

「広告費を増やせば売れるのか?」「パッケージを変えれば手に取ってもらえるのか?」 売上目標を前にして、次の一手に確信が持てず、答えに詰まった経験はないでしょうか。
売上は、施策そのものによって直接生まれるわけではありません。生活者が商品を知り、理解し、買いたいと思い、実際に買う。その一連の変化が積み重なった結果として、売上が生まれます。だとすると、売上目標と施策をつないで考えるには、施策によって「生活者にどんな変化を起こしたいのか」という視点が必要ではないでしょうか。
本稿では、売上を生活者の意識・行動の変化で捉えるシンプルな考え方をもとに、レビューから次のプランにつながる目標・指標の考え方を整理します。
日々の業務では、市場規模やシェア、前年比など、さまざまな数字を扱います。しかし、市場そのものを目で見たことがある人はいません。実際に起きているのは、一人ひとりの生活者が商品を選び、お金を払い、使うという行動です。金額ベースの売上は、「生活者が商品を手に取り、レジで支払ったとき」に生まれ、数量ベースの売上は、「どれだけの量を、どのくらいの頻度で使うか」によって決まります。
図1

このように考えると、売上を動かしているのは施策そのものというより、その施策によって起こる生活者の意識や行動の変化だと捉えるほうが、実態に近いように思います。ところが、プランニングの場では「SNSでプロモーションをする」「店頭露出を増やす」といった施策の話が先行しがちで、それによって生活者に何を起こしたいのかが曖昧なまま進んでしまうことも少なくありません。
たとえば、SNS施策を実施したにも関わらず、「いいね」は増えたが売上が変わらないというケースがあります。このとき問題なのは「どの生活者の変化を狙っていたのか」があいまいな点です。「知らなかった人に存在を知ってもらう」のか、「知っていた人に特長を理解してもらう」のか、「購入のきっかけをつくる」のか。ここまで言葉にできると、必要なメッセージや接点、評価の見方も具体的になります。
図2

図2では施策と売上の間に「生活者の変化」を置いています。広告、販促、店頭施策、価格対応、商品改良といった施策は、それ自体が直接売上になるわけではありません。商品を知る、特長を理解する、買いたいと思う、実際に買う、買い続ける――そうした生活者の意識や行動の変化を通じて、はじめて売上に結びつきます。プランを考えるときに、この順序を見失わないようにすることが大切です。
生活者の変化を重視するとしても、それを感覚的に捉えるだけでは、レビューやプランには使いにくいものです。そこで役に立つのが、売上を生活者の意識と行動に分解して考えるシンプルなモデルです。
図3

図3にあるように、売上額は以下の数式で表すことができます。
購入者数 × 購入者一人当たり購入回数 × 購入1回当たり購入金額
さらに購入者数は、「全生活者数 ×A%×B%×C%×D%」と、生活者の意識変化(歩留まり)に分解できます。
・A(認知): 知らない人が「知る」
・B(理解): 知っている人が「理解する」
・C(購入意向): 理解した人が「買いたいと思う」
・D(購入): 買いたいと思った人が「実際に買う」
・E(継続): 買った人が「繰り返し買う」
・F(単価): 1回に支払う金額が変わる
このように、KPIを売上に至るまでの「生活者の変化そのもの」として設定することが、プランの第一歩です。
このモデルで特に意識しておきたいのがC(購入意向)です。認知や理解、配荷や価格といった要素は企業の活動によって動かしやすい一方で、「買いたい」と思うかどうかは、最終的に生活者の判断に委ねられます。ここが弱いままでは、どれだけ施策を積み重ねても、大きな売上にはつながりにくくなります。そうであれば、購入意向がなぜ高まっていないのか、生活者の意識や評価のどこに課題があるのかを捉え直すことが必要です。
この考え方をレビューに活かす際のポイントは、数字をそのまま眺めるのではなく、「生活者に何が起きているのか」という状態に読み替えることです。認知から購入までの流れの中で、どの段階で生活者が離れているのかを確認することで、次に優先して改善すべきKPIが見えてきます。
どのKPIを優先して動かすかは、自ブランド内で購入に至るまでの歩留まりが最も低いものや、比較対象(トレンドや競合比較)に比べて改善の余地が大きいものといった観点に加え、自社の強みや資源を生かしやすい領域かどうかという視点から判断します。
図4のブランドAの例を見てみましょう。
図4

ブランドAが購入に至るまでの歩留まりで一番低いのはDの22%です。
「約1,700万人が買いたいと思っているのに、実際には370万人しか買えていない」
数字を言葉に置き換えると、こうした巨大なギャップが見えてきます。 ここまで絞り込めて初めて、「店頭で欠品していないか?」「棚で競合に埋もれていないか?」という解決すべき正しい問いを立てることができるのです。
このように注力する生活者の変化が定まれば「何となく必要そうな施策」から、「動かしたいKPIに対応する施策」へと絞り込みやすくなります。
そして、動かすべき注力KPIが見えてきたら、次は「どれくらい改善したいか」という目標を置きます。目標値を置くことで、プランは単なる方向性ではなく、売上目標につながる具体的な設計になります。
レビューを単なる振り返りで終わらせないために、A〜Fのシミュレーション表を用いると、どのKPIをどれだけ改善すれば売上目標に届くのかが可視化しやすくなります(図5)。
図5

たとえばブランドAでは、歩留まりが最も低いD(購入意向→購入)がボトルネックとなっているため、「買いたいと思っている人が購入に至る」状態に生活者を動かすことを注力KPIとして設定します。そのうえで、Dを31%まで改善するという目標値を置くと、売上は約10億円から14億円規模まで拡大する可能性があるとシミュレーションできます。こうして優先して動かすべきKPIと改善幅が見えてくると、次のプランでは、どこに資源を集中させるべきかを根拠をもって説明できるようになります。
売上は重要な結果指標です。ただ、その結果をつくるまでの過程にある生活者の変化を目標として置くことで、プランには根拠が生まれます。もし今、「次に何をすべきか」で迷っているなら、施策を並べる前に、生活者にどんな変化を起こしたいのかを改めて言葉にしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
この考え方は、既存ブランドのレビューだけでなく、商品開発にも広げて使うことができます。新商品やリニューアル案を評価するとき、購入意向だけを見て判断してしまうことは少なくありません。ただ、実際の売上は、購入意向だけでは決まりません。発売後にどれだけ認知を広げられるか、どれだけ買いやすい環境を整えられるか、どれだけ繰り返し買ってもらえそうか。そうした要素も含めて見なければ、投資判断としては不十分なものになってしまいます。既存品との相対比較でA〜Fの変化を見積もれば、複数案の比較や、発売後のシナリオ想定まで、同じフレームでつなげて考えやすくなります。
詳細はこちらの記事をご覧ください。
生活者視点のシンプルな仕組みで考える需要予測
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