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2030年の街づくりと生活者のウェルビーイング~インテージ未来レポート シナリオ3

様々な社会課題がある中で、その解決手段として期待される各種データや先端技術の活用。
2030年の未来を考える~インテージ 未来レポート 序章でお伝えした通り、インテージグループでは、現状分析や先端技術動向を踏まえた未来予測と社会変化から、バックキャストで今後必要となる技術を検討する「インテージグループ未来レポート」を作成しました。

この記事では、このプロジェクトで描いた4つの未来シナリオのうち「街づくり」に関するシナリオと共に、その背景にある変化と技術動向について解説します。
2030年、街づくりはどのようになっているのでしょうか?想像してみたいと思います。

2030年の未来シナリオ~ポートランドへの憧れは、今は昔

※「2030年の未来シナリオ」は、インテージグループR&Dセンターが想定したフィクションです。

2030年夏、今年は温室効果ガスの削減やSDGsの目標達成の節目の年で、世界中の国々がラストスパートをかけている。温室効果ガスの削減においては進展著しいものの、世界公約の2010年度比45%削減は難しそうだ。ただ2050年のカーボンニュートラル達成の道が途絶えたわけではなく、光明も見出しつつある。

「暮らすだけでエコになる街」への移住が転機

30歳の私は、現在暮らしている街が見渡せる小高い丘に登り、感慨深い気持ちで一望した。「世界の目標達成は厳しそうだけど、自分が住む街は達成できて良かった」。
2020年当時に学生だった私は、「環境問題を解決して、地球の持続可能性の発展に貢献し、未来の世代につなげたい。そうした街づくりを学ぼう」と米国ポートランドに留学を検討したが、新型コロナウイルス感染拡大で断念を余儀なくされた。だが、それから10年が経過し、夢の実現に一歩近づいた。そのきっかけは3年前に「暮らすだけでエコになる街」というコンセプトに共感し、この街に移住したことだ。

2020年代、人口減が進む地方の街づくり政策は方針を転換した。SDGsや社会課題解決をコンセプトとして掲げてKPI化し、街中から集めたビッグデータと比較した結果をもとに住民が政策評価を行うなど、データを高度活用した街づくりを推進した。

私が住む街では、温室効果ガスと食品ロスの削減に特に注力している。温室効果ガスの削減は、移動やサービス消費時に排出されるCO2量と、再生可能エネルギーを利用したり森林保全プログラムに参加したりした場合のCO2削減量を、住民ごとに可視化して促進した。排出と削減の収支は「CO2家計簿」で管理している。
不思議なもので、可視化されると削減のモチベーションが高まる。KPIに連動したイベントが頻繁に行われるので、他の住民との一体感も出て、より行動変容を促したのだと思われる。

さらにこの街では、KPIに連動して企業や住民に効果的なインセンティブやペナルティーを設定し、モチベーションを管理したことで、日本国内でも先駆けてカーボンニュートラルを達成した。

こうした取り組みが評価され、市場調査会社が行う「日本の幸せな街アワード」のSDGs目標「気候変動に具体的な対策を」や「飢餓をゼロに」の行動変容KPIで高得点を獲得し、社会課題解決部門で全国1位に輝いた。政府公開の「ウェルビーイング指標」の市民アンケート調査の主観評価では「地域の幸福」や「地域の一体感」も高く、住民の幸福度も高いことが分かる。

昨年の流行語大賞に選ばれた「フレイル」

私が最近、一番気がかりなのが、祖母にフレイルの懸念が出ていることだ。祖母は昔から私の理解者であり、両親が反対した米国留学にも賛同してくれた。フレイルとは加齢ともに心身の活力が低下し、虚弱になっている状態を指す。放置すると要介護になりやすい一方、適切に支援や介入することで進行を妨げ、生活機能の維持や向上ができる。高齢化と労働力減少で介護負担が重くのしかかる中、フレイル予防は医療ヘルスケア分野の中核政策の1つだ。「フレイルになるメカニズムは解明し、年々そのタイミングは遅くなっている。祖母も83歳だから、昔に比べたら非常に遅いのかもしれないが」と私は祖母を案じた。

