寄附額は県と18市町で過去最高となり、前年比3倍となりました(注4)。地域の応援の手段として、ふるさと納税の活用が定着しています。
2023年と2024年の大きな違いは、制度変更の有無です。2023年10月からは、各自治体が寄附を募る際の費用について、付随費用も含めて寄附金額の5割以下とするよう制度が見直され(注5)、寄附額の実質的な値上がりへの懸念が広がりました。その影響から、制度変更直前の2023年9月には駆け込み利用が増加し、寄附の割合は28.5%と12月に次ぐ高水準となりました。一方で、2024年9月は同様の動きは見られず、その分の需要が12月に集中しています。
図表1
ふるさと納税を行った人の割合は、両年とも12月が最も高く、41.1%と50.6%でした。所得税および住民税の控除を受けるためには、申し込みと支払いを12月31日までに完了する必要があるためです。加えて、12月は給与収入が確定し、控除上限額を正確に把握できるため、寄附額の調整がしやすい時期です。寄附を先延ばしにしていた層と、上限額を確認してから寄附する層が重なり、例年12月に寄附が集中しています。
さて、2025年度のふるさと納税制度では、10月から「寄附に伴ってポイントなどを付与する事業者を通じた募集」が禁止されます(注6)。これは前回の制度改正以上に、利用者にとっての“お得感”を大きく損なう内容です。
このため、2025年度は例年の12月の駆け込み需要に加え、制度変更前となる9月末までの駆け込み寄附が一層強まることが予想されます。
ふるさと納税を行うには、まずいずれかのポータルサイトに会員登録し、そこから返礼品を選び、手続きするのが主流です。そこで、2024年度のふるさと納税で、どのポータルサイトが「知られ、選ばれ、満足された」のかを調べてみました。図表2の横軸の認知度は回答者数(n=10,882)に占める、各サイトを知っている人数(認知人数)の比率です。縦軸の利用率は、各サイト認知人数に占める利用者数で、利用率の順位を上位6位まで表示しました。また、バブル(円)の大きさは、「1番満足したサイト」として選んだ人数で、満足度を表しています。
図表2
認知度が最も高かったのは「さとふる」(75.4%)ですが、利用率は30.5%で3位でした。一方、「楽天ふるさと納税」の認知度は53.7%で4位ですが、利用率は70.0%で3年連続1位となり、群を抜いて高くなっています。満足度においても、「楽天ふるさと納税」が3年連続1位となりました。昨年と比較して順位が上昇したのは、3位の「dショッピングふるさと納税百選」(利用率30.5%)と、6位の「JRE MALLふるさと納税」(利用率26.4%)でした。
ここで注目すべきは、「Amazonふるさと納税」です。2024年12月19日にサービスを開始し、わずか1カ月未満のサービス展開でありながら認知度は5位に入り、その影響力の大きさがうかがえます。
2025年度は、アマゾンをはじめとする新たなポータルサイトの出現やコンビニ業界の参入、10月からのポイント等の付与による寄附募集の禁止により、ポータルサイト間で差別化の手段が多様化し、新たな競争が予想されます。
図表3は、2024年1月~12月にふるさと納税を利用した10,882人に対し、「ふるさと納税で選んだ返礼品のジャンル」についてすべて回答してもらった結果です。
図表3
1位は「魚介・海産物」、2位「肉」、3位「米」、4位「果物」で、3位以下は2023年と同じ順位でした。注目すべきは1位の変化で、過去2年連続で1位だった「肉」に代わり、2024年は「魚介・海産物」が1位となりました。これは、2023年8月に東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が開始されたことを受け、中国政府が日本産水産物の全面輸入停止を決定した(注7)ことに端を発し、水産業者支援の動きがふるさと納税にも波及した結果と考えられます。
さらに13位の「返礼品なしでの寄附」(2.7%)が2023年の1.7%から2.7%に上昇しています。増加人数は100名強と多くはないかもしれないですが、ふるさと納税の理念に沿った利他的な行動の増加は注目に値します。また、2年前の2022年と比較すると、日用品は7位(14.9%)から6位(18.3%)に順位が上昇しています。物価高の影響を受け、ふるさと納税の返礼品として生活必需品を選択する傾向が強まっています。
例年8月に総務省から発表される納税受入額ランキング。2024年度はどんな結果になるのでしょうか。今回速報として調査した2024年度の「最も多くの金額を寄附した自治体」の総合ランキング(図表4)の結果から占ってみましょう。
今回の2024年度速報ランキングと2023年度の総務省の納税受入額のランキング(注1、p.11)を比較すると、宮崎県都城市と北海道紋別市は順位も同じでした。また、特に躍進したのは宮城県気仙沼市で、2023年度の総務省の納税受入額で12位でしたが、速報ランキングでは6位でした。また北海道函館市は、総務省公表値で前年度166位でしたが、速報ランキングでは10位にランクインしました。両市は2024年度の寄附額を公表しており、気仙沼市は初の100億円突破(注8)、函館市は15億円から22億円(注9)とのこと。今年8月の総務省の公表での順位アップも期待されます。
図表4
図表5は、図表3の返礼品ジャンル上位4位までの「魚介・海産物」、「肉」、「米」、「果物」それぞれの人気自治体ランキングです。ピンクの網掛けは図表4の総合上位10位にもランクインした自治体です。
図表5
