With コロナ ~コロナ禍をデータから振り返り、これからを眺める~【後編】
この記事は、インテージが生活者理解の拠点として立ち上げた、生活者研究センターのセンター長 田中宏昌による「Withコロナの新しい日常」に関するコラムの第8弾【後編】です。
【前編】の買い物行動の変化とこれからについての座談会記事へはコチラから。
1. はじめに
3月21日に東京において2回目の緊急事態宣言が解除されたのも束の間、現在(4月19日)では、第4波と言われる感染が全国で広がっています。新型コロナワクチン接種も医療従事者や高齢者など優先度の高い方々から始まりましたが、一般の方々への普及を鑑みると、まだまだ感染予防には最大限の注意が必要となりそうです。
今回の感染拡大はこれまでと異なり「変異株」の割合も高くなっています。変異株は感染力が強く、重症化のリスクも高いとも言われています。マスク着用、手洗いやうがいの励行などの衛生行動の徹底はもちろん、不要不急の外出を控えるとともに、3密回避など行動面での感染防止施策もこれまで以上に徹底して継続したいと思います。
衛生行動や行動抑制が続けば、コロナインパクトによるさまざまな日常行動の変容が継続することになります。「新しい日常」と呼んでいたものが、すっかり「日常」になり、また新しい日常が生まれているのかもしれませんね。
さて、今回のコラムも前回に続き、「生活者研究センター ダイアローグ(対話)シリーズ」と称して、弊社の買い物データ(SCI)やメディア接触データ(i-SSP)などのデータ収集・分析を担っているメンバーのもとへ駆けつけ飛びこみ、この1年のコロナ禍における生活者の気持ちの動きや行動の変化に関するレポートやデータを眺めながら行った対話の様子をお届けいたします。
データを収集・分析する「リサーチャーの視点」と、もう一方にいる「ごく普通の生活者の視点」をいったりきたりしながらの対話の中に、単純な振り返りには留まらない、「これから」の姿がにじんだものになっている、と思います。
これを読むみなさまも、ぜひ参加者の一人になって自分の暮らしを重ねながら目を通していただけたら、と思います。
座談会メンバー | 事業開発本部 パネルリサーチ事業開発部 消費者パネルグループ 田村直子、中林令王、川野晟聖、榊さゆり |
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聞き手 | 生活者研究センター 田中宏昌 |
2. 在宅時間の増加がもたらした買い物の変化
《田中》
前半では買い物行動を中心にお話を聴いてきました。コロナ渦において、ネットでの買い物の存在感が増していて、Amazonや楽天といったネット通販系のサービスにプラスして、西友やイオンなどのスーパー系のネットサービス(いわゆるネットで買って配達してくれる)での買い物の利用も増えている、といったお話がありました。
そこで、「この冬の第三波 生活者行動への影響は?」という記事で紹介したネットの買い物金額 前年比ランキング(図表1)を眺めながら、買い物のネットシフトと買い物の品目の変化についても、うかがっていきたいと思います。
このランキング、特に第三波ごろのランキングを見ると、食品については、「冷凍食品」や「菓子パン・調理パン」、さらには「生麺・ゆで麺」など、簡易に準備できるものの顔ぶれが多いことがわかりますね。
図表1
《中林》
そうですね。在宅時間が増えたことから家中消費は食に限らず活発になりました。食については内食の機会が増えたことから冷食や麺類、パン類など、手間のかからない食材の売れ行きが伸びました。また、備蓄という意味でも日持ちするものは好まれているのだと思います。
また、家中消費として生活を少しでも豊かにしたい、彩が欲しい、といった気持ちの表れとして、「スナック(お菓子)」や日本酒や焼酎、そして、ワインといったお酒が上位にあがってきているのだと思います。
《川野》
「冷食」の伸びについては「簡便」という魅力だけなく、「家中消費を豊かに」、「食に彩りを」という捉え方も出来そうです。冷凍水産のエビやカニって高級食材ですもんね。私もときどき・・・こっそりと楽しんでいます。
《田中》
たしかに!冷食のもうひとつの一面ですね。ちなみに「蜂蜜」がトップにありますが、これは?