ある日、私宛てに、祖母に導入したフレイル予防アプリ「ふれいる」から、祖母の外出や食事量が減少傾向にあるとの通知が届いた。このアプリは高齢者の移動や食事状況、睡眠状態などをカメラやウェアラブルデバイスの生体センサーから取得したり、本人に入力したりしてもらうことでフレイル度の算定を行い、家族や本人に対して対策やアドバイスを提供する。フレイルが進行して身体面の支援が必要な場合は、パートナーロボットを借りて支援を受けられる。
アプリ「ふれいる」を導入してから祖母の状況がよく分かり、コミュニケーションの機会も増えた。その意味では効果を実感しているが、祖母が今住んでいる街のフレイル予防政策は必要最低限、かつ他の魅力も乏しい街だった。

私は思い切って祖母を連れ出して「暮らすだけでシニアが元気になる街」を訪れた。祖母が気に入れば、移住させることを検討している。この街ではフレイル予防を最重要政策として推進し、同意を得たシニア個人の活動データに加えて、事業者が集めたシニアの移動データや購買データ、公的な統計データなども活用して、政策の立案や評価を行っている。
こうしたデータの高度活用の結果、この街ではフレイル予防はもちろん、医療・介護・ヘルスケア事業者の連携によるサービス拡充や合理化により収益が向上し、街の税収は増加。さらに街のコンセプトに共感し、終の棲家を求めて移住する健康意識が高いシニアが多く移住し、人口増にも転じた。この街では、フロントエンドのアプリ活用に加えて、街ぐるみでデータを連携して政策や事業に活用できる社会基盤を構築しているからこそ、街の魅力や住民の幸福度が高まるのだろう。

コンセプトに共鳴し、類は友を呼ぶ

2020年頃からフランスで住民1人当たりの所得が最も高い都市は、人口わずか2万人強のエペルネーという街だ。シャンパンの生産者が集積するなど第一次産業を原動力として栄える。近年、日本でも同様の現象が生じている。東京や大阪などの大都市を除いて、雇用が多い大企業を誘致して人口を増やして繁栄させる従来型の街づくりのモデルは限界に来ている。

その一方で、人口が少なくても街づくりのコンセプトが魅力的であれば、その魅力を高めることができる。現にシニアが元気に暮らすこの街にはレストランや日本酒の醸造、伝統工芸やアートなどに秀でた若者が多く集まっている。新進気鋭の若手外国人シェフが手がける和の食材と日本酒で構成されるモダンジャパニーズレストランは、日本全国はおろか海外からも客が訪れる人気スポットだ。

フレイルの多くは、人的交流が減る「心のフレイル」、小食や偏食など「栄養面のフレイル」、支援が必要な「身体面のフレイル」が相互に影響しながら、進行する(※1)。私が祖母に「モダンジャパニーズレストランの予約が取れたから、秋に行かない?」と聞くと、祖母は「嬉しい」と笑顔になった。私がさらに「その街では、地元のシニアが皆で集まって野菜を育て、その野菜を使ってメニューを考案し、有名シェフに調理してもらう季節の食を楽しむイベントもあるらしいよ」と言うと、祖母は「移住してもいいわ」と言った。祖母が街を気に入ったみたいで私は安堵した。人によって街が変わり、街によって人も変わる―。こうした好循環を回すことで人口減が進む日本でも、街の魅力と住民の幸福度を高められる街が増えるはずだ。

街づくりを取り巻く動き

モノやエネルギーの利用を減らしつつ高齢化や人口減少に対応し、温暖化で自然災害が猛威を振るう中で老朽化した社会インフラを再整備するなど、2030年に私たちが暮らす街には課題が山積しています。多くの社会課題と向き合いながら、住民の価値観を反映した暮らしができ、幸福度(ウェルビーイング)を高める街づくりはどうすべきでしょうか。

