産学連携生活者研究プロジェクトで生活者理解を深める②
~商品カテゴリー別のリキッド消費傾向探索~
マーケティングに欠かせない生活者理解。変わり続ける生活者に、多くの企業が共通の課題を感じながら、それぞれに対応を迫られています。この課題解決に向けてインテージ 生活者研究センターが中心になって部署およびグループ横断で取り組んでいる「産学連携生活者研究プロジェクト」について、4回に分けてお伝えします。第2回は事業開発本部DX部の宮原栞梨が今回のプロジェクトの軸とした「リキッド消費」について解説します。
産学連携生活者研究プロジェクトのテーマと「リキッド消費」
産学連携生活者研究プロジェクトでは、「若者(10代~20代)をリサーチ対象として、次世代のマーケティングを考える」というテーマを掲げました。
「次世代のマーケティングを考える」ためには、変化の大きい社会の流れをつかみながら、その社会の中で生きていくこれからの生活者を理解する必要があると考えています。
そして、若者“向け”ではなく若者“視点”で次世代の生活様式やモノ・サービスとの関係性を考えるために、また、時点のトレンドを得るのではなく次のムーブメントを巻き起こすヒントを得るために、大きく分けて2つの取り組みを行いました。
①共通プログラム
参画企業が一堂に会して、共通課題・テーマに対して共有のプログラムを設定。
②個別プログラム
参画企業の個別課題に対して大学機関とのワークショップを開催。
①の共通プログラムでは、「次世代のマーケティングを考えるための生活者理解」を各社共通の課題として設定し、「変化の大きい社会で生まれた消費行動」かつ「若年層を中心に広がっている」というキーワードをもつ「リキッド消費」に着目しました。
社会の流動化により、従来の「永続的」や「物質的」な消費だけでなく、「柔軟」で「脱物質的」な消費が広がりつつあります。
「リキッド消費」とは、そのような柔軟で脱物質的な消費傾向を表しており、以下のような特徴を持っています。
①購買の流動性:その時々に応じていろいろな商品を利用したい。
➁所有しない消費:物を所有せずに、いろいろな商品を利用したい。
③脱物質/経験志向:物に頼らず、経験を重視。
④省力化:商品の選択、購入、利用のためにかかる時間や手間を省きたい。
詳細はこちらの記事もご参照ください。(https://gallery.intage.co.jp/liquid/)
また、青山学院大学の久保田教授(2022)の先行研究より、若い年代ほどリキッド消費をする消費者の割合が多いことがわかっています。
本調査の実施にあたっては、2つの仮説を立てました。1つは、消費対象を調味料やアルコール飲料、車・バイクといった商品カテゴリーごとに分けて消費意識を調査した場合、それぞれでリキッド消費のされやすさに違いがあるのではないか、ということです。
もう1つは、リキッド消費の傾向が強い若い世代では、短命的かついろいろな商品を試したい流動的な消費傾向にあるためブランドへの意識が薄くなっているのではないか、ということです。この2つの仮説に基づき、調査目的とリサーチクエスチョンを立て、分析を行いました。
「リキッド消費」調査の概要
今回行った調査の概要は以下の通りです。
1.調査目的
新たな消費スタイルであるリキッド消費に着目し、商品カテゴリーごとの当てはまり度合いの違いを明らかにする。また、ブランドへの意識について世代間の比較を行い、世代による特徴を把握する。
2.リサーチクエスチョン
RQ1:商品カテゴリーごとにリキッド消費傾向に違いがあるのか?
RQ2:ブランドへの意識は世代によって違うのか?