《中林》
「蜂蜜」については昨年の春先、最初の緊急事態宣言の頃には在宅中のお菓子作り需要というのもあったと思います。しかしながら、長びく新型コロナの感染不安の中で、生活者の「健康」とか「免疫力強化」といった意識がものすごく高まりました。マンスリー調査でも中高齢層を中心にしながら、「健康」への意識が高まっていることをレポートしている回がありましたね。蜂蜜はそうした健康への取り組みという側面も大きいと考えています。
《田村》
生活者の健康意識は高まっていますが、どのような取り組みをしているのか、ということに注目すると、「規則正しい生活」、「普段からバランスのよい食生活を」、「野菜をたくさん」といった取り組みが多くあがっていますね。「食から健康を」といったトレンドはここ数年ずっと続いていますが、コロナ禍において、そのトレンドは一層強まったように思います。蜂蜜だけじゃなくメープルシロップなども人気のようです。自然派食品は強いです。
《田中》
「スポーツドリンク」も上位にあがってますが、これも健康とのつながりから?運動とか?
《中林》
「家中消費×健康」という文脈で家の中でもできる運動が注目されています。特にYoutubeではプランクやヨガなどの家の中でできるエクササイズ系の動画が人気で、100万人を越えるフォロアーを持つインストラクターも誕生しています。コロナ渦でスポーツクラブから足が遠のく中、「家の中でエクササイズに打ち込んでスポーツドリンク」という姿が浮かんできます。
《川野》
私もYouTubeのエクササイズに手を出していました。「林ケイスケ uFitチャンネル:【静かにできる】自宅でできる有酸素運動!飛ばない-脂肪がすぐに燃える-ダイエット」というコンテンツです。足回りの筋肉痛以外、特に効果を実感しないまま1カ月半ほどで辞めてしまいました・・・.
《田中》
「静かにできる」はエクササイズ系の動画コンテンツのキラーワードのようですね。家中、マンション住まいでも安心して、エクササイズに打ち込める、そんな動画が人気だったようです。ところで、昨年の売上が伸びたものの中ではプロティンが上位にあがっていましたね。特に若い人たちの購入が増えたようです。運動の機会が少なくなってしまった、あるいは運動不足解消のために運動をはじめた方などが、限られた時間の中で運動の効果をより高めるためにプロティンを取り入れる、という方も多かったのでは、と思います。
最後に雑貨も眺めてみましょう。
《榊》
「ヘアカラー」はコロナ渦において、以前のように気軽に美容院に行くことができない中、自宅で手軽に、という意識から売上が伸びた商品と言えます。白髪染めもそうですし、せめて、髪の毛をカラーリングしておしゃれな気分に、という意識も働いていたと思います。特に昨年の3~5月頃、普段は黒い髪の毛を「ちょっと染めてみよう」と市販のヘアカラーを試した人が多かったのか、売り上げがぐっと伸びたのを記憶しています。
3. 在宅時間の増加がもたらした食の変化-増える内食-
ネットでの買い物の増加は感染予防による外出の抑制や家中時間の増加が背景にあるとのお話ですが、ここからの時間は在宅勤務の増加や遊びなどでの外出を控えていることで家の中で過ごす時間が増えたのではないか、それは私たちの暮らしにどのような変化をもたらしているのか、という点にテーマを置いてお話をしていきたいと思います。
まずは定点で観測している「内食(家の中での食事)」の変化から。
《中林》
「キッチンダイアリー®※1」という家での食にまつわるデータから、コロナ渦における内食の変化を観測してきましたが、新規感染者数の増減やそれに伴う政府の施策に連動して、家の中での食の風景は絶えず変化してきました。
「朝食、昼食、夕食」、「平日、休日(土日祝)」という視点でみてみると、緊急事態宣言など行動の自粛が求められるタイミングでは「昼食×平日」の内食が増加します。
図表2
図表3
《田中》
年が変わって2021年1月以降も昼食は平日・休日ともに家で食べている人が多いことがわかりますね。
《中林》
最初の緊急事態宣言のときには及ばないものの、以前より10ポイントほど高いままですね。また、「夕食」についても平日・休日ともに内食が増えたまま推移しています。こちらも飲食店の営業時間短縮をはじめとして、感染防止のために外出行動を抑制していることが背景にあります。
図表4
図表5
《田中》
うちの場合は、最初の緊急事態宣言のタイミングで在宅勤務になった時には、朝・昼・晩と3食、しっかりと家で食べていました。それまでは平日朝は会社のそばで(注:特技が早起きで会社へは早めに出社。よって会社のある秋葉原駅の近くで朝食を済ますのがルーティンだった)。平日夜は5日のうち3~4日くらいは家で食べてました。
《一同口々に》
平日の夜、けっこう家で食べてますね!3~4日も家でって。
《田中》
朝早く出社するので、心の中では「18時終業」と決めています(笑)。
夕食については、コロナ前は、休日(土日)のどっちかはご褒美や気分転換、そして「作らない」ことへの妻への罪滅ぼしの気持ちから、、、外で食事をすることも多かったです。うちの場合はどちらもお酒を飲むので近所のお気に入りの居酒屋に行く感じでした。
《中林》
どのように変わりましたか?
