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暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる⑦~「お弁当」とは「売り方」なのか「食べ方」なのか~

「お弁当スイッチ」がオンになる

今日は2月の最終日曜日である。昨日からようやく東京でも春らしい陽気になってきた。今日あたりは最高気温が17℃に近づき、ずっと我慢をしてきた寒さからも解放されて、快晴の青空にホッとした気分になれたようだ。こんな気分を受けて「お弁当スイッチ」がオンになった。冬晴れの土曜日に「コインランドリースイッチ」がオンになるのと同じようなことである。

昨日今日と、私の手元には「お弁当シーン」の情報が数多く集まってきている。暖かさに誘われて、アウトドアに出かけての行楽弁当のスイッチがオンになっているのだろうか。もちろんそれもあるが、お昼ごはんの「食べ方」として「お弁当」が選択されているということである。ストーブや床暖房のきいた食卓から少しだけ「食べ方」のシーンが移動し、「お弁当」という形をとっているのだ。

ここに紹介しておくのはその一部だが「ベランダ弁当」であり「庭弁当」である。

おにぎり、卵焼き、ウィンナー、唐揚げがその中身であり、食卓で食べられているのか「ベランダ弁当」になっているのかの差異は構成アイテムではない。同様のものが「お弁当」として詰められて、ほんの数メートル場所が移動しただけといっていい。ところが、待ち遠しかった春の日差しによってこの「ベランダ弁当」のスイッチが入り、楽しいチビッ子たちのランチタイムが生まれでたといえる。

お気に入りの “おしりたんてい”のお弁当箱がさらに気持ちをアゲルことになる。

餃子スイッチやコインランドリースイッチと同じように、暮らしの文脈の中で「お弁当スイッチ」が入ることになったのだ。

「買い方」という「お弁当」の価値

もう一枚紹介する「庭弁当」も同様のことである。詰められているアイテムの大半はいわゆる残り物である。

どれかがおかずの主役ということではなく、どれも同じウェイトで弁当の中身が構成されている。なぜ同じ食アイテムなのに、「お弁当」ということになると価値が上がるのだろうか。この弁当のために特別に調理される、というプロセスがあって、新しい価値が生みだされている訳でもない。一時期ブームになった「キャラ弁」とも違うのだ。「お弁当」というものは、究極の「食べ方」の魔法だといえる。そしてその魔法が、お天気という条件によって一気に顕在化することになったのだ。

前回の公園にお出かけして食べたほっかほっか亭の「お弁当」は、“すみっコぐらしのお弁当”ということが最大の魔法使いであり、とりあえず手軽に簡便にということが、そのスイッチをオンにさせた訳だった。「食べ方」としての弁当というよりも、弁当という「買い方」を選んだということが言えそうだ。

さらに前々回紹介したヤオコーの弁当である。利用したおばあちゃんにとっても、その時の「お弁当」は、「買い方」としての弁当の価値だったといえる。「買い方」としての「お弁当」は、手軽に簡便にというスイッチが、その唯一の鍵だとみえるかもしれない。
しかし、このシーンでのヤオコーの「お弁当」を「食べ方」という視点でみれば、その時の「食べ方」全体の、一つの構成要素の重要なアイテムだったのだ。とりわけ八種和菜の煮物ということが、この弁当を選択したメインのスイッチだった。その「食べ方」全体を構成している様々な漬物やフルーツなどと、この弁当の中に入っている煮物の組合せこそが価値だったのである。この時のプレート全体をみていると、弁当箱には入っていないが一種の松花堂弁当を想像させる。

これこそが「食べ方」としての「お弁当」そのものだといってもよさそうなのである。

「食べ方」が魔法をかける

「お弁当」というと、行楽弁当や通勤、通学ということだけに限定して考えがちであるが、その機能性よりも「食べ方」という魔法が大切なのである。

すでに述べたが、「食べ方」としての弁当の特徴は、その中身のどれが主役だということではなく、そこに詰められたすべての要素が、どれも平等でありイコールパートナーになっていることである。
たとえば、ご飯も卵焼きもウィンナーも、残り物の煮物や竹輪や漬物なども、どれも同じウェイトを持ったもので、その全体が「お弁当」という「食べ方」の価値を創出しているのだ。この「食べ方」の楽しさの魔法を、昨日今日のような春の日射しがスイッチを入れ、パワーアップさせたのである。
ヤオコーの弁当を買ったおばあちゃんにとって、その弁当の最大の魔法は「買い方」としての「お弁当」ということであった。弁当にはもう一つ、「売り方」としての弁当という魔法がある。お弁当売り場という名がある通り、弁当の持つ意味は「売り方」なのである。

「売り方」と「買い方」の分裂

「売り方」としての弁当という視点でみれば、「さばの照焼きと八種和菜の煮物と十六穀米弁当」という名称通り、さばという魚を主役にした弁当なのである、そこに煮物と十六穀米をミックスさせることでヘルシー志向を魔法の一つとしているといっていい。さばが主役で、煮物はその引き立て役だといってもいい。

ところが、このおばあちゃんにとっての「買い方」としての弁当という視点でみれば、八種和菜の煮物がその魔法であった。本来ならば野菜の煮物は手作りすることもできるのだが、スポーツジムの帰りなので手軽に簡便にすますことがこの「買い方」のスイッチをオンにさせた。そして、「食べ方」としての弁当という視点でいえば、ヤオコーで買ったこの弁当は全体の構成要素の一つにすぎなく、その時の食卓全体にむしろ「食べ方」としての「お弁当」が持つ魔法がかけられていたといえる。
その魔法を構成しているそれぞれの要素である様々な漬物も、弁当の中の和菜の煮物も、そしてごはんも、量でも質でもイコールパートナーなのだ。ところが十穀米というごはんがその役割の分量を越えていた。だから食べ切れずに残してしまったということになってしまったのだ。

春の日射しという文脈

「お弁当」というものを暮らしの中の文脈でみると、「売り方」としての弁当、「買い方」としての、そして「食べ方」としての弁当という三つの側面があることがわかる。「売り方」と「買い方」だけをみていると、簡便や手軽さ、あるいは逆にごちそうといった面や健康といった面だけしかみえなくなってしまう。
それよりも「食べ方」としての弁当という魔法の重要さをみておく必要があるのだ。

たとえば駅弁というアイテムを考えてみると、「売り方」「買い方」「食べ方」という三つの側面が、混然一体となった魔法になっていることがわかる。ところが、家で作られて食べられることになる弁当というものの価値は、「売り方」「買い方」という要素が消え、「食べ方」ということだけにその魔法の鍵がある。

この「食べ方」という視点は、暮らしの中における生活文脈をたどっていくことでしかみつけることができないのだ。春の日射しと暖かさの到来は、暮らしの中の微妙な変化のきっかけを与えてくれている。「お弁当」という一つの「食べ方」にもそれが表れたりもする。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
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Marke-TipsちゃんねるURL:https://www.youtube.com/channel/UCmAKND92heGN-InhC0sp7Kw

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