新しいマーケティングのすすめ(27)
「台風予測で考える、新しいマーケティング」
前回に引き続き、今回もマーケティングにおける、データの活用について考えましょう。今回は、予測されるデータの誤差についての議論です。
台風の進路予測の図をご覧ください。
多くの皆さんは、この図にあるような、台風の進路予想図を見たことがあるでしょう。気象庁の言葉では「台風経路図」と呼ばれる予報です。気象庁の発表する、実際の台風経路図には、白い破線の円、予報円が表示されています。この白い破線の円は、台風の中心が到達すると予想される範囲を示しています。予報した時刻に、この円内に台風の中心が入る確率は70%と定義されています。
台風は、私たちの生活に大きな影響を与えることがあり、気象庁は台風に関してさまざまな予報を発表しています。特に気になる進路については、幅のある「白い円」で表示されます。科学の進歩と取得データの拡張、そしてコンピューターの計算能力の向上で、過去よりも予報の精度は高くなっています。しかし、その今でも、台風の進路についての予報である、予報円に台風が進む確率は70%なのです。
マーケティングの会議で、売り上げ予算の設定時に、誤差を考えたことありますか
マーケティングの会議では、売り上げの予算を年度頭に表示します。例えば、「今年度の売り上げは、1億2000万円で、予算計上します」のような発表です。この発表方法に、マーケティングの現場では違和感がないと思います。しかし、科学者の立場からマーケティングの現場に入った私は、違和感がありました。予算は予測なのに、この予算には予測誤差もなければ、達成確率の言及もないことです。
「予算は目標だから、このように発表されるもの」だと言われれば、否定はしません。しかし、おそらく予算立案した人は、おおまかな予算達成確率を考えながら予算を設定し、発表したのです。厳しい予算目標だとか、今年の予算目標は達成しやすい、などの考えや感想がそれに該当するのです。
予算の数値以上に、もっと数字の精度について考えるべきことがあります。それは、この記事の読者の多くが関係する「調査」です。調査は、みなさんご存知のように、全数調査が行えないため、標本調査を行います。ほとんどすべてのマーケティング調査は標本調査です。この標本調査には、標本誤差が必ずあるのですが、マーケティングの現場では、いつしか、この標本誤差を説明しないまま調査結果を説明することが増えています。
(総務省 統計局の標本調査の解説ページ:https://www.stat.go.jp/teacher/survey.html)
この標本誤差を説明しないことにより、調査結果を使った議論の場で、無駄な会話が発生していることがあります。調査結果に2%の誤差があるのにも関わらず、1%の違いでどちらの項目の方が優位かの議論をしているようなことが、時に発生するのです。誤差が2%あるのであれば、1%の違いは誤差に含まれ、データに有意差がないのです。このように、マーケティングに関する調査には、台風の経路予報のように誤差(幅)があるのに、その誤差を無視した議論が行われてしまっています。
科学者が見ると気持ちの悪い、1桁まで表示されるマーケティングの数字
そしてこのような問題は、インターネットの登場で、さらに混乱を招いています。Webサイトのアクセスログやインターネットの広告配信は、全数データなので誤差がないと考えている人がいます。実はGoogle アナリティクスの場合、アクセス数が多いと、全数データではなくサンプリングデータでの分析になり、標本調査になります。さらに、通信により一部データがロストすることや、ユーザーがGoogleアナリティクスにデータの送信を拒否することも可能であり、Webのアクセス分析も、実は標本調査になっているのです。
そして、Webのアクセス分析のデータを使った議論では、1の位までの数字を表示した数値で議論を行います。さらにその時には、その数値は1の位までが有効な数値だと考えているのです。
皆さんの普段使っているアクセス分析の数値は、どの精度の数値ですか?
おそらく誰も知りません。今まで、そのようなことは考えたことがないのではないでしょうか。
自然科学では、データの精度を意識して議論を行います。 社会科学である、マーケティングも、データの精度を意識した議論を行うべきなのです。
ぜひ、台風の「台風経路図」を見たら、自分のマーケティングの議論で正しく予報円を提示できているのか、思い出しましょう。
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