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暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる⑥~餃子のLTVについて考えたことはありますか?~

ヤオコーの弁当の朝はバームクーヘン

前回、「n=1というのは、対象サンプルが一人なのかという数量のことではなく、生活文脈を連続的に捉えることこそを意味する」という言い方をしたが、少し補足をする。それは暮らしをみる時に「時間軸」を入れるということである。

たとえばヤオコーで購入されたお弁当が実際にはどのように食べられたのかという「時間軸」を入れてみるということだ。そのことで夏らしい旬を感じる様々な漬物や、みょうがという香草を楽しんでいるという価値がみえてくる。そして八種野菜の煮物を食べたいという簡便性の欲求にフィットしたことが、お弁当の購入につながったことが理解できる。何しろスポーツジムでいつもよりハッスルしてしまったのだから。これが「時間軸」ということを入れた生活文脈なのだ。加えてスポーツジムからヤオコーへという「空間軸」も加味したことにもなる。これが生活動線という視点なのである。

さらに「時間軸」を広げてこの日の朝ごはんをみてみると、バームクーヘンが1日のスタートの楽しみだったこともわかる。「近所のパン屋さんでバームクーヘンの切り落としを買ってきました。柔らかい上にバターが多く入っているので食べやすいためです。」ということなのだ。ここには簡便である上にリッチであることが複合されている。なおかつ「食べやすい」というところには、シニア女性特有の欲求が潜在しているのではというヒントも感じさせてくれる。

そしてサラダとコーヒーなど、この生活文脈からは様々な視点をえることができる。これはまた別の機会に掘り下げてみる。

冷凍庫という時代と世代

このおばあちゃんの一日は、もう7年以上も前の暮らしのシーンである。このバームクーヘンはその前日あたりに、翌日の朝ごはんをイメージして買われていたものだ。これが冷凍庫に入れられるということはまだまだ想定できない時代だった。

また、冷凍ということを生活のノウハウとして駆使することに対して、いくばくかの抵抗のある世代でもある。ただ、これは大きく変化していった。今ならこのバームクーヘンも冷凍庫を住まいにすることになっているかも知れない。あるいは、やっぱり翌朝の楽しみを想定して、前日にいつものパン屋さんで買うというスイッチが入ることになるのかもしれない。この変化の行く末も、生活動線と生活文脈という「時空間」という鍵を追うことでしかわからないのだ。

とはいえ、これまでも述べてきたように、この冷凍庫という住まいは、暮らしの中の時間軸のあり方に大きな影響を及ぼしていることは間違いない。

前々回に少し述べたが、たとえばOKストアの大容量の餃子は、この冷凍庫という住まいがあってこその価値である。これが冷凍庫にいることで、働いているママたちにとって、忙しくて「ああどうしよう、何も用意していない」っていう時の救世主になるのだ。では餃子は困った時にだけ冷凍庫から登場するお助けメニューになってしまったのだろうか。

「あの豚ヒキ肉」が気持ちスイッチをオン

ここに紹介する冷凍庫の中の餃子は、手作りで、この日の夜はできたて餃子をパリッと焼いて2人の子供たちと一緒に30個は平らげた。50個作ったので後の20個は冷凍庫がいつもの通りの住まいとなったという訳だ。OKストアの餃子のファンだからといって、彼女にとっての餃子というメニューは、冷凍食品愛用の「時短派」か?というと全くそんなことはないのだ。

「気分が乗れば餃子は手作りが一番おいしい」という。さてこの「気分が乗れば」というのがなかなか曲物だ。まずは第一番目が明後日の午後はちょうど休みで、他に予定を入れていないという時間軸が餃子手作りスイッチを入れることになる。むしろこちらの方が、餃子スイッチの本命かもしれないのが「あの豚ヒキ肉をゲット」ということだ。今日はちょうどその前をママチャリで通ることができたお肉屋さん、「ここの豚ヒキで作った餃子は最高においしい」ので、空き時間の予定を思い浮かべて餃子手作りスイッチが入ることになった。「25枚入りの餃子の皮も2袋ゲット」して、準備完了である。2日後くらいの方が、豚ヒキの油のまわり具合もいいのだということで、子供たち2人も一緒になって手作り餃子の50個の完成なのである。この手作り餃子の体験価値は、子供たちにも伝承されていく。これが餃子というものの生涯価値そのものである。

「手作り派」「時短派」の重層化

この日は30個がすぐに夕食の食卓を飾ることになり、あと20個はいろいろな場面でその後活躍することになる。ここで紹介する野菜鍋にも登場することになった訳だが「野菜ばっかりじゃイヤダー」という子供の文句に応えて、包み揚げいなり風鍋になる。餃子をそのまま入れると、水餃子嫌いの長女のブーイングがあるので、ちょっと一工夫、なかなか餃子は万能なのだ。

この時の手作りでは皮は50枚だったので、餡が余ったのも予測済みで、これも即冷凍庫に入居している。これは時短、簡便、手抜きでチャーハンをする時に、この餡と卵だけでバッチリ中華風が決まる。できるだけこの餡を平べったい状態にして冷凍しておくと、調理する時にさらにうまくいくということだそうだ。

餃子を手作りしているという断面だけをみていると、すぐに彼女に対して「手作り派」だというレッテルを張りたがるが、手間と時間をかけた行動と、時短、簡便が一つの暮らしの流れ、生活文脈の中で併存、重層化している。さらにOKストアの餃子の利用という断面だけをみていると「手抜き派」になってしまうが、実は暮らしはそうではないのだ。これは豚ヒキ肉をゲットするという生活動線、そして生活文脈を見ること、つまりn=1の視点こそがそれを探索することのできる鍵なのである。

これがたとえば餃子というメニューのLTV(ライフタイムバリュー)、生涯価値のあり方といえる。この生涯価値の中で、自分たちのマーケティングはどうあればよいのかを考えるということになればいい。「手作り派」「時短派」などといったレッテル張りではないのだ。

ほっかほっか亭の弁当までを「積分」する

この「知るギャラリー」で連載されている「新しいマーケティングのすすめ」の第二回で筆者の本間充さんが、「微分」と「積分」という話をされていた。顧客生涯価値(LTV)の視点から、ある一時期、断面だけを「微分」的にみるのではなく、時間で「積分」した値をみていくべきだという主旨だと私は解釈している。

暮らしを「積分」していくというのは「時間軸」を明確に入れていくことであり、それが生活動線であり、生活文脈という基準だということになる。ヤオコーのレシート一枚の生活情報は重要だが、それを「微分」的に追い、たとえ一万サンプルというように数だけを拡大しても何も見えてはこない。

それを暮らしの時間、空間の軸の連続に転換して「積分」化していくことで、たとえばお弁当や、バームクーヘンの切り落としの意味が理解できるのだ。さらにたとえば餃子というもののLTVをみていくことで、暮らしの多重性の中での価値のポジションを仮説化していくことにつながっていく。

一見「手作り派」のレッテルになるこのママと子供2人の快晴の公園お出かけシーンの写真を一枚見てみよう。ほっかほっか亭のお弁当を買ってすっかり「手抜き、時短派」になっている。“すみっコぐらし”をみながらの楽しそうな顔。これが生活文脈こそが教えてくる暮らしの姿なのだ。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
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Marke-TipsちゃんねるURL:https://www.youtube.com/channel/UCmAKND92heGN-InhC0sp7Kw

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