アルファ世代が考える2030年未来の社会④~アルファ世代を調査する意義
インテージグループR&Dセンター*1が共同研究機関として参加している、産業能率大学の小々馬敦先生*2との研究プロジェクト「ミライ・スケッチ2030」。これまで、アルファ世代をより深く知るためのインテージの挑戦を3回にわたって紹介しました。最終回となる今回は、小々馬先生をお招きして、本取り組みの背景や得られた成果、そしてアルファ世代を含む若年層を理解していく意義や方法をテーマにインテージメンバーと対談しました。対談の様子を、インテージ先端技術部の小林がお伝えします。
「ミライ・スケッチ2030」のきっかけ
今回のミライ・スケッチ2030のワークショップは、アルファ世代(小学校6年生)の4名チーム以外に、大学3年生と小学6年生が混合となった2チームを合わせ、計3チームで実施しました。大学生と小学生の混合チームの成果は、2022年11月29日に開催した第16回「ミライマーケティング研究会」*3にて報告されました。対談では、本取り組み全体のお話を伺いました。
インテージ先端技術部 小林春佳(以下小林):はじめに、ミライ・スケッチ2030のプロジェクトを始動するきっかけを教えていただけますか。
産業能率大学 小々馬敦(以下小々馬教授):ゼミの研究活動では、10年後20年後の社会の動きに対して、マーケティングはどのように進化していくべきか探求しています。ポストSDGsとも言われる2030年代は、今の大学生が30歳ぐらいとなります。ゼミ生たちがマーケターとして社会の中心になっていく時代を具体的にイメージできる取り組みにしたいと思い、2030年をマイルストーンとしました。また、Z世代だけを理解するのではなく、世代の組み合わせに着目し、特に2030年代に中心となる2つの家族構成、Z世代と団塊ジュニア世代の親、アルファ世代とミレニアル世代の親の関係も意識し、ミライ・スケッチを通してアルファ世代とその家族がどのようなことを考えているか知ることを試みました。
小林:今回のミライ・スケッチの成果は、企業活動でどのように利用されることを想定していますか。
小々馬教授:今回の取り組みの冒頭に、2030年のビジョンを学生に共有してもらいました。10年後20年後の人口分布や技術進化などは正確に予測でき、どのような世の中になるか、具体的にイメージができますよね。生活者、特にZ世代やアルファ世代が「いいね」「役に立つ」と感じ、イメージに追いついたときに時代が大きく変わると感じます。現在、企業が描いている2030年ビジョンが、その時代の中心となる世代に受け入れられるか、いつ頃受け入れられるか、検証の一助にしていただければと思います。
生活者研究センター 田中宏昌(以下田中):コロナ禍以前は、バズワードとして、Z世代が語られていましたが、「みんながそう、ではないよね」という議論があり、最近はZ世代の生の声を訊きたいというニーズが高まっていると感じます。また、短期的ではなく、長期的な施策の検討やプロダクト開発など様々な立場の方からそういった声を聞きますね。
小々馬教授:おそらく企業の視点が変わったのだと思います。「若者に売れる」商品というと市場ボリュームは小さいが、若者の価値観を理解しないままの従来のマーケティングを続けても事業がスケールしないことに気付いたのではないでしょうか。ゼミへの相談も以前は、「若者に刺さる商品・プロモーションをつくりたい」という依頼が多かったですが、最近は「商品開発のプロセスを変えたい」など、マーケティングそのものの変化を望む相談が増えました。
インテージクオリス 大野貴広(以下大野):Z世代を対象とする定性調査では、通常の定性調査の目的(例えば商品の評価など)ではなく、「兆し」を探る内容が多いですね。そのため、調査フローも通常の調査よりも余力を残す構成が多く、リサーチャーの腕の見せ所ではあります。
ミライ・スケッチ2030を通して得た成果
小林:今回のミライ・スケッチを行うことによって、どのような成果を期待されていたのでしょうか。
小々馬教授:報告会の時に1人の学生が「自分たちが2030年にマーケターになった時、この世代(アルファ世代)の想いをもっと理解しなければいけない」と話していました。彼ら彼女らに事前に伝えていなかったのですが、それに気づいてほしい気持ちがありました。社会の将来の状況は、割と正確に予想されるのですが、自分たちの下の世代がどのような期待を持っているのか、その世代とその家族に対して、どのような想いでマーケティングをしていくべきか考えてほしかったのです。今までは、自分たちが調査対象であったのですが、これからは自分たちが調査研究しマーケティングを創る立場となることの気づきを得てほしかったですね。今回の取り組みを通して、アルファ世代の価値観や行動の違いに衝撃を受けていました。自分たちが30歳になった時に向かい合う新入社員は、プログラミングができて、英語ができて、ファイナンスの授業を受けていて、と考えると、自分たち世代と比較して思うことはあったようで、刺激になって良かったです。
大野:ぐんま国際アカデミー*4は、画期的な教育システムを導入していることもあって、より強い刺激になったのではと感じました。インタビューの受け答えも、普段からプレゼンテーションの授業があるとおっしゃっていた通り、とてもしっかりしていました。逆に保護者の方がアルファ世代の考え方についていけない場面もありましたね。(インタビュー結果の詳細は、アルファ世代が考える2030年未来の社会③をご覧ください。)
小林:混合チームの他に、アルファ世代だけのチームがありましたが、どのような違いがありましたか?
