
近年の原材料費・物流費の高騰により、価格戦略の重要性がますます高まっています。一定の利益を見込んで売価を設定しても、想定以上のスピードで原価が上昇し、すぐに価格を見直さざるを得ないケースが増えています。しかし、値上げによる売上への影響が見えず、どの程度の値上げが適切なのか判断が難しいというお悩みをよく伺います。
そこで本記事では、新商品やリニューアル品の価格検討のタイミングで、価格帯ごとの売り上げ規模を算出してシミュレーションを行うことで、売上や利益への影響を具体的に把握する方法をご紹介します。
まず、生活者が商品を購入する際、感じている価値について考えます。
生活者はお店で買い物をしているとき、例えばペットボトル入りの水を見て「のどの渇きを潤してくれる」「国産だから安心する」など様々なベネフィット(便益)を想像します。しかし、それだけでその商品の価値が決まるわけではありません。仮にその水が1,000円/500mlだとしたら、“価値がある”と感じる人は少ないでしょう。価格に見合ったベネフィットが提供されて初めて、生活者はその商品を“価値がある”ものと感じ、購買確率が上がると考えます。(図1)
図1
このように、生活者にとって商品の価値とは「ベネフィット÷価格」と表すことができます。
新商品やリニューアル品において、ベネフィットが定まっているのであれば、価格が商品の価値評価を左右します。
ここで重要なのは、商品開発の比較的初期であるベネフィットが定まった段階で、想定価格での売上規模を推計することです。これによって、早期から収益性のシミュレーションができ、戦略的な価格設定につなげられます。
生活者は、商品が持つベネフィットと価格をもとに価値を判断し、購入の意思決定をしています。そのため価格検討段階で売上規模を推計する際も「生活者への調査」が有効です。
具体的には、新商品やリニューアル品のベネフィットが定まっている段階、いわゆる商品コンセプトが固まった段階で、生活者調査を実施し、生活者の購買行動から想定される売上規模を算出します。
生活者の購買行動から考える売上額の要因分解は以下のように表されます。(図2)
図2
売上額は「購入者数」と「一人当たりの購入回数」と「1回あたりの購入金額」で説明できます。
生活者はまず商品の存在を知り(A%)、商品のベネフィットを理解する(B%)ことで、買いたい、または、買いたくない、という判断(C%)をすることができます。買いたいという人も、必ずその商品を買うという行動(D%)に移るとは限りません。お店に買いに行っても、その商品が置いていなければ買うことはできませんし、一緒に並ぶ競合商品の方をより買いたいと思えば、競合を選ぶことも十分にあり得ます。
このように生活者の意識と行動の変化を数値で想定することで、売上額を算出することができると考えます。
認知(A%)や理解(B%)は過去のベンチマーク調査の数字から、購入意向(C%)や購入回数(E回)、価格(F円)はコンセプトと金額を提示した生活者調査で得た数字から、D%は加重販売率(店舗への配荷状況)などから想定値を設定します。
(生活者の意識と行動の変化から売上のポテンシャルを算出する方法についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、合わせてお読みください。実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第5回 生活者がビジネスポテンシャルを決める)
以上の想定値を得た後、図3の様に売上額を算出します。
図3
まず、先程設定した新商品やリニューアル品のA~Fまでの想定値(①)と、今世の中に売られている既存品のA~Fの実際の値(①‘)をもとに、既存品に対する相対値を算出します(②)。
この相対値を既存品の売上規模に掛け合わせることで、新商品・リニューアル品の売上規模を算出します(③)。
ここで相対値を活用することで、調査上のバイアスなどを最小限に軽減することが期待できます。
適切な価格を設定するには、前章の算出方法を用いて、価格を変えた時の売上をシミュレーションします。
例えば、コンセプトが確定した(ベネフィットが定まった)新商品において、4パターンの価格(310円、330円、350円、370円)ごとにコンセプト調査を実施し、各価格における売上額を算出します。その結果を図4のように価格と売上額の関係性を近似曲線でアウトプットします。
図4
このようにアウトトップすることで、調査で確認していない価格での売上額も推定することが可能なので、売上シミュレーションとして活用いただけます。また、仮に開発途中で原価に変動があった際も、シミュレーションを持っておけば、利益を確保できる価格がいくらになるかを、根拠をもって検討することが可能となります。
ここまで、新商品・リニューアル品の価格設定において、生活者が感じる価値の構造や、売上規模の算出方法、そして価格設定時に活用できる売上シミュレーションの手法について見てきました。
商品の価値を感じ、買う、買わない、の判断をしているのは生活者です。そして、価格は商品の価値を決める重要な要素です。価格設定の意思決定を行う際は、生活者起点のロジックに基づいて売上額を推計し、それを根拠に議論を行うことが有用と考えます。
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