インテージの場合は在宅勤務の活用が活発でほんとうに多くの社員が在宅勤務にシフトしていますよね。緊急事態宣言、現在では「まん延防止等重点措置」の発令や解除に関わらず、人によっては「出社は月1回以下」という人も結構いますが。
《田中》
私もほとんどそのタイプで、この1年間を平均すると出社は「月1回」程度です。そのため、食事の回数が平日は3食から2食に変わりました。朝は買い置きしてあるパンなどを食べて、昼は食べない。そのぶん夕飯はしっかり、というパターンです。朝食はタイミングが合えば妻が作ってくれたものを一緒に食べることもあります。そして、日中に小腹が空いたときは、休憩しつつ買い置きしてあるおやつやカロリーメイトなどを口に放り込んで済ませちゃってます。
2食になった理由としては、もちろん食事の準備が大変ということもありますが(妻が!)、デスクワークのため移動もなく、そもそもお腹が減らなかったりもします。そして、なにより、3食ちゃんと食べると太ってしまう、ということも原因かな、と。
《榊》
私も外に出ることが減って動かなくなってしまったので、そもそもお腹が減らないので胃が小さくなってしまいました。朝抜いたり、夜抜いたり、「2.5回」みたいな感じでしょうか。
《中林》
私の場合、3食は3食なんですが活動量が少なくなったのでそれほどお腹も減らず、1回あたりに食べる量は以前よりも減っています。また軽めのメニューになっていて麺類が増えました。わが家のパントリー、ラーメンは多彩です。そのおかげで64kgあった体重も60kgになりました。
《一同、口々に》
え――――っ。うらやましい。食事だけで痩せられたんですか?
《中林》
運動は大嫌いなので、食事だけです。
《田村》
私は在宅勤務になって3食ちゃんと食べるようになりました。以前はそれなりに遅くまで残業をしてしまい夜ご飯がないがしろになってしまうことも多かったのですが、在宅になってある程度規則正しく切り替えて、と変化してきました。
それから、外食の機会が少なくなったことから、少しだけ豪華な食材にも手が伸びるようになりました。また、手軽に調理するだけで美味しく、と思って、よい食材を買っちゃうこともありました。この間はすこし高いハムに手を出してしまいました。知り合いにも以前よりいいパンを食べるようになって食費が増えた、という人がいます。
《川野》
私も田村さん派ですね。食事は規則正しくなりました。
《田中》
川野さんは以前からアプリログのデータや体験から「コロナインパクトは食行動への影響が大きい」と言っていましたが、その話をもう少し詳しく聞かせていただけますか。
《川野》
食のお話の前にメディアの話を少しだけすると、先ほどから話が出ていた在宅時間の増加は、メディア接触の時間も増やしました。最初の緊急事態宣言の頃にはテレビの視聴が著しく増えましたが、その後、緩やかに落ち着いていきます。それでも以前よりはやはり多くなっていますね。また、無料・有料を問わずネット経由の動画視聴が増えていますが、スマホやパソコンではなく、テレビを「ディスプレイ」として使って、大画面でみることも増えているようです。ですから、テレビの前にいる時間は以前よりもずいぶん増えているのではと思います。
図表6
《田中》
おおお、まさに電通 メディアイノベーション研究部の奥律也氏が数年前から語っていた「一周回ってテレビ」の世界ですね※2。アプリの利用ログのレポートでも動画視聴サービスは元気でしたね。
《川野》
この間、テレビのコンテンツに飽き足らなくなって動画サービスに眼を向けたひとは、有料動画サービスの魅力的なコンテンツを体験して、そのまま利用し続けている、という人も多いと思います。特にオリジナルコンテンツを武器にコロナ渦で会員を一気に増やしたNetflixは利用回数も利用時間も大きな伸び率となっています。
図表7
《川野》
アプリの利用状況からも食の変化は浮き彫りになっていて、この間、利用が広まったUber Eatsや出前館など、フードデリバリーのアプリも引き続き利用は活発でした。特に昨年の夏以降からTVCMを大量出稿してユーザーを増やした出前館、浜ちゃんを起用して思わず口ずさんでしまうようなCMソングのTVCMの効果もあって、秋以降にぐんぐん利用を伸ばしました。こちらはUber Eatsよりも伸び率は大きかったですね。
《一同》
♬で・で・出前館、出前がスイスイスーイ♬アツアツアツアツ届くよ♪出前がスイスイスーイ♬
《川野》
残っちゃいますよねー(笑)
図表8
《榊》
私もポストに投函されていたクーポンをきっかけにUberを利用しましたが、それなりに便利で、月に1~2回くらい利用しています。気軽に外食もできないので「お店ならではの味」を楽しみたい時などに利用しています。
《田中》
動画視聴サービスやフードデリバリーのように、最初は少しハードルを感じても、動画視聴サービスならのオリジナルコンテンツがあったり、フードデリバリーなら先ほど榊さんが言っていた「お店ならではの味」など、「魅力的なコンテンツ」があれば、ハードルを越えてそのまま使い続けるサービス、つまりは新しい日常になっていくんですね。
有料動画資料サービスの無料のお試し期間やフードデリバリーのクーポン配布などは、魅力的なコンテンツとの出会いと体験を創り出す重要なきっかけになっていますね。
今後もさまざまなデータから生活者の今や変化を捉えるとともに、その姿に自分や家族、あるいは見ている風景などを重ねながら、より実感のある読み解きをしていきたいですね。
《中林》
お客様も「過去」や「現在」だけの話ではなく、むしろ、「これから」に向けての情報を私たちに期待してくれていると思います。また、データだけの話ではなく、よりリアリティのある情報としてお届けすることが大切だと感じています。
このコラムのテーマであるデータを収集・分析する「リサーチャーの視点」と、もう一方にいる「ごく普通の生活者の視点」をいったりきたりしながらの対話を念頭にこれからもデータを、世界を読んでいきたいと思います。
《田中》
ぜひ、また、対話の機会を!楽しみにしています。
4. あとがきにかえて
インテージは小売店パネル(SRI+)、消費者パネル(SCI)、メディア接触パネル(i-SSP)など、さまざまなパネルデータがあり、さらに多くの自主調査を行いながら、日々、世の中を、生活者を知るための試みを続けています。
それらのデータの裏側にはデータを収集するメンバーがデータを収集しながら、小さな動きにも気を留め、その動きの理由を探っています。時に自らの暮らしの実感や感性を重ねながら。
この対話シリーズはそうしたメンバーの「リサーチャーの視点」と「ごく普通の生活者の視点」の行き来、これもまた対話!を通じて、よりリアリティのある情報をお届けできればと思い、お届けしました。
また、折を見て、彼らとの対話に向かおうと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
※1 インテージ キッチンダイアリー®
京浜・京阪神・東海の1,260世帯の食卓・調理の状況を食場面(朝食・昼食・夕食)ごとに継続的に捉えた
リアリティのある食にまつわるデータです。
※2 電通報
「2020年 日本の広告費」特別対談 ネットとリアルの融合が加速。メディアの役割はどう変わる?
三友仁志(早稲田大学)× 奥律哉(電通メディアイノベーションラボ 統括責任者/電通総研フェロー)
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生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
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