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新しい暮らしの風景 ~シリーズ:これまでとこれから ②買い物に関する意識と行動~

1. はじめに ~ 変化を加速する日常

中国における新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受けて世界保健機関(WHO)テドロス・アダノム事務局長が「「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したのは2020年1月30日のことでした。あれから3年2か月が過ぎ、2023年5月5日、テドロス事務局長が「緊急事態」の宣言を終了すると発表しました。
その一方で、「この宣言終了は新型コロナがもう世界的な脅威ではないという意味ではない。依然としてウイルスは命を奪い続けている」ことを強調しました。また、「各国は緊急態勢から、新型コロナを他の感染症と同様に管理するように移行する時期が来た」と語り、完全に警戒を解くことがないようにも呼びかけていました。

国内においても今年の春ごろにはマスク着用のルールが緩和され、マスクを外した卒業式や入学式が話題となっていました。また、5月8日には感染法上の分類を結核やSARSなどと同等の「2類」という区分から、季節性インフルエンザなどと同等の「5類」に引き下げを行いました。これにより、法律に基づいて政府や都道府県などが取ってきた対応措置が変更になっていきます。感染者への入院勧告や感染者や濃厚接触者の外出制限、日本国内入国における水際対策も原則的に無くなります。また、医療費やワクチン接種が全額公費負担から、将来的には一部自己負担へと変化していくと思われます。

WHOの緊急事態宣言から3年と2か月。
今回の宣言終了を受けて、私たちが日々眼にする風景はますます大きく変わっていくのだと思います。

シリーズ2回目の今回は「買い物」をキーワードにスタートしていきましょう。

2. 薄れる不安と薄れない不安 ~ 根強い家計不安

定点調査で追い続けてきた新型コロナの感染や家計の不安、さらには節約意識の動きを見ていきましょう。
感染不安については計測以来、最弱の水準にあり直近では40%となりました。感染不安は新規感染者数の増減と強い正の相関があり、感染者が増えると感染不安も増す、という動きを繰り返してきました。しかしながら、ワクチン接種の普及を背景に、その動きも感染の「波」が繰り返されるごとに弱くなっていきました。そのため、6波以降(22年1~2月頃)は以前ほどには不安が高まることはなく、直近の第8波(23年1月頃)では、ピーク時にも6割を切り、感染者の減少とともに4割を切るまでに減少しました。感染不安に関しては、新型コロナウイルスの「5類」への分類変更や今後期待されている治療薬の開発などによって、インフルエンザのように軽減していくものと予想されます。

図表1

【長期推移】晴れない不安:感染拡大、暮らしについて

一方の暮らし向きの回復に対する期待については、3割以上の人が「そう思わない」と回答しており、質問形式を変更した22年夏以降、40%~35%付近を上下しており大きな減少はありません。今年に入り、給与の引き上げ(定期昇給の強化)なども自動車業界など、さまざまな業界や一部の大手企業でみられたようですが、「世間一般」という視点でみると待遇改善などを理由とした暮らし向きの回復への期待もそう広くは進んでいないようです。
また、節約意識に関しては新型コロナ発生後(20年6月頃)に6割程度に上昇してから大きな動きもなく推移してきました。その間、家計不安や節約意識の背景理由は「新型コロナによる収入や雇用の不安」から「商品・サービスの値上がり」に変化をしました。そのため、節約意識は値上がりが一層進んだ昨年末頃より緩やかな上昇傾向を見せ、現在は62%と依然として高い数字となっています。

家計支出について総務省統計局の資料にも目を向けてみましょう。
電気代の値上がりが顕著になった21年末頃から消費支出は緩やかに上昇に向かっています。22年に入ると食料油を皮切りに多くの食料品や調味料の値上がりが進んだことにより食料関係の支出も上昇しています※1。(図表2)
現在では食品関連だけでなく日用雑貨品なども値上がりが進んでおり、暮らし全般が物価上昇の危機に晒されており気が休まることがありません。値上がりの詳しい動きについては最近の弊社リリース「店頭価格、大幅値上げ止まるも高止まり。米食回帰も?(2023.4.24)」でも紹介をしています。ぜひ、ご覧ください。※2

図表2

【総務省統計局】家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)

ここで行動不安についても簡単に見ておきましょう。
感染不安と行動不安は強い相関があり、感染不安が減少すると行動不安も同じ動きをみせてきました。直近のスコアを確認すると「飲食店での食事(26%)」、「国内旅行(27%)」、「テーマパークや繁華街、人の集まる場所への外出(41%)」など、すべての項目が調査開始後、最小レベルにまで減少しています。

図表3

【長期推移】晴れない不安:感染拡大、外出や行動について

今年のゴールデンウィークは観光や帰省の人出もかなり回復してきた様子が各メディアで繰り返し報道されていました。東海道新幹線(下り)を例にとれば5月3日の午前中には自由席の乗車率が最大で180%に達していたようです※3。行動不安もまた、感染不安同様にさらなる減少へと向かいそうですね。

3. 買い物行動の変化 ~ ドラッグストアの躍進

さて、ここからは本シリーズのテーマでもあるコロナインパクトによって変化したモノ・コトや、定着した新しい暮らしの兆しについてみていきましょう。今回はお買い物行動にスポットを当てて、「ドラッグストアへのシフト」を取り上げます。

インテージの消費者パネル調査(SCI)データを用いて、スーパーマーケットとドラッグストアにおける食品の購入金額を新型コロナ発生前の2019年時点を基準として時系列で集計してみた結果です。コロナインパクト後の両チャネルの動きを比較すると、ドラッグストアが堅調に成長していることがわかります。一方のスーパーマーケットは年末の特需期を除くほぼ全期間を通じて基準(100)とした2019年時を下回っており、なかなか回復することができていないようです。

