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実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第10回 FMOTとSMOTを統合してブランド体験を設計する

本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。

第67回では、第1の「真実の瞬間」FMOT、第89回では、第2の「真実の瞬間」SMOTについて、生活者中心に考えてきました。第1回では、これらの「真実の瞬間」が、生活者の中にパーセプション(認識、知覚)を形成することを書かせていただきました。

第10回では、FMOTとSMOTを統合したブランド体験の設計について、考察していきたいと思います。

1. 「買いたい」と思うまでのコミュニケーション

図1は、第1回でもお示しした生活者起点のブランディングモデルです。生活者は、日々購入の判断と商品/ブランド体験の評価を繰り返し、その過程を通じて、商品/ブランドに対するパーセプションが形成されていくというものです。

図表1

生活者起点のブランディングモデル

購入の判断をする(≒お金を支払う)のは店頭ですが、「購入したい」と思うまでには、少なくとも図2のような過程が必要となります。この過程は、衝動買いのように店頭で一瞬にして完結する場合もあるでしょうし、様々な情報伝達媒体を通じて、お店の外で完結する場合もあると思います。

図表2

情報接触のジャーニー

このモデルのポイントの一つは、情報接触は、生活者の受動的な行動から始まるということです。存在を知らない商品やブランドを、意思を持って探したり、検索したりすることはできませんので、生活者の視点では、商品やブランドの認知は、「偶然」知るところから始まります。「偶然」の中には、TVCMなどのマス媒体との接触もあるでしょうし、SNSやリアルでの口コミなどもあります。何某かのお困りごとについて調べていたら、たまたまその商品/ブランドにたどり着くようなこともあります。

一度商品やブランドの存在を知ると、生活者は能動的に情報を探し、理解を深めようとすることが可能になります。可能になるだけで、すべての生活者が、存在を知った商品やブランドについて、情報を探索する訳ではありません。一方で、その商品やブランドを「買いたい」と思うか否かは、生活者の理解の程度にかかわらず判断されます。理解が深ければ「買いたい」と思う気持ちが高くなるという訳ではありませんが、理解が浅ければ「買いたい」と思う気持ちが高くなりづらいと考えられます。言い換えると、何だかよく分からないものを買おうとすることはほとんどない、ということになります。

ブランド体験の設計という観点でこのモデルを捉えると、ターゲットとする生活者に「偶然」接触する確率をいかに高めるか、そして1回の接触でいかに理解を深めてもらうか、を考えることが重要になります。1回の接触で理解を深めてもらうのは容易ではないと思いますので、いかに接触頻度を上げるか、あるいは、能動的に情報検索をしてもらうかを考えることも重要です。

生活者は、買いたいと思うものをすべて購入する訳ではありません。購入する前には、多くの場合、「他の商品やブランドと比較し選ぶ」という行動を行います(図3)。 詳細は、第67回で書かせていただいたので割愛しますが、ブランド体験の設計の観点では、「気づく」「手に取る」「バスケットに入れる」確率を上げることを考えることがポイントになり、商品パッケージが主要な役割を果たします。

図表3

お買い物行動モデル

2. 生活者の期待に応えるイノベーション

生活者がある商品やブランドを買いたいと思った時、意識的あるいは無意識的に、その商品やブランドに対する期待値が生まれると考えらえます。食品や飲料であれば、味を想像するでしょうし、洗剤であれば、汚れ落ちを想像すると思います。生活者が期待する具体的な味や汚れ落ちは、コミュニケーションを通じて伝達される情報によって変わります。商品やブランドは、イノベーションを通じて、その具体的な期待に応える必要があると考えられます。

図4は、ペットボトル入りミネラルウォーターの体験を、生活者とパッケージの接点を軸に要素分解し、各接点での生活者が感じるであろうことと、それぞれに対して開発者が「生活者に感じて欲しいこと(≒製品が届けたい体験)」を一覧にした例です(※調査結果ではなく、仮説です)。 「生活者がパッケージに触れた時に何かを感じ、それを総合して製品の体験が評価される」という考え方がこの要素分解の背景にはあり、製品が届けたい体験は、生活者の期待どおりか、それ以上を設定します。実際の食品や飲料の開発では、味覚や嗅覚、聴覚などで感じることも、この一覧に含む必要があると考えられます。

図表4

生活者と製品の設定 ~ボトル飲料の例~

ある商品やブランドについてコミュニケーションを行う場合、新しい訴求や新しい価値の提案などが含まれることが多いと思います。製品を開発する上では、その訴求や提案によって、生活者はどの接点で、どのような変化を期待しているかを理解することが重要になります。例えば上記のペットボトルで「クシャっと潰せて、かさばらない」という訴求をしたとすると、『両手でボトルをひねる』という接点では、ただ潰せるだけではなく『クシャという音が鳴る』ということが期待されるかもしれませんし、『ボトルを捨てる』という接点では、『潰した時の体積が、今まで以上に小さくなる』ことを期待されるかもしれません。新しい訴求や価値提案に対して、期待に応える製品体験を提供できれば、生活者の中には、ポジティブなパーセプションが形成され、期待外れであれば、ネガティブなパーセプションが形成される可能性が考えられます。

3. ブランド体験の俯瞰と設計

ここまで、商品やブランドに対する、パーセプションを形成するための、情報との接点(図2)、パッケージとの接点(図3)、製品との接点(図4)を考えました。 情報やパッケージとの接点が、生活者の中に期待を創り出し、製品との接点で、その体験が評価されると考えられます。ブランド体験を設計するためには、コミュニケーションとイノベーションを切り離して考えることはできません。

情報やパッケージと生活者との接点は、基本的に、生活者の行動や習慣に依存すると考えられます。商品やブランドの情報を伝えるためには、生活者が接触するであろう媒体に情報を載せておき、生活者が接触した時に、情報が提供できるように準備しておくという考え方になります。情報提供の媒体は、数多くありますので、生活者の情報接触や収集行動を理解して、接触確率を上げる取り組みが必要となります。同様に、店頭で商品を手に取って貰うためには、生活者が買い物をするであろう場所に、商品を配荷しておき、来店した時にすぐに手に取れるよう準備しておくという考え方になります。商品を購入できるチャネルは、数多くありますので、生活者の購買行動を理解し、接触確率を上げる取り組みが必要となります。

生活者と製品との接点では、期待に対する評価が行われ、その期待はコミュニケーションされる情報によって設定されると考えられます。伝達される具体的な情報と、そこから生活者が期待すること、その期待に応える製品体験とその接点をまとめることで、ブランド体験を俯瞰し、設計することが可能になります(図5)。

図表5

ブランド体験の設計例

4. まとめ

「買いたい」と思うまでのコミュニケーションと、生活者の期待に応えるためのイノベーションについて、それぞれのモデルを用いて考察しました。コミュニケーションが生活者に期待を抱かせ、イノベーションを通じてその期待に応える製品体験を提供することから、コミュニケーションとイノベーションは切り離して考えることはできないと考えられます。ブランド体験は、情報との接点、提供する情報、生活者の期待、提供する製品体験、製品との接点をまとめることによって、俯瞰した設計ができるようになると考えられます。

※)記事でご紹介したFMOTとSMOTを統合したブランド設計にご興味のある方がいらっしゃいましたら、弊社HPを通じてご連絡頂くか、営業担当までご連絡ください

著者プロフィール

平井 公一 株式会社インテージ マーケティング企画推進部 プリンシパル・コンサルタントプロフィール画像
平井 公一 株式会社インテージ マーケティング企画推進部 プリンシパル・コンサルタント
大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

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