With コロナ、With リスク ~防災に想いを馳せる
この記事は、インテージが生活者理解の拠点として立ち上げた、生活者研究センターのセンター長 田中宏昌による「Withコロナの新しい日常」に関するコラムの第14弾です。
1.はじめに
9月1日は「防災の日」です。61年前の1960年(昭和35年)に閣議決定され、今に至ります。9月1日は関東大震災(1923年)が発生した日でもあります。
例年であれば、職場や学校などで避難訓練が実施され、避難経路の確認などを行う時期です。しかしながら、新型コロナの感染が終わりを見せずに、今もさまざまな行動抑制が求められていることから、今年は大々的な避難訓練ができないでいるところも多いのではないでしょうか。私が暮らしているマンションは42世帯と比較的小規模なタイプではありますが、毎年、この時期に避難訓練や防災講習を開催していましたが、今年は防災に関する資料配布のみとなりました。
日本は地震や台風など、災害の多い国です。また、近い将来に南海トラフをはじめ、大地震が起こる、という予想が発表されており、国や自治体、企業などでもさまざまな備えが進められています。コロナ下において、生活者は感染不安をきっかけに衛生行動をアップデートしました。また、マスクや体温計、パルスオキシメータなど度重なる品不足を体験し、備蓄の意識や行動にも変化が見られています。
Withコロナ、からWith リスク。
防災の日をきっかけに、今一度、「リスク」という視点から日々の暮らしを視なおしてみてはいかがでしょうか。
2.第5波感染拡大の余熱とともに
内閣府が景況感の把握のために実施している調査に「景気ウォッチャー調査※1」があります。この景気ウォッチャー調査はさまざまな仕事に従事する約2000人に現在と将来における景気の実感を質問し、指数化して発表をしています。
最新の調査結果(8月データ:9月8日リリース)では、現在の景況感をあらわす「景気の現状DI」や将来的な景況感をあらわす「景気の先行きDI」は各業界ともに急激に悪化に転じました。(図表1)
図表1
ワクチン接種も本格稼働し始めた5月・6月頃には回復に向かっていましたが、これまでとはレベルの異なる感染力をもったデルタ株による感染拡大の第5波を目の当たりにして、各業界ともに一気に不安が広まりました。「景気の現状DI」を業界別にみると、飲食業界における落ち込みは他業界と比較しても大きなものになっており、長びく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令による営業自粛が大きく影を落としています。(図表2)
図表2
感染拡大の第5波を受け、上昇に転じた感染不安は、8月後半からの感染爆発の鎮火を受ける形で減少に向かっています。つい先日、国内におけるコロナワクチンの2回目接種率も半数を超えた、との報道もありました。また、中高生を含めた若年層へもワクチン接種が広がりつつあります。接種してはいても感染することもあるようですがワクチン接種率がより一層高まることにより、感染不安ももう少し落ち着いてくるのではないか、と考えています。
「今後3ヵ月先」と尋ねている今後の家庭の暮らし向きについては、「今より悪くなる」が減少に向かいました。第5波の新規感染者数の減少やワクチン接種の拡大などに期待を寄せているように映ります。
一方の「家計の節約を心がけている(節約意識)」については大きな動きはなく6割の方があてはまるとしています。節約意識に関しては、新型コロナの収束とは異なる難しさを内包しており、回復までにはもう少し時間がかかりそうです。(図表3)
図表3
先日(9/6)の日経MJで取り上げられていた調査結果では、景気がコロナ前の水準に戻る時期について、「しばらく回復しない」が44%となっており、不透明感が浮き彫りになっていました。また、「2023年以降」という回答は27%、「2022年・春」はわずかに5%となっています。そして、半年後の家計支出については「支出を減らしたい」が36%となっており、「支出を増やしたい(6%)」を大きく上回っています。いつもなら冬のボーナス商戦、さらには年末年始のお買い物シーズン、など支出も増える時期ではありますが、今年は厳しい見通しになりそうです。
3.日々の備え~高まる防災意識~
第5波のピークアウトに伴い、新型コロナの感染不安は減少に向かっていました。その一方で、「災害」への不安や備えという意識はコロナ下においても依然として5割程度の方が「不安」を感じている、と回答しており、底堅く推移していることに注目をしています(図表4)。また、男女別にみると、女性は60%と男性(46%)を大きく上回り、不安が大きいことも変わらぬ特徴となっています。
図表4
日本は地震や台風など自然災害が起こりやすく、一年中を通じて災害への備えを意識せざるを得ない国でもあります。また、首都直下型地震や南海トラフをはじめとした大震災の予測や対策などもたびたびニュースなどで取り上げられています。そのため、災害不安は常に人々の心に影を落とし、それが備えにもつながっています。
2021年7月にセコム株式会社が実施した調査※2では「今後、災害の増加や被害が拡大する可能性があると思いますか」という質問に対し、4割近いかたが「そう思う」と回答しています。また、5割以上の方がなんらかの防災対策をしていると答えています。具体的な防災対策については「食料・生活用品の日常的な備蓄」が7割、「非常用持ち出し袋の準備」が6割となっています。
9月は防災の日、防災週間もあり、防災や災害対策に関するニュースが取り上げられることが多かったですが、上記のアンケート結果にもあった「食料や生活用品の日常的な備蓄」にあてはまる「ローリングストック」という備蓄の「運用方法」が記憶に残っています。なにかをきっかけに防災対策の備蓄をしても、ながらく入れ替えや見直しをしなかったために食料品や飲料の賞味期限が切れてしまっていたり、電池が古くなってしまっていて、いざという時に使い物にならなくなってしまうことも多いようです。そうした失敗(この失敗は命に直結してしまいます・・・)を防ぐために、「定期的に使いながら、補充をして、備蓄を続ける」という運用方法をローリングストックと呼んでいるようです。
また、さまざまな企業もそうした取り組みを支援するための商品・サービスの紹介サイトを準備しています。さらに、備蓄の運用方法だけでなく、商品そのものもより長期保存が可能になったものも次々と登場しています。中には5年以上の賞味期限をもつ商品も出てきており、そのバリエーションも実に豊富になっているようです。
このコラムでは、コロナ下における生活者のマインドを「With リスク」と表現してきました。新型コロナを機にコロナ対策に留まらず、「暮らしに潜むさまざまなリスクを想定して、これからの生き方をデザインする」というマインドです。モノコトの選択はもちろん、住む場所、働く場所も含まれます。
自然災害は日本に暮らす人々にとっては切っても切れないものです。
「With リスク」、今一度の暮らしの視なおしを私も心がけたい、と思います。
おわり
※1 内閣府 景気ウォッチャー(DI ※ディフュージョン・インデックス)
生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
転載・引用について
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら