学生の生成AI利用実態~生成AI利用実態調査 生活者編②
近年、生成AI技術の誕生と進化は、私たちの日常生活、ビジネスに様々な変化をもたらしています。このような背景のもと、インテージでは生成AIの現状と将来性の可能性を明らかにするため、生活者およびビジネスパーソンを対象とした定量調査を実施しました。生成AIと社会の関係性を多角的に理解し、その可能性と未来像を具体化する一助となることを目指しています。
このシリーズでは「生活者」を対象とした調査結果を全4回にわたりお届けします。
第2回は、学生 における活用の広がりや特徴について生活者全体と比較しながら解説します。
目次
1. 学生の約半数が生成AIを利用、高い理解度で先行
生成AIは学生にどれほど浸透しているのか、まずは生成AIの認知度・理解度を生活者全体と比較してみましょう。
図表1は、全国の男女18~75歳を対象にした、生成AIの認知度・理解度のアンケート結果です。
図表1
生活者全体(以下TOTAL)では、「聞いたことがある程度」という回答までを含めた認知度は8割を超え、単語自体は多くの人に浸透している一方で、意味まで理解している人はわずか1割となっています。テレビやネットのニュースで取り上げられたり、広告が掲載されたりと、様々なメディアで接する機会が生まれたほか 、生成AIを搭載した スマートフォンやパソコンの登場など日常生活で認知のきっかけが増えていますが、生成AIそのものの内容訴求が十分でないことが 背景にありそうです。これに対し学生の認知度は84.9%でTOTALと同程度でしたが、「意味まで理解している」と回答した割合は31.2%でTOTALの3倍以上となっています。生成AIという単語は広く浸透し、認知度はほぼ飽和状態と見られますが、学生ではさらに一歩進み、理解を深める段階に入っていると考えられます。
続いて、利用状況と利用意向を見ていきます。 生活者編第1回の記事にも掲載した下図は、生成 AI の現在の利用状況と今後の利用意向ごとに各ユーザーの割合を面積で示したものです(図表2)。
図表2
利用経験率はTOTALで13.1%、学生で47.8%となっています。 TOTALでは、利用に至っている人は少ない ようですが、学生は利用経験者が半数近くを占めています。また日常的に利用している割合も2割に近く、TOTALを大きく上回っています。学生はそもそもデジタルネイティブであったり、学業という明確な 利用場面があったりと、導入への敷居が低く、また、モチベーションがあると考えられます 。ただ、TOTALと学生で利用意向に大きな差は見られないため、属性ではなく「日常的に利用しているか」が利用意向に影響しているようです。
ここで、インテージの保有するメディアログデータ「i-SSP®」の集計を紹介します(図表3)。下図は、私用PC上のWebブラウザを用いた生成AIサービスの月間利用率の推移です。
図表3
TOTALでは、 2022年11月のChatGPT登場直後から利用率は上昇を始め、23年春に5%を越えました。 そこから約1年はほぼ横ばいですが、24年の4月から再び上昇に転じ、その後は緩やかに上昇し続け24年9月時点では1割に近づいてきています。一方、TOTALと比較して学生の利用率は最初期から高い水準で推移しており、23年の春時点でも15%超、24年7月には 25%を超えており、TOTALを大きく上回っています。
また、トレンドで見ると、テストやレポートが集中すると考えられる期間(1月・7月)にかけて増加し、その後の長期休暇期間(3月・9月)に下がる周期が見られ、主に学業のために生成AIサービスを活用していると考えられます。一方で、利用が減少する時期にもかかわらず、24年9月でも利用率は2割近くとなっており、23年よりも増加していることから、学業関連以外でも利用が浸透し始めていると推察されます 。
ここまでで、TOTALと比較して学生では、生成AIへの理解度が高く、また、活用も進んでいることが分かりました。実際に生成AIを利用する経験を通じて、その仕組みや可能性に対する理解を深めるユーザーが増えているのかもしれません。
2. 学業で活用される生成AI
ここで再びアンケート調査の回答に戻り、生成AIの利用経験者に対して聴取した生成AIの利用目的について見ていきます(図表4)。
図表4
まず、TOTAL、学生ともに「文章の作成・改善」「文章の要約」「翻訳」「情報収集のサポート」が利用目的の上位に挙がっています。学生は「言語学習のサポート」が続いており、学校の課題のために活用していると考えられます。これまで見てきたように、高い利用率の背景には学業があることがここでも裏付けられた形です。若年層はタイパ重視と言われるように、生成AIを使って効率的に学習を進めているのではないでしょうか。学業以外の利用は、割合としては低いですが「コンテンツ制作」「写真や動画の編集」「日常的な会話の相手」が挙がっています。
一方で、「情報収集のサポート」「ネットニュース記事の要約」では、TOTALよりも学生の方が利用率が低い結果となりました。 学生はデジタルネイティブであり、SNSの利用も盛んなことから既存の情報検索手段で事足りていると想像されます。今後も、年代・属性の違いにより生成AIの利用目的に特徴が出てくるでしょう。