図表4

2021年と2022年の購入金額の前年比を用いて、ドラッグストアとスーパーマーケットの好不調要因を深掘りすると、値上げの影響などによりどちらもバスケット点数(買上点数)は減少していますが、スーパーマーケットは来客数(99%)が伸び悩んでいるのに対し、ドラッグストアでは来客数(103%)、さらには購入頻度(103%)も増加していることがわかります。それらの要因が購入金額を伸ばしていると考えられます。

図表5

2022年スーパー・ドラッグストアでの購入金額前年比の要因分解

背景として、加工食品の値上げが顕著になった2021 年以降、スーパーマーケットからドラッグストアや宅配・通販に、購入金額がシフトしていることが考えられます。食料品のみならず、電気、水道、ガスなどの公共料金も値上がりし、なお一層、生活防衛への意識が高まる中、日常の食卓に並ぶ食料品をドラッグストアや宅配・ECでまとめ買いするようになったことがその一因と推察されます。ドラッグストアに流出しているカテゴリーを確認してみると「小麦粉」、「砂糖」、「袋インスタント麺」、「乾麺」、「冷凍調理」などがみられました。また、宅配・ECに流出しているカテゴリーでは「カレー」、「紅茶」、「ミネラルウォーター」などが確認できました。(図表6)

図表6

2022年スーパーマーケットから他業態へのシフト

では、生活者はスーパーマーケットとドラッグストアをどのように使い分けているのでしょうか。2022年12 月に実施した調査結果からみていきましょう。

「商品力」に着目するとスーパーマーケットでは「生鮮品の鮮度」、ドラッグストアでは「専門性のある商品」が利用する理由として大きく挙げられていました。また、「販促施策」では、スーパーマーケットでは「チラシがあること」、ドラッグストアでは「クーポンやポイントがあること」が理由として挙がっていました。近所の大手チェーンのドラッグストアでも、「本日、ポイント〇倍!」というポスターやのぼりが出ていることをよく目にしますが、そうしたタイミングにはいつもより店内が混んでいることを目にします。また、このタイミングを逃すまい、と買い物かごにはストックと思われる品々が詰め込まれていることも多いです。
また、スーパーマーケットにおいては、「品揃えの幅」がドラッグストアよりも魅力ある点として挙がっています。最も影響力があると思われた「価格」では大きな差はみられませんでしたが、スーパーマーケットでは「全体的な価格の安さ」、ドラッグストアでは「いつも買う商品が安いこと」が高くなっており、「安い」という魅力の捉えられ方が業態によって異なっていることが浮き彫りになりました。(図表7)

図表7

スーパーマーケットとドラッグストアの利用理由(複数回答)

4. むすびとして

シリーズ2回目の今回も最後にひとつ。興味深いデータを。

定期で実施しているアンケートの中で、「さまざまな食料品が値上がりする中、食料品の購入の際にどのような工夫を行っていますか」という質問をしたところ、「ポイントカードの活用」が最も多くなっていました。本項目の実施を開始した22年6月から変わらずトップの取り組み、工夫となっています。次いで「クーポン」、「チラシ」となっており、「クーポン」についてはドラッグストアの利用理由とも重なっていますね。その他に目を向けると、「まとめ買い」も目立ちます。(図表8)

図表8

「食」に関する節約の工夫推移・女性(2022/6 →2023/4)

ドラッグストアへの流出は一見すると「安さ」が好まれて、ともイメージしがちですが、「価格」については、両業態ともに拮抗していました。その上で、スーパーマーケットでは「全体的な価格の安さ」が評価されており、ドラッグストアでは「いつも買う商品が安いこと」が支持されていました。それらを踏まえると「いつも買っている商品」を購入する際には、「ポイントあるいはクーポンを上手に活用しながら、お得なタイミングにドラッグストアでまとめ買い」といった生活者の姿が浮かんできます。

わが家の場合も、おそらくボーナスポイントのタイミングを捉えてドラッグストアで買ってきたであろう大量のインスタント麺や衣料用洗剤やシャンプーなどが、ストック用の棚に一気に充填されるシーンをときおり目撃します。きっとそうしたことが多くのご家庭でも展開されているのでは、と想像します。

当初はコロナインパクトによう経済的不安、家計不安からの節約でしたが、現在は身の回りの商品・サービスにおける値上がりが節約を意識させて、さまざまな工夫に向かせています。スーパーマーケットとドラッグストアの使い分けもその工夫の表れと言えるでしょう。今回はドラッグストアの成長にフォーカスしましたが、スーパーマーケットにも生鮮をはじめとした「商品」の魅力、充実したプライベートブランドをはじめとした「全体的な価格の安さ」も魅力として捉えられています。また、ポイントやクーポンもドラッグストア同様に武器となるはずです。

さて、みなさまの暮らしにはどのような新しい風景が映っていますか?
私はまた、ロードバイクに乗って多摩川の風に吹かれながら途中途中のスーパーマーケットやドラッグストアを覗きながら新しい風景を探してこようと思います。

ではまた次回。

おわり


※1 総務省統計局 家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)
品目分類:支出金額・名目増減率・実質増減率(月・年)

※2 インテージ 広報リリース
「店頭価格、大幅値上げ止まるも高止まり。米食回帰も?」(2023.4.24)

※3 TBS NEWS DIG ―TBSテレビ (2023.5.3)
自由席の乗車率“180%超”も コロナ緩和のゴールデンウィークで下り新幹線の混雑がピークに

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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