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n=1からみる令和の新ライフスタイル Case6:40代男性Fさん

「コロナ移住」という言葉も出てきたように、コロナ禍に都心から地方や郊外に移り住む人、興味を持つ人が増えています。実際、東京・有楽町にある移住相談センター「ふるさと回帰支援センター」(NPO法人100万人のふるさと回帰・循環運動推進・支援センター運営)では、2021年の相談件数が4万9,514件と過去最高値を更新し、内訳として女性の割合(45.4%)、20代の割合(21.9%)も過去最高値となりました。かくいう私もコロナ禍にリモートワーク中心となったことで郊外に引っ越しており、同僚や身近な人からも地方や郊外への移住話を耳にします。リモートワークも普及する中で、都心を離れて生きるという選択の裾野が広がっているようです。

そこで気になるのが、「地方移住って実際どうなの?」「就農やフリーランスではなく会社員はできるの?」ということではないでしょうか。今回の記事では、コロナ禍に会社員を辞めて地方移住した40代男性Fさんについて取り上げます。人生で初めて家や車を買い、元野良猫と夫婦2人で心穏やかに暮らすFさんが、コロナ禍で気づいたこと、移住したことによる生き方への価値観の変化を紹介します。

コロナをきっかけに会社員を辞め、音楽活動を本格化しつつ移住へ

まずはFさん自身と、コロナ禍での主な行動についてです。Fさんは、四国出身の40代既婚男性で、音楽活動やお酒をこよなく愛する方です。元々は夫婦で首都圏の賃貸住宅に住み、会社員をされていました。長らくは音楽も飲みの席も楽しい日々だったそうですが、職場での上下関係への疲れなどから退職意向がちらつき始め、高い家賃を支払い続けることへの疑問から地元へのUターンも考え始めた時期に、コロナ禍に突入したことが生き方を変えるきっかけになりました。

コロナ禍当初、Fさんは感染への不安も大きく、飲みにも行けず、満員電車での通勤も苦痛になり「辛いことしかない」と感じていたそうです。そうした中で、奥様からの「(Fさんが)辛くない生き方をした方がいいんじゃない?」という後押しもあり、会社員を辞め、音楽活動を仕事へと本格化されました。それから1年後の2021年3月、奥様の仕事や趣味(音楽活動)の調整の目途もたち、Fさんの地元へのUターンを含めた移住先を探し始めます。結局は、地元ではなく、友達から紹介された広島県尾道市の空き家が気に入ったことから、11月には夫婦で移住という流れとなりました。

見知らぬ土地の地方移住に踏み切れた3つの理由

地元でもない尾道市への移住に不安はなかったのでしょうか。Fさんは、移住を「ちょっと遠い引っ越し」と表し、「気軽な気持ちでできた」と言います。そのように踏み切れた背景には、「移住に条件が少ない」「市内に頼れる友達がいる」「家族にリモートワーカーがいる」の3つがあると考えます。

「移住に条件が少ない」については、Fさん自身「贅沢を言える立場ではなかった」と吐露され、家はとにかく安く一括で買えることを目指し、古い空き家を見て回ったそうです。一緒に住むことになる奥様も「Fさんが気に入ればそこで良い」と特に条件はなく、一緒に内見されていたというから驚きです。物件探しの際には、周辺環境などを考慮することもなく、価格がクリアできた中で最も状態のよい家で決めていました。しかしながら、その結果、たまたまスーパーや郵便局が近くにある利便性のよい場所に住むことになり、意外にも首都圏にいた頃よりも生活がしやすくなったそうです。その運の良さにも驚きです。

「近場に頼れる友達がいる」については、家を紹介してくれた友達家族が近場にいて、どこになにがあるという土地勘や、例えば汲み取り式トイレの使い方などの古家ならではの困りごとにも気軽に相談に乗ってくれるそうです。もともとその友達の家に行ったときに、尾道市を直感的に気に入り、移住先の候補地にしたとのこと。その友達はプライベートで空き家探し・紹介の手伝いもしているそうで、そんな友達がいれば、見知らぬ土地にも飛び込めそうですね。

そして「家族にリモートワーカーがいる」についてです。やはり地方移住での1番の問題は、就労ではないでしょうか。Fさんの場合、ご自身は音楽活動を仕事にされていましたが、収入という面ではなかなか厳しい状況でした。一方で奥様は、首都圏時代から変わらず会社員を続けられています。コロナ禍に突入し、奥様は週に数回リモートワークとなりました。移住にあたって、完全にリモートワークできる部署へと異動し、会社を辞めることなく、移住先でも安定した収入を得ています。家族にリモートワーカーがいることは、地方移住に踏み切れる大きな要素だと思います。Fさん自身は、今は音楽活動を休止し主夫業をメインとされていますが、近場で週数日働くことも含め、今後の働き方を検討中とのことです。

移住で「大人」としてステップアップ、価値観も変化

Fさんは移住したことで、人生で初めて家を買い、車を持つようになりました。その心境を「大人になった気分」といい、ご自身の成長を感じるそうです。そしてなにより毎月の家賃に追われない安心感があり、働き方への考え方も変わりました。以前は正社員で決まった日数働き、毎月決まった給料をもらうのが当然という考え方だったのに対し、自分の家がある今は、自分のペースで必要な額を稼げばよいという考え方に変わりました。また、首都圏にいた頃は、家賃はFさん、生活費は奥様という分担で別々に金銭管理をしていましたが、移住後は共有口座を作り2人で生活費を賄うという仕組みにしたことで、個人単位ではなく家族としての収支で生活を考えるようになっていました

