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AI時代でも変わる「情報の到達方法(接触)」ー新しいマーケティングのすすめ(60)ー

皆さま、こんにちは。マーケティングサイエンスラボの本間充です。
さて、マーケティングにおいて、最も基本的かつ重要な課題は「いかにして情報をターゲットに届けるか(接触)」という点に集約されます。
かつて、インターネットの登場はこの「情報の到達方法」を劇的に変えました。そして今、AIの台頭によって、私たちは二度目の大きなパラダイムシフトの渦中にいます。データサイエンスの視点をお持ちの皆さまであれば、この変化を単なる「流行」ではなく、「情報流通の構造変化」として捉えることができるはずです。
本稿では、インターネット時代の「プル型」モデルを振り返りつつ、AIがもたらす「ゼロクリック・アンサー」や「予測型」の接触について解説していきます。

1. インターネット時代:能動的な「見つけてもらう」文化の形成

インターネット以前、情報の接触はテレビCMや新聞広告といった、企業側が強制的に情報を届ける「プッシュ型」が主流でした。しかし、検索エンジン(Googleなど)の普及により、マーケティングの主役は「プル型(見つけてもらう)」へと移り変わりました。

● SEO(検索エンジン最適化)
    ○ユーザーの検索クエリに対し、自社の情報を上位に表示させる。
 リスティング広告
    ○顕在化したニーズに対して、ピンポイントで情報を提示する。

この時代、私たちマーケターは、ユーザーが入力する「キーワード」を分析し、いかにして自社サイトへ「流入(クリック)」させるかに心血を注いできました。データサイエンスの知識を活用し、クリック率(CTR)やコンバージョン率(CVR)を最適化することは、まさに「情報を見つけてもらう確率」を高める作業だったと言えます。

インターネットは情報の図書館
インターネットは情報の図書館

2. AIによる衝撃:「ゼロクリック・アンサー」の出現

今、この「プル型」の前提が崩れ始めています。その象徴が「ゼロクリック・アンサー」です。
皆さまも、Googleで検索した際、検索結果のトップにAIが生成した回答が表示され、リンクをクリックすることなく疑問が解決してしまった経験はないでしょうか。あるいは、対話型AI(ChatGPTやPerplexityなど)に直接答えを聞き、ウェブサイトを一切訪れないケースが増えています。
これは、マーケティングにおいて極めて深刻な事態を意味します。

流入の消失
   ○ユーザーが自社サイトを訪れないため、従来の「クリックを前提とした」計測や
    コミュニケーションが成立しなくなる。
情報の要約
   ○自社が発信した詳細な情報が、AIによって「要約」され、他社の情報と「合成」
    された形でユーザーに届く。

データサイエンスの言葉を借りれば、情報の「ソースデータ」は私たちの手元にあっても、ユーザーとの「接点(インターフェース)」をAIエージェントに占有されてしまう状態です。

3. 次のステージ:プッシュを超える「予測型」の接触

しかし、絶望する必要はありません。AIは、プッシュ型やプル型を超えた新しい情報の届け方「予測型(Anticipatory Reach)」を可能にします。

従来のプッシュ型広告は、ユーザーの属性から「おそらく興味があるだろう」と推測して配信していましたが、AI時代はより高度な「文脈(コンテキスト)」の解析が行われます。

ゼロパーティ・データの活用
   ○AIエージェントがユーザーのスケジュール、位置情報、過去の購買行動をリアルタイム
    で学習する。
ニーズの先行把握
   ○ユーザーが「検索」という行動を起こす前に、AIが「今、この瞬間にこの情報が必要だ」と判断し、最適なタイミングで提示する。

例えば、「週末のキャンプの準備」を考えているユーザーに対し、検索を待つのではなく、AIが「現在の在庫状況と天気を照らし合わせると、この防寒具を今日中に手配すべきです」と提案する。これは、ユーザーにとって「邪魔な広告」ではなく、「賢い秘書による助言」として受け入れられます。

AI時代は、情報の波(図書館)から解放される?
AI時代は、情報の波(図書館)から解放される?

4. 私たちが今、理解すべき本質

情報の到達方法が変わる中で、私たちが立ち返るべきインターネット時代の教訓があります。それは、「ユーザーにとっての価値が、情報の到達経路を決定する」という事実です。

SEOの本質は「検索エンジンのアルゴリズムを騙すこと」ではなく、「ユーザーの問いに対して最高の回答を用意すること」でした。AI時代も同じです。AIに「回答」として選ばれ、あるいは「予測」として推奨されるためには、以下の視点が重要になります。

情報の「信頼性」と「構造化」
   ○AIが正しく情報を引用・解釈できるように、データを整理し、権威性を高めること。
「クリック後」ではない「接触時」の体験設計
   ○サイトに来てからおもてなしするのではなく、AIの回答や提案の中にいかに自社の個性
    を込めるか。

AI時代はまだ始まったばかりです。だからこそ、インターネットが情報の「見つけ方」を変えたときと同じ熱量で、AIが情報の「現れ方」をどう変えるのかを見極める必要があります。

新しい「接触」をデザインするマーケターへ

「情報の到達方法」が変わるということは、私たちマーケターと顧客との「出会い方」が新しくなるということです。

検索結果のリンクをクリックしてもらうことに一喜一憂する時代から、AIという良きパートナーを通じて、顧客の生活の「文脈」に深く、自然に溶け込んでいく時代へ。これは、より精度の高い、ストレスのないマーケティングを実現するための進化です。

データサイエンスの知識を持つ皆さまなら、AIが生成する回答の裏側にあるロジックを想像できるはずです。その想像力を、ぜひ「どうすれば顧客に最も心地よく情報が届くか」というクリエイティブな問いに向けてみてください。

技術が変わっても、情報を必要とする「人」がいることに変わりはありません。変化を恐れず、AIと共に新しい顧客体験をデザインしていきましょう。皆さまの知的好奇心と挑戦が、次世代のマーケティングを切り拓く原動力になると確信しています。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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