With コロナ ~桜咲く季節へ~
この記事は、インテージが生活者理解の拠点として立ち上げた、生活者研究センターのセンター長 田中宏昌による「Withコロナの新しい日常」に関するコラムの第6弾です
目次
1. 花咲く春~新型コロナワクチンがやってくる
2021年2月17日から日本においても新型コロナワクチンの接種が始まりました。
最初は医療従事者への接種から始まり、次いで高齢者、基礎疾患を有する方へと順番に接種を進めていく、との発表が厚生労働省からなされています。優先的に接種が行われる医療従事者や高齢者、基礎疾患を有する人は約5,770万※1。一般の方への接種がはじまるのは、6月とも7月とも言われています。
一般の方へのワクチン接種の普及まで、今しばらくの辛抱が必要ですが、カレンダーに自分の接種予定日の印をつける日もそう遠くないように思います。ワクチン接種の話題とともに桜の開花予報も目にするようになりました。
私が通っていた高校は「諏訪山」という小高い山の上にありました。校門へと続く坂道には桜の木々が立ち並び、春になるとそれはそれは見事な花景色となりました。私は日々刻々と季節を映すその風景が大好きで自転車で坂道を登りながらよく見上げたものでした。実家から自転車で10分程度ということもあり、卒業してからも毎年、桜を眺め、写真に収めてきました。
現在は神奈川に引っ越しをしてしまい、毎年のようには諏訪山の桜を眺めることはできなくなりましたが、桜の季節に実家に顔を出すときは諏訪山によって桜を見てから実家に向かいます。今でも諏訪山の桜は見事なままです。
もうすぐ桜の季節です。花の移ろいとともに、ワクチン接種を気長に待ちたいと思います。
私の場合は、四季の移ろいを感じやすい「鼻」のため、今の季節はマスクが手放せません。また、花粉の飛散が多い日に、うっかり外出してしまい目にひどいかゆみを感じても、手で掻いたりすることはぜずに洗顔をしたり目薬を差したりして、対応する習慣になっています。それらの行為は新型コロナの感染対策にもつながっているような気もするので、今年はアレルギー鼻炎を(ほんの少しですが)前向きに受け止めて過ごしています。
朝日に輝く諏訪山の桜
筆者 撮影
2.「新型コロナワクチン」というやわらかい光
現在の感染状況に目を向けると、緊急事態宣言による行動規制によって、新規感染者数は減少傾向に転じています。さらに、変異株の感染も心配していたほどには拡大していないようです。そのため、3月1日には岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の6府県の2回目の緊急事態宣言が解除されました。解除された地域の主要な駅周辺の人出をはかるデータでは、多くの地点で宣言中と比べて1%から5%増加したと報道されていました※2。いよいよ、ワクチンの接種もはじまります。お花見のシーズンではありますが、依然として予断を許さない状況です。気を緩めることなく、これまで同様に感染には注意しつつ過ごしたいと思います。
いつものように、まずは景況感をあらわすデータを眺めてみましょう。内閣府の景気ウォッチャーによれば、景気の現状を示す「現状DI」は12月に引き続き落ち込む結果になっています。しかしながら、その角度はやや鈍化しています。一方で、将来の見通しを示す「先行きDI」は11月に大きく悪化し底打ちをして、12月から回復へ、と思われる動きになっています。(図表2)※3
これらの数字の動きの中に、第3波が緩やかに収まりつつあり、新型コロナワクチンの接種や普及が現実的になってきたことがやわらかな光として、「これから」をほのかに明るく照らし始めているような気がします。
図表2
20年3月から収集している弊社の「Withコロナアンケート」※4では、コロナ禍における生活者の不安をさまざまな視点から観測をしています。生活者の消費意識や行動の変容において重要な要因となる「感染拡大の不安」から生活者の現在のマインドを確認してみましょう。
直近(2月後半)では7割弱の方が「感染拡大」の不安を抱いていると回答しています。第3波拡大とともに1月中旬には8割付近まで増加していましたが、感染者の減少とともにこの不安も大きく減少してきています。
また、感染拡大不安に連動して、「飲食店での食事」に不安を感じる人は約6割。「テーマパークや繁華街・人が集まる場所への外出」に関する不安は7割となっています。これらの不安は感染者数と連動して動く傾向があるので、感染者数が減少へ向かっている現在は、減少に向かっています。(図表3)
図表3
これからお花見のシーズンを迎えますが、桜の名所などはそれなりの人の出が予想されます。不特定多数の人との接触には不安が大きいことや、飲酒・飲食が伴う集まりにはリスクを感じている人も多いと思われます。お花見が以前のような形に戻るにはまだまだ時間がかかりそうですね。
3. やわらかな光は財布の紐を緩めるのか?
新規感染者の減少、新型コロナワクチンの接種開始など、「光」も見えはじました。その結果、感染拡大をはじめとした外出を伴う行動への「不安」もゆっくりと緩んできたように思います。ここからは「感染不安」とともに生活者が抱く、「暮らし向きの不安」や「家計の不安」についてアンケートの結果を眺めてみましょう。
直近(2月中旬)のアンケート結果では1割強の人が「暮らし向きが今より悪くなる」と回答しており、先月と比較して大きく減少しています(前月同期比マイナス8pt)。その一方で、「節約意識(家計の節約を心がけている)」については6割を超えたままで推移しており変化がみられません。「暮らし向きの悪化への不安は下げ止まりしつつも、節約は継続」という現在の生活者の心理が浮かんできます。(図表4)
図表4
「節約意識」は生活者の暮らしの中にどのような影響を与えているのでしょうか。具体的に節約していることがらについて眺めてみましょう。アンケートでは「新型コロナウイルスの影響を受けて、以前よりも価格が安いものを選ぶようになったり、費用を抑えめにしているものをお選びください」と質問を投げかけています。
1位は「レジャー(旅行・ドライブなど)」ですが、「Gotoトラベル」の中止や緊急事態宣言により、行動の自粛が求められる中ですので、自分自身の意思とともにそうした外的な要因も影響しての結果と思われます。ではさっそく、他のものにも目を向けてみましょう。
2位には「普段用の洋服や靴」がランクインしており、前回12月の調査時点よりもスコアは大きくなっています。例年であれば、年末年始のこの時期は衣類の購入も多くなるタイミングのはずですが、今回は引き締めモードだったようです。続いては「お菓子・デザート」が挙がっており、「暮らしの彩り」ともいえる商品も我慢の対象になっていることが伺えます。さらには、「野菜」、「お肉・お魚」、「お惣菜」、さらには「くだもの」なども上位に挙がっており、日常の「食」にも引き締めの影が色濃く漂っています。
また、「口紅」をはじめとしたメイクアップ用品や、「化粧水、乳液、美容液」、「洗顔料やクレンジング用品」など基礎化粧品なども節約の対象となっており、基礎化粧品系は前回からの伸びも目立つ結果となっています。在宅勤務の導入・普及により、オフィスへの出社機会が少なくなったことから、口紅をはじめとしたメイクアップ用品の売上減少がさまざまなニュースで取り上げられていましたが、一方ではテレビ会議などの影響もあり、「素肌ケア」への関心が高まっている、というニュースも目にしていました。新型コロナの長期化により、節約志向の広がりによって「化粧水、乳液、美容液」、「洗顔料やクレンジング用品」などの見直しもはじまったのかもしれません。このあたりは、弊社の購買データをウォッチしつつ、また別の機会でご紹介していきたいと思います。
図表5
4. 変わる買い物行動:新しい日常~ネットシフト
コロナ禍の1年を買い物行動という視点で振り返ってみると、昨年3月の一斉休校や4月の緊急事態宣言の頃から1回あたりの買い物金額は例年と比較して多いまま推移しています(赤線は基準値[1])。緊急事態宣言による外出の規制はありますが、新型コロナの感染を避けるためにスーパーなどでの買い物をできるだけ減らしたい、という自発的な考えが、「まとめ買い」という動きにあらわれたものと考えます。
また、現在の感染状況を鑑みると、まだまだ安心できない状況であることから、「まとめ買い」の習慣が消えることなく続いていると考えます。あるいは、数日分の献立を考えてまとめ買いをすることによって、食材の無駄を減らすことができたり、買い物に費やしていた時間が節約できたなど、まとめ買いによるメリットを実感したことによって、まとめ買いのスタイルを続けているのかもしれません。(図表6)
図表6