インテージグループが提唱する街づくりの未来像は、現在構想中のスマートシティのハード的な要素に加えて、ビックデータの高度活用で、社会課題解決に住民が積極的に参画できる“武器”を実装することです。具体的には、街づくりのコンセプトをKPIとして設定し、街中から集めたビックデータと照らし合わせて住民が評価し、住民が望む街づくりを推進します。

例えば、高齢者を要介護にさせない「フレイル予防」KPIを設定し、街の建設や医療事業者などが提供するサービス、高齢者にも行動変容を促す「暮らすだけで健康になる街」の実現。また自治体や事業者のみならず、住民が移動や消費する際のカーボン排出量を可視化し、カーボン削減のナッジを提供する「暮らすだけでエコになる街」の実現などがあります。

社会課題を解決する街づくりのコンセプト例

住民は暮らす街を選ぶこと自体が生き方を選ぶことにつながり、より積極的に街づくりに参画して幸福度が高まる、自治体は住民を支援することで、街の魅力が高まるという好循環が生まれます。

街づくりを進める自治体の中には、米国のポートランドのような魅力ある街が誕生し、そこに住む住民の幸福度は高まるでしょう。政府は好循環を広げるべく、街づくりに成功している事例の共有や、政策評価(EBPM)を進め、他の自治体など全国に展開するでしょう。

ハードや人的資本に頼らないデジタル生活基盤の構築が必要

街づくりと言っても人口減少による税収低下や労働力不足もあり、従来のようなハードや人的資本に依存する方法は難しくなっています。そこで取り組むべきなのが、デジタル技術を活用した生活基盤構築です。デジタル庁は「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、「複数のサービスが協力し支え合う共助のビジネスモデルを土台としたデジタル生活基盤の再構築が必要」だと提唱しています。この実現には民間データの活用やデータ連携が必須です。

データ連携が進むことで、共通指標を軸としてステークホルダーを超えた連携とPDCAサイクルの実施が可能になります(下図)。これにより、PFS(Pay For Success:社会課題の解決に対応する成果指標を設定し、成果に応じて報酬額を連動させる官民連携手法)、SIB(Social Impact Bond:行政と事業者による成果連動型支払に民間資金活用を組み合わせた官民連携手法)の指標、政府のEBPM、企業のインパクト評価における評価データについての関係性が明らかになり、住民の幸福度(ウェルビーイング)の高い街づくりが達成されることが期待されます。

データ連携が実現する街づくり

また、このように地域社会の実態を明らかにする“デジタル生活基盤”が整備されることで、企業活動の地域へのインパクトが可視化され 、マーケティングまでがつながると考えられます。

デジタル生活基盤の設備によって可視化される企業活動のインパクト

おわりに

住民の幸福度(ウェルビーイング)を高める街づくりを進める上ではビッグデータを活用して、街の社会課題解決に向けて住民がより積極的に参加できる仕組みを構築する必要があると考えられます。インテージグループでは、今回のレポートをベースに、果たすべき役割の検討を始めています。「高度なデータ活用」による未来づくりに貢献すべく、これからも研究・開発を進めていきますので、ご興味があれば是非お声がけください。

次回は医療とヘルスケアをテーマとした未来シナリオをお届けします。


出典 ※1:「地域で取り組む高齢者のフレイル予防」辻哲夫・飯島勝矢・服部真治著、中央法規


【インテージグループ未来レポートとは】
2030年の未来に向けた社会変化から取り組むべき課題を検討することを目的に、インテージグループR&Dセンターで描いた未来予測レポート。生活者、企業、街、医療の4領域を予測し、SFプロトタイピングの手法により、バックキャスティングで必要となる技術を描き、研究開発テーマとして検討を進めています。

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