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AI時代のマーケティング解説:Phygital(フィジタル)ー新しいマーケティングのすすめ(59)ー

皆さま、こんにちは。マーケティングサイエンスラボの本間充です。
デジタルマーケティングやAI活用の現場に身を置いていると、これまでのマーケティングが「画面の中(オンライン)」と「現実の空間(オフライン)」でいかに分断されていたかを痛感します。
データサイエンスの知識をお持ちの皆さまであれば、オンライン上のクリックストリームやコンバージョンパスの分析には馴染みがあるでしょう。しかし、顧客が店舗の棚の前で立ち止まり、商品を手に取り、そして棚に戻したという「物理的な行動」は、長らく構造化されない「暗黒物質(ダークマター)」のようなデータでした。
今、AI技術の進化によって、この境界線が消えようとしています。それが、今回解説する「Phygital(フィジタル)」という概念です。

1. Phygitalの本質:O2Oを超えた「データの同期」

「Phygital」とは、Physical(物理的)とDigital(デジタル)を組み合わせた造語です。かつての「O2O(Online to Offline)」が、ネットから店舗へ送客するという「一方通行の橋」だったのに対し、フィジタルは物理空間とデジタル空間がリアルタイムで同期し続ける状態を指します。

マーケターにとってのフィジタルとは、単なる新しいチャネルではありません。それは、「顧客のコンテキスト(文脈)を、場所を問わずに捕捉し続ける仕組み」です。
例えば、ある顧客がECサイトで特定のスニーカーを3回閲覧した(デジタル)。その数時間後、実店舗の近くを通った際にスマホに「在庫あり」の通知が届き、入店すると店内のサイネージにそのスニーカーのコーディネート案が表示される(フィジカル)。さらに、試着したサイズ感や感想がその場でデジタルデータとして記録され、次回の広告配信の重み付けに反映される。
このように、IDをキーとしてオンラインとオフラインの行動ログがシームレスに結合されることが、フィジタル戦略の核心です。

2. データサイエンスが解決する「フィジカル」の課題

データサイエンスの素養がある皆さまであれば、フィジタル化によって「分析の対象」が劇的に広がることに興奮を覚えるはずです。AIは、フィジタルにおける以下の3つの課題を解決します。

●   非構造化データの構造化(Computer Vision)

店舗内のカメラ映像から、顧客の属性、動線、滞在時間、さらには「表情による感情変化」までもが数値化されます。これは、物理空間における行動を「デジタルログ」へ変換するプロセスです。

●   リアルタイム・推論(Edge AI)

「今、この棚の前にいる顧客」に対して、過去の全購買履歴と現在の行動パターンを照合し、0.1秒単位で最適なオファーを決定します。バッチ処理ではない、ストリームデータ処理の重要性が増します。

●   高度なアトリビューション分析

「テレビCMを見て、スマホで検索し、店舗で実物を確認し、最終的にアプリで購入した」という複雑なパスを、確率論的モデリング(Marketing Mix Modelingなど)を用いて、より正確に評価できるようになります。

3. AIがもたらす「予測型」フィジカル体験

AI時代のフィジタルは、過去の分析に留まらず「予測」へとシフトします。

機械学習モデルが、顧客のGPSデータ、移動速度、過去の行動傾向、さらには現在の天候や在庫状況を特徴量(Features)として取り込み、「この顧客はあと15分以内にこの店舗に立ち寄る確率が80%である」と予測します。

この予測に基づき、店舗側は「顧客が到着する前に」好みの商品を準備したり、パーソナライズされたデジタルサイネージを用意したりすることが可能になります。もはやデジタルは裏側の仕組みではなく、物理的なサービスを「先回り」して最適化するためのエンジンなのです。

4. マーケターが担うべき「新しい変数」

データとAIがフィジカルの壁を壊すとき、マーケターの役割はどう変わるのでしょうか。
高度な分析はAIが担当しますが、「どのデータを取得し、どのような体験(UX)として顧客に還元するか」という設計図を描くのは人間の仕事です。特に、フィジカル空間では「プライバシーへの配慮」と「心理的な心地よさ」という変数が極めて重要になります。
データサイエンスの知識を持つ皆さまには、単に精度(Accuracy)を追うだけでなく、その分析結果が顧客の「実体験(Real Experience)」をどう豊かにするのか、という視点を持っていただきたいのです。

5. 実験場としての「フィジカル(物理世界)」へ

フィジタルは、決して遠い未来の話ではありません。皆さまの手元にあるデータと、目の前にある現実の店舗や顧客接点を繋ぐことから始まります。
デジタルで培った分析手法を、ぜひ「物理世界」に応用してみてください。そこには、画面の中だけでは決して得られなかった、生身の人間行動という宝の山が眠っています。
AIという強力な武器を携え、オンラインとオフラインの境界線を自由に跨ぎ、顧客の生活全体をデザインする。これこそが、次世代のマーケターに与えられた最大の特権です。

まずは自社の「店舗」や「イベント」で、どのような行動がデータ化できていないか、それを可視化できたらどんな予測が可能になるか、チームで議論を始めてみませんか?
皆さまのデータへの深い理解が、フィジカルな世界に新しい価値を吹き込むことを確信しています。共に、マーケティングの新しいフロンティアを切り拓いていきましょう!

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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