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テレビCMの効果はどう可視化できる?販売データとの関係性

テレビCMに代表されるマス広告からデジタル広告へのシフトが進んでいます。電通イージス・ネットワークが今年6月に発表した「世界の広告費成長率予測」※1によれば、2018年には、世界の総広告費に占めるデジタル広告費のシェアは38.4%となり、初めてテレビ広告費を上回るとされています。
日本においても同様の状況で、今年2月に電通が発表した「日本の広告費」※2によると、2017 年のテレビメディア広告費1兆9,478億円に対し、インターネット広告費は1兆5,094億円と、テレビメディア広告費に迫っています。

デジタル広告の特徴として、比較的テレビ視聴時間の短い若年層へリーチしやすいことなどが挙げられます。一方、マス広告の代表であるテレビCMは、広範囲の生活者に対して企業や商品のイメージを視聴覚的に伝えられるという特徴があり、新商品などを広く認知させ、店頭で棚を作って売上を伸ばす目的においては特に効果的とされています。
ただ、効果測定にあたっては、デジタル広告は広告に接触した人の反応や態度変容を追うことで広告効果の測定がしやすいのに対し、テレビCMはどのような効果があったかが見えづらく、効果測定方法が課題でした。

いま、データ収集環境が改善され、テレビCMに関するデータの拡充が進んでいます。
例えば、これまでは「いつ、どこで、どのテレビCMが流れたか」、というCM出稿情報は限られたエリアでしか整備されていませんでしたが、いまは全国での整備が行われています。
また、スマートテレビが普及し、その視聴ログデータが収集できるようになったため、CM出稿情報とスマートテレビ視聴ログを組み合わせることで「いつ、どこで、どのテレビCMがどれだけのスマートテレビで視聴されたか」、という全国でのCM視聴実態が捉えられるようになりました。インターネットに接続されているテレビのデータが収集できるため、そのデータ量は膨大なものとなり、エリア別でも安定した分析が可能です。

これらの環境変化を受けてテレビCMの効果の可視化がしやすくなったことで、テレビCMが見直されつつあります。テレビCMの効果はどのように可視化できるのでしょうか。この記事では、テレビCM接触データと小売店の販売データの関連を調べ、テレビCMが販売に与える影響について考察します。

ブランドによってテレビCMの効果はどう違う?

はじめに、テレビCM接触データと販売データのトレンドを見てみます。テレビCM接触データとしては「いつ、全国のどの局で、どのテレビCMが流れたか」がわかる『全国CMマスタ』のデータとスマートテレビ視聴ログデータ『Media Gauge TV』をマッチングした、「いつ、全国のどの局で、どのテレビCMが、どれだけのスマートテレビで流れたか」がわかるデータを使用し、販売データとしては『SRI(全国小売店パネル調査)』データを使用しました。

2つのアイスクリームブランドX、Yを対象とした、京浜エリアにおけるテレビCMのGRP(のべ接触率:のべどれだけのスマートテレビで表示されたかを表す指標)、販売金額(売上)、および販売店率(どれだけ多くの店で販売されたかを表す指標)の推移が図表1です。2018年4 月2 日から24 週間の週別の変化をあらわしています。

図表1media-5_01.png

GRPはたびたびメーカーと小売店との商談で使われます。商談ではGRPが高い、つまり、「より多く生活者にテレビCMを届けられること」が売り込みの材料となります。GRPが高いほど、店側の取扱いが増える(販売店率が上げられる)可能性が高まり、さらには売上を伸ばせる可能性も高まります。そこで、テレビCMの効果として、GRPが販売店率や売上にどのくらい影響を与えられるかを追いました。

まず、同程度のGRPを投下しても、同じような効果が出るとは限りません。
ブランドXとブランドYは、同程度の販売規模のブランドであり、どちらも同程度のGRPを投下していますが、投下後の動向に違いがあります。
ブランドYはシーズン前から既に夏並みの販売店率を確保しているブランドであることもあり、ブランドXに比べてCM投下後の販売店率の上昇が緩やかです。ブランドXの方がテレビCMの出稿と販売店率、販売金額が連動している、「テレビCMの効果が大きいブランド」であると言えそうです。

また、ブランドYは、普段から販売店率が高い分、テレビCM効果として1店舗あたりの販売金額の増加を狙ったと思われますが、CM投下後の販売金額はブランドXほど伸びておらず、その効果は期待に満たなかったのかもしれない、と推測されます。その他にもこのデータからは、「ブランドXは5月頃のテレビCM投下で認知率が向上して7月以降の売り上げにつながった」、あるいは「夏の暑い時期にはブランドYよりもブランドXの訴求効果が高かった」といった仮説も立てられます。

このようにテレビCM接触と販売状況を競合とも比較しながら確認することで、様々な気づきを得たり仮説を立てたりすることができます。さらにその仮説を、生活者へのアンケート調査やシングルソースパネル(同一モニターの購買とメディア接触を継続的に捉えたパネルデータ)での分析の結果とあわせて検証することで、キャンペーン効果を総括することができ、次回のキャンペーン施策に活かすことができると考えられます。

エリア別のテレビCM効果の違い どんな仮説が見えてくる?