大野:小学生だけなので、小学生らしいドリームのような内容も含まれていたかなぁと思います。一方で混合チームは、現実的な内容だったかなと感じました。
小々馬教授:混合チームの最終ゴールを、プレゼンテーションにおいていたこともあるかと思います。また、ゼミ生を見ていると、年齢の異なる人と取り組むことで、より良いものを創りたいマインドが高まるように感じます。今回もそのような作用はあったと思います。
今後の展開
小林:X世代やミレニアル世代がZ世代やアルファ世代について、考えることは限界があると私は感じていて、未来マーケティング研究会でも話題となった世代の枠を超えた共創が有効だと感じたのですが、今後どのような広がりがあると思いますか。
小々馬教授:物を売るためのプロモーション施策の検討を共創でやりたいとおっしゃる企業が多いのですが、今はパーパス経営などで企業の想いに生活者が合意してくれて、ファン顧客というよりも、もう少しゆるい関係でブランドや商品を選んでくれる応援社会になっていくことを経営層やブランドマネージャーは、理解し始めています。一方でその考えを後押しするようなコミュニティやプラットフォームなどの手法は、まだ出来ていない状況です。その形がSNSなどでできると、今までと違ったマーケティングの形になると思います。Z世代向けの商品をZ世代と創るのではなく、より広い社会テーマに取り組んでいる上の世代の活動に、Z世代やアルファ世代が加わることで開発される内容の実装が高まると思いますし、若い世代は自分たちの意見が尊重されることにモチベーションも高まると思います。
田中:マーケティングで飛び交う言葉や考え方をアップデートしていかないと、いくら調査をして、生の声をきいても、最終的には読み解きに失敗してしまって生活者に届かないと思います。言葉のアップデートやデータの読み解きに若い世代に実際に入ってもらって突き詰めていくことも有効であると感じますね。「これからの社会」を見据えている企業ほど、そうした課題に気づいていて、ここでキャッチアップしていかなければという気持ちが強いですね。(Z世代を知るために「言葉」をアップデートも合わせてご覧ください。)
Z世代、アルファ世代と共に創るリサーチの在り方
今回は、小々馬先生をお招きして、ミライ・スケッチ2030を振り返りました。本取り組みを通して、異なる価値観同士のコラボレーションによる相互理解を純粋に面白いと感じました。グループワークという形式で多様な“個”というよりも多様な“属性”として活動できたことで、世代間の共創を感じるアウトプットになったのではないかと思います。
インテージでは、産学連携生活者研究プロジェクトの取り組みの一つとして、Z世代に訊いてみるリサーチではなく、Z世代と共に考えるリサーチプロジェクトを複数の企業と大学機関で試験的にスタートしています。従来のリサーチで得ることのできなかった新たな気づきを求めて、リサーチの在り方のアップデートにも挑戦していきたいと感じました。
*1:インテージグループR&Dセンター
*2: 産業能率大学経営学部マーケティング学科 小々馬ゼミ
*3: 第16回「ミライマーケティング研究会」
*4:ぐんま国際アカデミー
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