また、このコロナ下の1年を振り返ると、日常のお買い物に「インターネット」がより普及・浸透した年だったことがわかります。4月の緊急事態宣言発令によって日常の買い物も以前のように行うことが難しくなり、インターネットでの購入が大きく飛躍しました。さらに注目すべきは、Amazonや楽天のような通販系サイトだけでなく、イオンやイト―ヨーカードーなどのリアル店舗を持っているスーパーが行っているサービスが伸びた点です。これまでネットでの購入に二の足を踏んでいた人々が「普段利用しているスーパーからのネット購入であれば」との思いから利用しはじめた方も多いと思われます。(図表7)
図表7
インターネットによる買い物がこれまで以上に身近になったと思われるデータをもう一つ。
それは購入品目の拡がりです。「飲料」、「食品」、「雑貨」、「化粧品」と大きく4つの品目別に各チャネルの購入金額と比較対象時期との増減割合を算出しています。さらに、コロナ下における各チャネルの利用状況の推移をみるために、①1回目の緊急事態宣言期、②「Go to キャンペーン」も動き出した経済再始動期、そして、③2回目の緊急事態宣言期の3時点を比較してみました。
「通販(ネット)」に注目すると、4つすべての品目において、比較時点を大きく上回っていることがわかります。特にあらゆるチャネルで苦戦がみられる「化粧品」についても、「通販(ネット)」は比較時点を上回る数字を刻んでいます。さらには、「通販(ネット)」は3つの時点を通じて総じて好調だったこともわかります。
当初は外出自粛や3密回避を理由として利用をはじめたひとも、インターネットによる生鮮を含めた食品など、日常の買い物を体験したことによって、その利便性を実感し、「定着」に向かっているものと思われます。
図表8
5. 変わる買い物行動:新しい日常~お買い物はできるだけ早い時間帯に
スーパーで買い物をする時間帯にも変化がみられます。年末から2月上旬までの買い物時間帯のデータを用いて、昨年の同じ時点と比較してみました。(図表9)
月曜から金曜日の平日(青系の線)についてみてみると、11時~15時くらいまでの時間帯の利用が昨年と比較して増えていることがわかります。一方で、18時以降は昨年と比較して少なくなっていることが見て取れます。また、土日(赤系の線)に目を向けると、昼間は平日ほどの変化はありませんが、17時以降の利用は平日同様に減少しています。コロナ下における買い物行動の変化の特徴のひとつにこの「買い物時間帯の前倒し」があります。
この変化は1回目の緊急事態宣言の際にも確認することができました。「3密を避け、できるかぎり人の少ない時間に買い物を済ませたい」という感染予防の観点から、とその理由を推測することができますが、第3波の渦中、同じように感染防止を念頭に置いた行動が現在も続いていると思われます。
先日、母(77歳)と話をした際には、「人の少ない午前中から午後早めまでに買い物は済ませちゃう」と言っていました。また、買い物だけなく、夕飯や食器の片付けも早く済ませてしまい、以前よりも増えた夜の自由時間を、テレビを観たり本を読んだりして、ゆったりと楽しく過ごしている、と言っていました。
そうした話を聴くと、コロナインパクトは買い物時間帯を変化させただけなく、テレビをはじめとしたメディアの接触時間にも影響を与えていることに納得できるような気もします。(図表10)
図表9
図表10
6. おわりに~SDGsマインドの灯
コロナ下において、旅行業界や飲食業界など、さまざまな業界が苦境に立たされています。飲食店などは、急遽、デリバリー(お持ち帰り)を始めるなどして、営業自粛や営業時間の短縮などで激減してしまった売上げを補おうとがんばっています。
以前、このコラムでも書きましたが近所に「ブレーメン商店街」という大きな商店街があり、飲食店も数多く立ち並んでいますが、よく通っていた数軒の居酒屋さんも持ち帰りメニューを用意しています。いつものようにお店で飲むことはできないかわりに、時折、お店のFacebookでメニューを確認して、週末の夜などに楽しんでいます。当初は前菜やメイン、デザートなどで、お酒は購入できませんでしたが、昨年4月という早い段階で国税庁が料飲店に対して「期限付酒類小売業免許」を許可してくれたことからアルコール類も持ち帰りの販売が可能となりました。あるお店はお料理が美味しいのはもちろんですが、お料理に合わせた日本酒も楽しみなお店なので、メニューに合わせてセレクトされた日本酒を楽しめることは本当にうれしいものでした。
