中国消費者の訪日消費は今後どうなる?コロナ前と比較した旅行計画と消費の変化
※この記事は、2023年3月9日に実施したセミナー「【中国】来るべき訪日消費と中国Z世代セミナー」の内容の一部を再構成したものです。
新型コロナウィルスの世界的流行の影響で、中国・日本間の移動が困難になり、3年以上が経過した。23年1月に国境開放という明るいニュースがあり、中国人旅行客の訪日は今年こそ回復に向かっていると考える。
日本企業の皆様の中には、
・中国からの旅行者がいつ日本にやってくるのか、
・日本への旅行について期待感・消費意欲を持っているのか、
気になる方も多いのではないだろうか。
この記事では、インテージチャイナとしての現地感覚を交えながら「コロナ収束後の中国の消費者の日本旅行」をテーマに訪日の今後を見ていきたい。
目次
ゼロコロナ政策明けの中国消費者:中国経済と訪日意向はどうなった?
まず、コロナ流行後の中国の経済状況を見ていこう。国家統計局が発表しているデータ(図表1)としては、全国・個人のGDPはともに上昇傾向にある。
図表1
また、個人の可処分所得の変化について、インテージが行った自主企画調査の結果からも、「21年と収入はそこまでかわっていない」という回答が7割を超え、「収入が増えた」という回答も2割強見られた(図表2)。こういった結果から、すくなくとも、消費全体に関する大きな落ち込みはないと考えている。
図表2
また、「今後購買意欲はどうなりますか?」という質問を経年で比較した場合、23年はTOP2Box49%と過去4年間で最も高くなっている(図表3)。短期的には、コロナの「後遺症」としてのリベンジ消費が業績を押し上げると予想されよう。
図表3
では、消費は回復傾向として、どういったカテゴリにお金をかけたいと思っているのだろうか?2022年、2023年それぞれの調査で、「消費支出が増加した」という回答があったカテゴリを比較したとき、最も上昇しているのは「旅行」で、19ポイント増加。つづいて上昇しているのは「デジタル家電」で14ポイント増加である(図表4)。ここからみても旅行はホットな話題とみられる。
図表4
当然海外旅行に対する意欲も高まっている。海外旅行に行きたいか?という質問に対して、23年、TOP2の回答で88%の方が行きたいと回答、これは、過去4年でもっとも高い数値となっている(図表5)。
図表5
今後の旅行先として、まずエリア面では、アクセスしやすいアジアエリアが伸長している。そして、その中でも人気NO1の行き先は日本である。このような点からみるに、訪日意向は高まっていると考えられる。
図表6
中国消費者の訪日旅行 コロナ前からの変化は?
訪日意向が高まっている中国消費者だが、一方で、訪日旅行には心配もあり72%の方が心配を抱えている。具体的な心配内容が何かを調査したところ、当然、最も懸念されているのは政策の部分であるが、「自分が知っているブランドが買えなくなる」「日本の最新商品情報を知らない」といった点が不安にあがっている(図表7)。
図表7
コロナ前には訪日旅行者向けインバウンドのレビュー・情報が溢れていたが、現在そういった情報はなくなっており、消費者は情報面での不安を抱えているといえよう。
彼らが日本旅行でどのような行動計画を立てているのか、より具体的に見ていこう。
まず目的地については、都市部が相対的に減少し、地方の人気が高まる傾向にある(図表8)。その中ではどこかのエリアが突出して高いのではなく、各地に分散する傾向にある。今後の訪日旅行客は、よりディープな場所に向かう傾向があるといえよう。
図表8
次に、彼らは日本に何をしに来るのか?を見てみよう。「日本でやりたいこと」を順位でみた場合は、グルメ・観光・買い物がトップ3である、という傾向は変わらないが、前回と比較してみた場合は、それぞれ下降気味である。前回より増えているものは右側のスポーツやニッチな文化体験といった体験ベースの部分である(図表9)。
図表9
旅行の目的から買い物が減少傾向ではあるとはいえ、買い物は依然として重要な目的の一つである。彼らは何を購入したいと考えているのだろうか?まずカテゴリから見た場合、比較的体験型である「食品・飲料」の他、スキンケア・化粧品などが上位に上がる(図表10)。
図表10
さらに、買い物における購入重視点についてみると、図表11のようになっている。日本の消費者が購買していたり、ランキングにのっていたりすることを重視する姿勢はコロナ前と現在で変わらないようだ。
図表11
では、訪日するとした場合、彼らはどこで情報収集を行うのか?訪日時の買い物にむけた情報チャネルを示したものが図表12である。ショートムービーのTiktokやショッピングサイト(Tmall・JD)、Redbook(小紅書)などがあがっているが、ここで強調しておきたいことは、これらは基本的に中国国内のアプリであり、アプリ内のコンテンツにのみアクセスするサービスである、という点である。さらに、これらの国内アプリは、優れたキュレーション(お勧め)機能を持ち、履歴などから嗜好にあったコンテンツを選別・推奨してくれるため、消費者はわざわざ検索という行動をとる必要がない。
図表12
こういった点を背景にして、いわゆる従来型の検索は時代遅れになりつつある。(検索をするとしてもアプリ内での検索行動となる。)ブラウザベースの検索エンジンであるBaiduなども影響力を低下させており、ブランド公式サイトを通じた情報発信などでは、消費者に届かない危険性が増している。
今後の中国人旅行者 旅行目的としての「買い物」の低下とその原因は?