2024年度のふるさと納税では、「肉」や「魚介・海産物」といった高額で人気の返礼品が、自治体の総合順位に大きく影響しています。例えば、宮崎県都城市は「肉」で1位、「米」で4位となり、総合1位となっています。北海道の自治体も「魚介・海産物」で順位を上げました。一方、「米」や「果物」は人気にもかかわらず、総合上位に入る自治体が少ない状況です。 ただし、「米」は熊本、秋田、茨城、新潟、山形など広範囲に分布し、地域の偏りが少ないという特徴があります。寄附者にとっては選択肢が広がり、自治体側も寄附獲得の好機となっています。また、2025年には米価が上昇し、4月中旬には5kgあたり4,220円の高値を記録しました(注10)。この影響で、「実質負担2,000円」で「米」が得られるのは、コストパフォーマンスが高く、返礼品としての魅力が増しています。
2024年度のふるさと納税の調査結果から、ふるさと納税が果たしている役割が見えてきました。
・能登半島地震に代表される災害被災地への支援
・返礼品を通じた水産事業者の経営安定と地域経済への支援
・生活必需品を返礼品として選択することによる物価高への対応
特に物価高に伴う生活必需品の返礼品選択は、寄附者の経済的負担軽減と地域産業支援を同時に実現します。
また、例年同様、「時期」「ポータルサイト」「返礼品」「自治体」で過度な集中が観察されました。2025年度は特に、10月の制度変更により、12月に加えて9月にも駆け込みの寄附の集中が見られるでしょう。
さらに、アマゾンやコンビニ業界の参入により、ポータルサイト間の競争が一層激化し、ポイント付与の禁止など制度面での変化も、寄附者の動向に大きな影響を与えるでしょう。
返礼品については、「米」の価格高騰を受けて、「米」の返礼品需要が一段と高まると予想されます。2024年度の速報結果より、米は肉や魚介に比べてより多くの自治体が寄附先自治体に選ばれているため、寄附者にとっては選択肢が広がり、自治体側も寄附獲得の好機となることが期待できます。
「米」から得た気付きを活かし、今一度、地域ごとに特色のある返礼品(例えば、地元産の野菜や伝統工芸品など)を広報し、寄附先自治体の分散を促進することが重要です。また、寄附のタイミングを分散させる施策としても、「旬」が異なる返礼品の設定や早期申込者向けの特典も有効でしょう。返礼品の選択や寄附行動の変化は、社会情勢や生活者の価値観の変化を反映しており、その動向を追うことで、時代の流れをより明確に捉えることが期待できます。
注1)総務省「令和6年度ふるさと納税に関する現況調査について」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000960670.pdf
注2)総務省「令和6年度課税における住民税控除額の実績等」のふるさと納税に係る寄附金税額控除の人数
https://www.soumu.go.jp/main_content/000960675.xlsx
注3)著者らのこれまでの発信
2022年度ふるさと納税実態調査について
小西葉子・伊藝直哉・伊藤千恵美「これからどうなる?ふるさと納税~ふるさと納税実態調査①~」、インテージ「知るギャラリー」、2023年10月10日
小西葉子・伊藝直哉・伊藤千恵美「自治体・返礼品ランキングからみるふるさと納税~ふるさと納税実態調査②~」、インテージ「知るギャラリー」、2023年12月22日
小西葉子・伊藝直哉・伊藤千恵美「ふるさと納税の現在地~2つの調査結果より」、RIETIコラム、2023年11月17日
小西葉子・小川光・伊藝直哉・伊藤千恵美「ふるさと納税におけるワンストップ特例制度の効果検証:寄附先の集中と制度の満足度に与える影響」、RIETI-DP 24-J-009, 2024年3月
2023年度ふるさと納税実態調査について
小西葉子・伊藝直哉・伊藤千恵美「ふるさと納税1万人調査!利用者の本音と最新トレンド~ふるさと納税実態調査③~」、インテージ「知るギャラリー」、2024年11月12日
小西葉子・伊藝直哉・伊藤千恵美「もっと知りたい!ふるさと納税 いつにする?どこにする?なににする?~ふるさと納税実態調査④~」、インテージ「知るギャラリー」、2024年12月6日
注4)北國新聞「県内ふるさと納税3倍 昨年、被災地応援で170億円超」、2025年5月4日記事
注5)総務省 ふるさと納税の次期指定に向けた見直し(報道資料)
注6)総務省 ふるさと納税の指定基準の見直し等(報道資料)
注7)農林水産省 アジアにおける規制措置の変遷 中国
中国政府は、ALPS 処理水の海洋放出に伴い、2023 年 8 月 24 日以降、産地が日本である水産物(食用水産動物を含む)の輸入を全面的に一時停止しました。
https://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/oshirase/attach/pdf/asia-21.pdf
注8)「気仙沼市 ふるさと納税寄付額 初の100億円超」、宮城 NEWS WEB 、2025年1月8日
注9)「函館 ふるさと納税昨年度22億円余過去最高 返礼品種類倍増」、北海道 NEWS WEB 、2025年4月7日
注10) 農林水産省 「米の流通状況について」より2. 小売(スーパー等)
【調査概要】
「ふるさと納税実態調査」
調査方法:Web調査
調査地域:日本全国
対象者条件:20~64歳男女/有職者/個人年収300万円以上(※)
対象者条件:スクリーニング回答者のうち、2024年1月~12月にふるさと納税制度で寄附を行ったと回答した方
標本サイズ: n=10,882
調査実施時期:2025年1月23(木)~2025年1月27日(月)
(※)総務省の「全額(2,000円を除く)控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安」に従い個人年収300万円以上を対象者条件と設定した。
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