では生成AIを利用したことがある人は、どの程度評価しているのでしょうか。それぞれの目的について、どの程度改善できたと感じたか、その改善率を見ていきます(図表5)。
図表5
上位に挙がった「文章の作成・改善」「文章の要約」「翻訳」といった文章関連の利用目的では約7割が改善できたと回答しており、生成AIの利用は一定の成果を上げているようです。 また、最近では、専門的な知識や優れた推論能力を持った新しいモデルも登場しています。日常生活よりもより複雑な思考が必要とされる学業や研究といった領域においては、これらのモデルが大きな効果を発揮する可能性があります。
続いて、生成AIが今後の社会でどのような領域で活用されるのか、学生の考えを見てみましょう。 図表6は、生成AIサービス利用経験者に、生成AIの活用分野についての実感を聴取した結果の散布図です。「現在、すでに生成AIが活用されていると思う分野」を横軸、「今後、生成AIの活用を期待している分野」を縦軸としています。
図表6
期待以上に活用されている領域には「学習サポート」「語学サポート」「翻訳サポート」のように、 やはり学業関連が挙がっており、これらは両軸ともに割合が高くなっています。 また、現状よりも活用が期待される領域については第1回で紹介した TOTALでの調査結果 と同様、公共サービスやヘルスケアが挙がっています。
以上の結果から、学生は生成AIの利用目的や現在の活用分野についても、学業と結びつけて考えていることがわかりました。
3. サービス別認知・利用でも学生が先行
次に生成AI利用経験者に聴取した、サービス別の認知率や利用率について見ていきます(図表7、図表8)。
図表7
図表8
多くのサービスで、認知率・利用率ともに全体的に学生がTOTALを上回っています 。また、認知率・利用率ともに「ChatGPT」が最も高く、学生では認知率が8割超え、利用率も7割を超えています。 加えて、「ChatGPT」「Copilot」「Gemini」といった生成AIだけでなく、「Yahoo!」 、「X」、「LINE」、「メルカリ」といった既存のサービス で活用できる生成AIも一定の認知・利用が広まっているようです。生成AIサービスはさまざまな形式で提供されていますが、普段から使い慣れたサービスに搭載された場合は、特に利用までの障壁が低いと考えられます。
4. 学生は生成AI依存による学力低下に不安、セキュリティや暴走に楽観的
最後に生成AI認知者に聴取した、生成AIの利活用に関する懸念点について見ていきます(図表9)。
図表9
TOTALと比較すると、学生は懸念しているという回答の割合が全体的に低い傾向にありますが、「学力低下」「失業増加」ではTOTALを上回り、現在や近い将来に関わる身近な問題への不安を感じていると見られます。 一方で、普段からインターネットに親しみがあり、ネットリテラシーに対する自信もあるためか「セキュリティ上のリスク」への回答は低い結果です。また、現状を理解しているからこそ、過度な不安を抱いていないためか「AIの暴走」の回答が低くなっているのが目立ちます。生成AI利用による恩恵・生成AIに対する信頼感が大きいからこそ、 依存への不安がリスクやAIの暴走といった回答を上回ったと考えられます。
以上の調査結果から、生成AIについて学生はTOTALよりも①理解と利用が進んでいること、②目的や活用分野について学業と関連した内容を挙げていること 、 ③サービス別に見ても認知率・利用率ともに全体的に上回っていること、④生成AI依存による思考能力低下 と失業リスクに懸念を抱いていること 、 がわかりました 。次回は、生活者の生成AIに対するイメージの理解を通じて、今日の生成AIに求められていることを探ります 。
一連の生成AI実態調査の結果はこちらからご覧いただけます。あわせて、「ビジネスパーソン」視点の調査結果もご一読ください。
調査概要_生活者編
【調査概要】
(スクリーニング)
調査方法:Web調査
調査地域:日本全国
対象者条件:18~75歳男女(国勢調査にもとづき性別・年代・地域を母集団構成に合わせて回収)
標本サイズ:n=21,255
調査実施時期:2024年10月28日(月)~2024年10月31日(木)
(本調査)
調査方法:Web調査
調査地域:日本全国
対象者条件:スクリーニング回答者のうち、生成AIの利用経験者
標本サイズ:n=2,156
ウェイトバック:なし
調査実施時期:2024年10月31日(木)~2024年11月5日(火)
【i-SSP®(インテージシングルソースパネル®)】
当社の主力サービスであるSCI®(全国消費者パネル調査)を基盤に、同一対象者から新たにパソコン・スマートフォンからのウェブサイト閲覧やテレビ視聴情報に関するデータを収集するものです。当データから、パソコン・スマートフォン・テレビそれぞれの利用傾向や接触率はもちろん、同一対象者から収集している購買データとあわせて分析することで、消費行動と情報接触の関係性や、広告の効果を明らかにすることが可能となります。
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