3.調査設計
設問数:80問
調査対象:16~65歳の男女(インテージキューモニター)
回収割付: 男女5歳刻みの各セルが250~300s
※詳細は記事の最後をご覧ください
リキッド消費傾向が強いカテゴリーとそうでないカテゴリー
では、RQ1を明らかにすべく、商品カテゴリーごとのリキッド消費傾向を確認してみましょう。
具体的には、各カテゴリーの商品を選択する際、前述の ①購買の流動性 ②所有しない消費 ③脱物質/経験志向 ④省力化 のそれぞれの意識がどれだけ働くかを調査しました。
さらにリキッド消費の提唱者であり、今回のプロジェクトにもご参加いただいた久保田教授から、「省力化」の中でも、手間を省きたいというより、より自分に適した商品を教えてもらいたいという「アドバイス」意識もリキッド消費的な傾向であるという助言をうけ、⑤アドバイス についても調査を行いました。
このうち、「①購買の流動性」「④省力化」「⑤アドバイス」にかかわる消費意識について、各商品カテゴリーの特徴を比較したのが下図です。「食品(肉・魚・野菜)」や「調味料」は「④省力化」が高く、「お菓子・デザート」は、「①購買の流動性」が高いことが読み取れます。
食品や調味料など、買う商品がある程度定まっている商品カテゴリーでは、より買い物の手間を省きたいという思いが強く、お菓子・デザートといった、種類が豊富で新商品が頻繁に発売されるような商品カテゴリーは、いろいろな商品を試したくなる傾向が高いことは、イメージしやすく、納得感のある結果となりました。
また、ファッションやスマホ・タブレットなどの耐久財では、アドバイス傾向が他の項目に比べ高い結果でした。特にファッションについては、最近では自分に似合う色系統を知るためのパーソナルカラー診断や、似合う洋服の形を知るための骨格診断などをよく目にするようになりました。そのため、それらの情報を上手に参考にしながら自分に合ったものを選択したいという意識が強くなっているように感じます。
さらに、耐久財のようなすぐに買い替えられないものだからこそ、Z世代によくみられる「失敗したくない」といった失敗回避の意識も合わさり、アドバイス傾向が高い結果となったのではないかと考えられます。
世代間の「ブランド」への意識の違い
最後に、リキッド消費が広がることで、短命的かつ流動的な消費が広がる中でも想起されるような「強いブランド」に性年代間で違いがあるのか検証するため、ブランドへの意識を聴取しました。
全世代が想像しやすいことを考慮し、「一日の勉強や仕事を頑張った後の自分への『ご褒美』」といって思い浮かぶブランドを自由に回答してもらう形式で聴取し、その回答に世代間で違いがあるのかを比較検証しました。
※世代はZ世代(16~25歳)、ミレニアル世代(26~40歳)、X世代(41~57歳)、58歳以上で定義
想起する内容として、女性はケーキ・チョコレート・アイスなどのお菓子やデザートが挙がり、男性はアサヒ・サントリー・キリンなどのアルコール飲料や関連するブランド名が挙がる傾向がありました。
世代ごとに想起内容を見ると、X世代や58歳以上の世代では具体的なブランド名の想起が多く、これらの世代と比較すると、Z世代は具体的なブランド名の想起が少ないことがわかります。
その時の気分や状況、場面によって商品を選択する流動的な消費を行いやすい若い世代はそもそもブランドに対する意識が低く、特定ブランドへのこだわりがないことが考えられます。
まとめ
本プロジェクトのテーマである「若者(10代~20代)をリサーチ対象として、次世代のマーケティングを考える」ための一手として、新たな消費スタイルである「リキッド消費」を調査のテーマとして設定し調査・分析を行いました。
先行研究では行われていなかった商品カテゴリーごとのリキッド消費傾向を分析することで、「省力化」や「購買の流動性」といったリキッド消費の特徴が商品カテゴリーごとに違うことを確認することができました。
また、想起されるブランドについて、若い世代ほどあまりブランドを意識していない傾向が表れており、ブランドの在り方について世代間の認識の違いが明らかになりました。
昨今、若年層をターゲットとしたSNSなどのデジタル広告においても「ブランディング」が重視されています。ブランディングは若年層の特徴的な消費スタイルである「推し消費」にもつながります。ブランドを知ってもらい(認知)、さらには購入検討時に思い出すブランド(想起集合)への昇格などのプロセスの把握や、ブランド資産がもたらす購買への影響など、若年層に向けた効果的な打ち手の設計に向けて、より深い探求が必要であると考えます。
社会の変化が進み、それに伴って生活者の消費意識が変化していく中、本プロジェクトの調査・分析結果が、今後の商品・サービス開発やマーケティングプランニングにおけるヒントとして皆さまのお役に立つことができれば幸いです。
【参考文献】
・久保田(2022) 『消費の流動性尺度の拡張と活用』
・インテージ 「知るギャラリー」2021年9月27日公開記事
『消費行動の変化を知る「リキッド消費」とは~Z世代の消費の特徴とマーケティング活用事例』
【調査概要】
期間:2023年2月2日から2023年2月7日
対象者:16歳から65歳までの5504人
調査方法:インテージキューモニターに対するアンケート調査(10代に対してアルコールの設問は聴取不可)
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