これだけを書くと単に「食べたいだけ、飲みたいだけ」のようにも映りますが、「お店がなくならないでほしい」という心からの気持ちがあることも確かです。コロナ下において「応援消費」といった言葉で表されることもありますが、「少しでも誰かの、なにかの支えに」、「小さくても自分ができることを」、そうした心待ちが生活者に芽生え、ひろがったように感じています。
先週、「サステナブル・ブランド国際会議 2021 横浜 ※5」がパシフィコ横浜で2月24日~25日の2日間に渡って開催されました。私もとあるセッションのパネルディスカッションにお邪魔してきました。そのための準備として、「SDGs」にまつわる自主調査を実施しましたが、この1年で「SDGs」に関する認知が大きく高まっていることに驚きました。(図表11)
コロナ禍という苦難の1年ではありましたが、生活者のココロに「サステナブル(持続性)」という灯がより強くともった1年だった、とも言えそうです。
図表11
おわり
本コラムに関連する記事です。~ぜひ、あわせてご一読ください!
1)この冬の第三波 生活者行動への影響は?(2021/2/12)
https://gallery.intage.co.jp/daisanpa/
2)浸透が進むSDGs コロナ禍のいま、生活者が考える「優先的に取り組むべき」ゴールは?(2021/2/24)
https://gallery.intage.co.jp/sdgs2021/
※1 厚生労働省 接種についてのお知らせ 2021.2.17
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html
※2 NHK おうちで学ぼう for school 「緊急事態宣言 解除の6府県 朝の人出1~5%増加」 2021.3.1
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210301/k10012891281000.html
※3 内閣府 景気ウォッチャー
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2021/0208watcher/bassui.html
※4 インテージ 「Withコロナアンケート」 インテージ自主調査
調査地域:日本全国、対象者条件:15~79 歳の男女、標本サイズ:n=3,000
調査実施時期:2020年3月~現在も継続中
レポートに引用した直近の調査実施期間:2021年2月19日~21日
※2020年5月31日まではデイリー調査、2020年6月以降はウィークリー調査
※5 サステナブル・ブランド国際会議 2021 横浜
https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2021/
「今、地球環境との共生に深く根差した持続可能なモデルへの転換が求められています。
それは、地球や暮らしの環境をREGENERATION(再生)しながら、構想・構築していくというモデルです。
不透明な withコロナの中で、社会がよりレジリエントに生まれ変わるためにも、「REGENERATION」へと
前進する。」
開催日程:2021年2月24日~25日
会場:パシフィコ横浜ノース
登壇セッション:コロナ禍による移住・移転はワーク&ライフスタイルをどう変えうるのか?
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生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
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