訪日目的として、遊びと買い物の比率を聞いたものが図表13である。(上が次回の訪日時の意向・下が前回の訪日旅行。)20%の人が、「すべて遊びで、買い物はしない」と回答、つまり、旅行目的における買い物の意識比率が低下している。
図表13
いったいなぜ購買意欲が低下したのか、考えられる原因をみていきたい。これには複数の理由が考えられるが、大きく分けると、二つの理由が大きい 。一つは「商品が中国本土でも買えるようになったこと」。もう一つは「中国本土で日本ブランドの発信力が低下したこと」である。
まず、原因の一つである「中国本土でも買えるようになったこと」について見ていく。図表14はコロナ期間中に日本品をリピート購入した場合の購入チャネルを示している。中国には越境ECのほか各ブランドが出している公式ショップなどもあり、海外品を購入するだけなら、オンラインのワンクリックで購入が可能である。つまり、わざわざ旅行のときに購入する必要はない。この点、日本品の購入総額は変わらず、購入場所が日本から中国本土に移動しただけであれば、それは購入場所の問題だけなので、大きな問題はない。しかし、残念ながら、あまり楽観できる状況ではないと考えている。
図表14
ここで出てくるのが、原因の2つ目、「中国本土で日本ブランドの発信力が低下したこと」である。いままでは、日本にいった訪日旅行者が情報発信をしていたが、コロナで旅行に行けなくなった後、こういった情報発信は当然なくなってしまった。では、中国にいる消費者は日本の情報を調べるか?というと実は積極的に調べにいかない。訪日旅行意向者という日本と親和性の高い消費者にあってさえ、68%がわざわざ日本ブランドに関する情報を検索していない状況である(図表15)。
図表15
さきほどの情報チャネルでも述べたが、彼らのメイン情報チャネルは中国国内のAPPはキュレーション(お勧め)機能が特徴で、消費者はわざわざ検索する必要がない。彼らに情報を見てもらうためには、中国本土のAPP等への発信が不可欠であるが、 旅行時の不安などを見るに、充分に届いているとは言い難い状況である。
まとめ:訪日中国人旅行者の買い物を再び盛り上げるには?
簡単にまとめると、下記のようになる。
・単純な訪日への意向という観点でみた場合、日本への旅行ニーズは高い
・訪日旅行の具体的な計画をみた場合、全体的に体験に寄る傾向になっており、買い物に関する意識比率は下がっている。
買い物意識が下がっている原因としては、
1. 単純に日本品を購入するだけなら中国本土で購入できる
2. 日本ブランドの中国での情報発信が十分でない
という点が考えられる。
では、日系企業が施策をうつにあたり、どういった点がポイントになるか?絶対の正解はないが、以下のような点が考えられるのではないか。
ポイント1:本土での情報発信強化
本土でのプレゼンスを高めるために、まずは情報発信を行っていくことが重要である。訪日旅行者はランキングや新サービスを購買フックとし、この点には現在も興味があるとみられる。この部分を伝達することで訪日時の購買のハードルを取り除くことが効果的である。
ポイント2:情報チャネルの最適化(本土でのAPP対応)
・メイン情報チャネルがAPPに移動していること
・APPの中で彼らがわざわざ日本の商品の情報検索をしないということ
上記から考えると、情報伝達にあたっては、中国本土APPへの対応が不可欠である。
ポイント3:中国消費者の理解促進
海外旅行が規制されていたこともあって、現時点で訪日意向は高く、特に体験が重視されている。一方で、中国の消費者が訪日時に望む「体験」と、日本企業が実際に提供できる「体験」が一致しているか?という点は注意が必要である。現在・今後のニーズをすくい取っていくためにも、中国人のニーズをアップデートし続けることが重要と考える。
高い訪日ニーズは、間違いなくチャンスであり、日本の魅力が評価されている証拠でもある。このタイミングで、「中国人訪日旅行者の旅行体験」と「日本で働く企業様の価値提供」が、最高の形でマッチングすることを願ってやまない。
なお、紙面の関係上割愛したが、今回の調査では、訪日時購買チャネルや旅行時の金額(総額ベース)についてなども聴取している。また、中国でのデジタル事業についての支援なども行っているので、ご興味がおありの場合は営業担当までご連絡を。
この記事は、インテージチャイナ(英徳知聯合市場諮詢(上海)有限公司)にメンバーが執筆しました。インテージチャイナはインテージの中国事業所として、2002年に開設、20年以上にわたって現地の情報を調査・分析・レポート。日本・中国双方に知見を持つメンバーが、日々企業様のサポートを行っています。
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