CMの出稿量はエリアによって異なります。また、日本の小売はローカルチェーンが多く、小売店との商談にもそのエリアの出稿量が大きく影響すると考えられます。ここからは、エリア別のテレビCM効果について、新商品のテレビCMを題材に見ていきましょう。

図表2は2018年の同時期に発売された、4つの既存アイスクリームブランドの新フレーバーに関するデータです。a、b、c、dの4つの商品のうち、テレビCMが投下されていた商品はaのみで、発売初週のシェアはテレビCMを投下していない他の商品を上回っています。ただし、aとb とのシェアの差は全国区で見るとほとんどなく、販売店率はbのほうがaを若干上回っています。このとき、それぞれのエリアではどのような状況になっていたのでしょうか。
デジタル広告やオフライン広告への接触、既存ブランド間の認知率の差など様々な要因でシェアが左右されると考えられますが、ここではテレビCM接触と販売に焦点をあて、エリア別にデータを確認することでテレビCM の効果について考えます。

図表2media-5_02.png

まず、商品aのエリア別のGRPと販売金額の関係を見てみましょう。エリア間の人口の違いを考慮し、GRPと人口1万人(※)あたりの販売金額をプロットしたものが図表3-1です。GRPが高いエリアほど、商品aの人口1万人あたりの販売金額が大きい傾向が見られ、テレビCM投下量と販売金額に相関関係があることが見て取れます。
※人口は、総務省統計局の平成27年国勢調査の数値を使用

次に、商品aのエリア別のGRPと販売店率の関係を見てみましょう(図表3-2)。GRPが高いエリアほど、販売店率が高い傾向があり、前述のメーカーと小売店の商談において、テレビCMの生活者への訴求効果に期待した小売店が多いことが推測されます。
なお、図表3-1と図表3-2を比べてみると、GRPが最も高く、販売店率も2番目と高い関東エリアの人口当たりの販売金額が6番目になっているのがわかります。この様なチャートを見ることで、GRPが高く、棚も確保できている割に販売がいっていない、という課題をキャッチし、テレビCM以外の要因検討に繋げていきます。

図表3media-5_03.png

続いて、テレビCMを投下していないものの、商品aと遜色のないシェアを獲得していた商品bと比較してみましょう。各エリアで商品aとbのどちらの販売店率がどれだけ高かったか、どちらの販売金額がどれだけた大きかったか、を確認するため、販売店率の差と販売金額の差をプロットしました(図表4)。
一部のエリアを除き、多くのエリアで販売金額はbを上回ってはいるものの、販売店率で上回っているのは近畿・中国・東海エリアのみであること、そしてその3エリアでは特に販売金額の差を大きくつけることができていることがわかります。CMと店頭の相乗効果がうまくいったエリアとも言えるのではないでしょうか。

図表4media-5_04.png

以上のように、エリア別にテレビCM投下量、販売店率、販売金額を確認することは、短期的なテレビCM効果の検証、およびエリア別の追加施策検討のために有用な情報であると考えられます。たとえば、GRPが低いエリアは、紙広告、デジタル広告での補完を行うことが有効と考えられます。GRPが高く、販売店率が低いエリアは、営業施策の改善が課題として考えられます。短期的に検証を行うことで、迅速な改善施策の実行が可能となります。

「テレビCM効果の可視化」のその先

この記事では、テレビCMの効果の可視化を目的として、テレビCMが販売に与える影響を考察しました。テレビCM投下量と販売店率、販売金額の関係について、トレンドデータやエリア別データを確認することで、課題や仮説が見えてきます。集計した値を比較するだけでは、テレビCM接触と販売の明確な因果関係まで明らかにすることは難しいですが、検証および改善スピードの点で優位性があると考えられます。

従来の広告効果測定手法と比較してデータ収集が簡易であり、マーケティング・ミックス・モデリングのような高度な分析手法を用いることもなく検証が可能という点もメリットです。さらに、連続的にトラッキングできる環境も整ってきているため、自動化を進めることでリアルタイムに近いスピードでの施策改善を行える可能性もあります。

前述のとおり、テレビCMだけの効果ではなく、デジタル広告やオフライン広告への接触、既存ブランド間の認知率の差といった様々な要因はありますが、これらと合わせてトラッキングしていくことで、総合的な評価にも繋がります。

データによってテレビCMの効果を多角的に可視化し、改善のためのアクションにつなげやすくすることで、テレビCMをより効果的に活用できるのではないでしょうか。

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※1 http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0614-009553.html
※2 http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0222-009476.html

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今回の分析には全国CMマスタとMedia Gauge TV、SRIを用いました。

全国CMマスタ】全国47都道府県の全地上波テレビにおけるテレビCMの出稿情報(どの局で、いつ、どのようなテレビCMが放送されたか)をデータベース化したものです。これにより、競合も含めたテレビCMの出稿状況を日本全国で把握することができます。

Media Gauge TV】日本全国を調査対象に、月あたり61万台のスマートテレビと58万台の録画機から収集された視聴ログデータです。(最新の台数情報はこちら)膨大なサンプルサイズで収集されているため、市区町村レベルの分析でも一定のサンプルサイズを確保でき、視聴傾向の詳細なエリア差を把握することができます。また、全国CMマスタと繋げることで、テレビCMの接触状況(どの局で、いつ、どのようなテレビCMが、どれだか視聴されたか)を捉えることもできます。
都道府県ごとのエリアマーケティングや、テレビCMのプランニング・バイイングにご活用いただけます。

SRI(全国小売店パネル調査)
スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約4,000店舗より収集している小売店販売データです。このデータからは、「いつ」「どこで」「何が」「いくらで販売された」のかが分かります。店頭での販売実態を捉え、ブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただけます。


※この記事はMarkeZine35号に掲載された寄稿記事(『テレビCMが販売に与える影響』)を再構成したものです。


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