非言語情報から仮説をたてる〈9〉
可視化マーケティングのすすめ方
セグメントの重層化
非言語情報から仮説をたてる(7)
非言語情報から仮説をたてる(8)
をお読みになってからぜひご覧ください。
連載の(7)(8)でお伝えしてきたように、長寿日本一の代表である麻生区の新百合ヶ丘というエリアで、シングルおばあちゃんの暮らしを覗きこんでみる時、「他の人たちとの関わり」でみることが重要である。同世代のおばあちゃん同士であったり、とりわけ娘や孫の世代と過ごしている生活シーンとの関わりをみておくことだ。他のセグメントとの時間や空間の重層性という視点を入れておくことは、暮らしの軌跡を外在的に可視化する時のポイントとなっている。
「他の人たちとの関わり」を見ることは、行動観察に代表される手法の典型だが、このように可視化された生活シーンは、観察者と対象との「間の時間と空間」が共有されたものである。カジュアルエスノグラフィとして、時空間が同期化した非言語情報の典型ということになる。ただ、外在的に可視化することのできる生活シーンの情報は、大半が時空間が同期化していないものである。
説明しよう。たとえば、シングルおばあちゃんの居住エリアの中で閉じられたままになった雨戸、という住居の可視化されたシーンは、何らかの行動の軌跡の残照である。そこには時空間が同時進行しているランチタイムのような姿はない。流れている暮らしが蓄積したことが生み出した残骸のようなものだといっていい。
このような情報こそが、暮らしをとらえていく時の非言語情報、可視化情報の典型ということにある。この両方を重層的にとらえていくことによって初めてカジュアルエスノグラフィ、つまり可視化マーケティングは成り立つのだ。
閉じられた雨戸の部屋
例として挙げた、「閉じられたままになっている2階の雨戸」というような非言語情報こそが、可視化マーケティングの対象の大半だ。行動観察的に収集することのできるランチタイムシーンのおばあちゃんたちの姿からだけでは、本当の全体像をつかむことはできない。むしろ、閉じられた雨戸のような可視化された情報からこそ、ランチタイムシーンの姿の本当の奥行きというものをとらえることができるようになっているのだ。
このような生活行動の軌跡という断片の非言語情報から、何らかの気づきをみつけだしていく時の第一のポイントは、「どんなセグメントの生活行動の断片なのか」ということになる。
新百合ヶ丘エリアの住宅の閉じられた雨戸というシーンを、まさにその居住者であるシングルおばあちゃんの暮らし情報としてみる、ということからの気づきがある。手つかずのまま、あるいは心のどこかでいずれ整理しようと思いつつも、実は現実的な手順にすることには極めて消極的であったりもする。そこにしまいこまれた物には、自身が生きてきた生活の軌跡で、証が付着しているのだ。言い換えれば、生きてきたことの思いや象徴でもあり、整理のつけようがなかったりする。機能としては、無駄以外の何物でもないが、心の価値としてみれば、逃れ難い大切さがある。
たとえば、娘たちの高校時代の制服はどう考えてもいらないものだが、人生のアイデンティティの表象であったりもする。断捨離という言葉だけが踊っていて、手がつけられないまま雨戸の閉められたままの部屋になっている。このように、暮らしは機能価値だけでは割りきれない。これを情緒価値という言い方で、済ますこともできそうもない。一種の宗教性に近い物でもある。
これを今度は娘の側というセグメントから見た場合には、これも機能価値からみれば無駄以外の何ものでもない。ただ、そのまま放置しておいても「実家」というスペースはトランクルームとして圧倒的な機能を発揮してくれている。多少の思い出としての情緒性はあるとはいえ、単に処分を決意しなくても許されているモラトリアムなのである。
この両側のセグメントの関わりの中で暮らしの時間が流れている。その2つのセグメントの関わりが時空間の共有性として具体化される瞬間がランチタイムシーンということになる。そして面白いことにこのランチタイムシーンで「断捨離」という言葉が使われ、話題になる。この重層性をみておくことで、初めて暮らしの可視化の気づきが得られることになる。
セグメントとターゲット
可視化マーケティングのための気づきをつくる時の重要なポイントがセグメントであり、セグメントの関わり、重層性ということになる。
非言語情報の収集、気づきの整理にとって第一ステップはセグメントの設定である。加えてそのセグメントをとらえるにあたって、他のセグメントとの重層性をみておくということである。たとえばシングルというセグメントであり、その中でもシングルのおばあちゃんなのか、もっと若い世代のシングルなのかといったことである。そのような暮らしの仕方の対象者の、生活の断片を拾い集めて気づきを作りだしていくことが重要だ。
たとえば「断捨離」ということを解いていこうとするならば、こんな狙い、ターゲッティングをすることになる。
あかずの雨戸のある家と、そこに関わりのある子供たちの世代という存在。そんな重層化された暮らしの実態を可視化する必要を感じた時に、初めて断捨離のターゲットということが浮かび上がってくる。
さらに、たとえばエスノグラフィという調査を設定するならば、その対象者や標本のサンプリングの必要性がここで初めて登場する。セグメントとターゲットとは異なっている。まず暮らしの変化をつかまえるのにはセグメントによる気づきの整理で十分といえる。
それでは具体例を見てみよう。実際に考えてほしい。
ここに具体的に4つのセグメントの中での掃除機のあり方をスナップショットで集めてみた。
20代男性シングル、30代女性シングル、40代家族、シングルおばあちゃん。どの写真がどの自宅だろうか。そしてどんな気づき、そしてその先にどんな視点を見つけだしていけるだろうか。
まずどのシーンがどのセグメントなのか、ターゲットとしての整理をしてほしい。そして、セグメントからアプローチして気づきを見つけだしてみてほしい。それぞれのセグメントはどれか、 次回以降続きを。
※掃除機のスナップショット/(株)インテージ「Consumer Life Panorama」、その他より。
<答え>
①40代家族
②20代男性シングル
③30代女性シングル
④シングルおばあちゃん
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