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新しいマーケティングのすすめ(21)

数学では、「定義」という言葉をよく使います。

私は、大学で数学を専攻していて、今も学生と数学を一緒に研究する機会があります。その数学の時間には、よく「定義」という言葉を使います。例えば、「この変数を、以後〇〇変数と呼ぶことにします」とか、「この式を、以後〇〇関数と呼ぶことにします」などのようにです。このように、何かに名前を付けることで以後の会話が簡単になり、頭の中での議論を想像しやすくなります。

このことは日常生活で誰もが行っています。家でペットを飼う時、多くの場合、ペットの名前を考えますよね。これは家族の中でペットの名前を定義する行動となります。また、私たちは、先人たちが定義した固有名詞を、日常の会話でよく使います。例えば、「買い物」「消費」「洗顔」「洗濯」など。その数は多数です。

ところで、みんなが知っている固有名詞の定義は同じ?

私が最近、マーケティングの調査やデータを見る時に気になっていることは、私の「定義」と、他の方の「定義」は同じなのか、ということです。

例えば、インテージではさまざまな自主調査を行っており、「インテージ調査レポートライブラリー」で、公開してくれています。

少し前の調査ですが、「去年よりもアクティブに?2022年のGWの過ごし方」という調査がこの中にあります。「ショッピングに行く」「外食に行く」「国内旅行」の計画を聴いている項目があるのですが、この「ショッピング」「外食」「国内旅行」という固有名詞は、回答者にとって同じ定義なのでしょうか。

ショッピングを例にとります。
・百貨店・デパートなど、街の中心部にある商業施設に買い物に行くこと
・高級ブランド・ブティックや、服の専門店に買いものに行くこと
・郊外の大型ショッピング・モールや、アウトレットモールに買い物に行くこと

まだまだ、「ショッピング」で想像できる行動はあるはずです。そして、この想像する行動は、その人の暮らし方や居住地でも異なるはずです。

私の過去の調査でも、あるインタビューの被験者の方が、日帰りで車を使って、離れた大型ショッピングセンターに買い物に行くことを、「日帰り旅行」と話された経験があります。この定義は決して間違いなのではなく、この被験者の「定義」が、私の「定義」と異なるだけなのです。

多様性の時代は、定義が多様な時代

最近、私たちは「多様性」という言葉をよく耳にして、口にします。一般には、多様な価値観、多様な暮らし方という言葉で、「多様」という言葉を使います。ということは、私たちマーケターは、同じ固有名詞に「多様な定義」が存在することを認識しないといけなくなったということではないでしょうか。

このことは、この知るギャラリーでも、すでに議論されています。「暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる⑧~麻婆豆腐は中華料理なのだろうか?~」という辻中氏の記事も、その代表的な例です。

私たちマーケターは、生活者、消費者、顧客の理解を重要視します。その時に、一番の問題は、「自分の定義=相手の定義」と思い、そこで思考停止することなのです。辻中氏の記事では、言葉を可視化することで、言葉の意味理解を丁寧に行うことを提案しています。
私は、「私の定義は、他人とは違うのではないか」と、絶えず考えるようにしています。

これから、今まで以上に多様性を考える機会が登場するでしょう。その中で、マーケターは、「固有名詞」の定義に、今まで以上に丁寧に向き合う必要があるのではないでしょうか。

「マスク」の定義すら、多様なのです。

コロナと付き合い始めて3年目になり、最近「マスク」を外す、外さないという議論が行われています。さてあなたは、何故マスクをしていますか?つまり、マスクの定義です。 多くの国家的な議論の中では、マスク=コロナ防止グッズという定義のようですが、昨今の私の定義は、マスク=花粉症緩和グッズです。マスク=コロナ防止グッズという定義を全国民が行っていると考えているので、国会での議論が、マスクからの解放が議論になっていますが、定義が異なる人からすると、まだまだマスクが便利と考えている人もいるのです。

これは、「マスク」の定義の違い、そして「マスク」の価値の違いなのです。

生活者理解のためには、言葉の定義を生活者に聞こう

最近、私はさまざまな調査設計やデータ分析の時に、被験者の言葉の意味を確認することを意識的に確認するようにしています。例えば、「この商品は環境にやさしいと思いますか?」という質問を聞いたときにでも、「あなたの環境にやさしいとは、具体的にはどんなことを指しますか?」と聞いてもらうようにしています。

このような質問をすると、考えがあるのか、ないのかがわかるだけではなく、さまざまな考えが存在することに気づかされるのです。

私たちのマーケティングの相手の市場が一様であるときには、マーケターの言葉の定義は、生活者の定義と近く、またマーケターが生活者の定義を理解していないといけませんでした。しかし、多様な時代に、マーケターが生活者の言葉の定義をすべて理解しておくことは、難しくなってきました。

これからは、言葉の定義を生活者に聞き、その定義を理解することがマーケターの重要な仕事になっていくのでしょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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