心地よいご近所づきあい、そのポイントは

Fさんの移住後の変化として、外的要因によるものもあります。その最たるものがご近所づきあいです。地方移住に付きまとう問題とも言えますが、Fさんにとっては心地よく、移住の成功要因の一つとしてもポジティブに捉えられています。その背景には、「土地柄」と「空き家の元持ち主とご近所さんとの関係性」がありました。

まず「土地柄」では、尾道市は港町で昔から人の出入りが多く、「よそ者」も迎え入れる土地柄だそうです。Fさんは「閉鎖的な土地に移住したら失敗すると思う」といい、よそ者が入りやすい土地かどうかが移住成功の鍵になるとも感じていました。

そして「元の持ち主とご近所さんとの関係性」では、空き家の元持ち主が親切で優しい方だったそうで、Fさん夫婦が引っ越す前に、近所の方々に「この家に都心からご夫婦が引っ越ししてくるからよろしくね」と伝えてくださっていたとのこと。Fさんたちが引っ越しの挨拶をした際に、みんなが「来るのを聞いてたよ」と喜んで受け入れてくれたそうです。その後もご近所さんとは、会えば軽く話をして、みかんなどの差し入れをしあうような関係性を築いていらっしゃいます。

実は、このようなご近所づきあいが、念願だった猫を飼うということにつながります。Fさん夫婦は、首都圏にいた頃から猫カフェによく行き、「いつか猫を飼いたいね」と話されていたそうです。移住先の近所には、野良猫が多く、よく可愛がっていたのでFさん夫婦にも懐いていました。そんなときに、町で野良猫を管理している方から、その中の1匹がケガしたので引き取ってほしいと相談されます。その野良猫はFさん夫婦によく懐いており、近所の方もそれをご存じでした。Fさん夫婦は、想定外ではあったものの、喜んで引き取ったそうです。今では、猫と一緒に寝て起きるような「かわいいし、幸せな生活」を送っています。

地方移住成功の秘訣は

Fさんにとって移住は、困りごとやマイナス要素が殆どなく、非常に満足されています。強いて言えば、土地の地主との手続きがゆっくりでなかなか進まないこと、ご自身の収入面での今後の不安があるそうですが、移住は自分に合う生き方を叶える素晴らしい変化と考えられています。そんなFさんに、移住成功の秘訣を聞くと、「移住は大層なことではなく、誰でもできること」と前置きしつつ、「周りのサポート」「よそ者を受け入れる土地柄」、そしてなにより「運がいいこと」の3つが大事ということでした。これまでお伝えしたお話からも納得できますね。

また、Fさんは、「地方移住」は今後も増えると見ていらっしゃいます。自分と同じように都心から離れたいと考えている人は多いと感じるようです。そして移住してみて空き家の多さも実感し、「地方の空き家に人が住むようになれば、人が集中するよりも、色んなところで色んな文化が生まれて社会にも良い」とも考えるようになったそうです。

まとめ

Fさんの地方移住の経緯や価値観の変化をみていくと、「個」から「社会」へと、つながりや考え方が広がっていることが分かります。首都圏に住んでいた頃は、夫婦でも金銭管理を別々にし、お互いに正社員で働くことが当たり前でしたが、移住後は共有口座での家族での支え合いや、地域の人との交流が生活の基盤にあります。

それでいて、スマートフォンやSNSで友達と簡単につながれて、奥様が都心の職場で仕事を継続できているように、移住は「ちょっと遠い引っ越し」という身近なことになりつつあります。Fさんの場合は、コロナ感染拡大が移住の後押し要素にはなりましたが、恐らくコロナ禍でなくとも会社員は辞めていたでしょう。そうなると、やはり「地方移住」という選択になっていたのではないでしょうか。「コロナ移住」による地方移住は、限定的な動きではなく、今後も追うべき動向になりそうです。

次回はGさんのインタビュー結果をお届けします。


今回の分析は下記の設計で実施した株式会社インテージクオリス・株式会社インテージの共同自主企画の調査結果をもとに行いました。
・調査主体:株式会社インテージクオリス・株式会社インテージ
・調査実施日:2022年1月~2月
・調査対象者:国内(主に首都圏)在住の20~60代男女10名
・調査手法:デプスインタビュー(オンライン)※WEB環境を利用し、会場に集まらなくても任意の場所からオンラインでインタビューを行う手法です。自宅でインタビューを行うケースが多く、リラックスして参加できるので、よりリアルな消費者の声がみえてきます。

インタビューに先立ち実施したアンケート調査結果に関する記事も掲載していますので、あわせてご覧ください。

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著者プロフィール

株式会社インテージクオリス リサーチ推進部 リサーチャー 太田 優香(おおた ゆか)プロフィール画像
株式会社インテージクオリス リサーチ推進部 リサーチャー 太田 優香(おおた ゆか)
日用品・化粧品業界の業界紙記者を経て、2019年10月にクオリスに入社。商品開発や販売、営業などの現場の方から経営陣まで幅広い取材経験を活かして分析・レポート作成に従事し、2021年春からモデレーターとしてもスタートしています。最近結婚したことで、ものの見方や感じ方は十人十色と改めて感じています。

日用品・化粧品業界の業界紙記者を経て、2019年10月にクオリスに入社。商品開発や販売、営業などの現場の方から経営陣まで幅広い取材経験を活かして分析・レポート作成に従事し、2021年春からモデレーターとしてもスタートしています。最近結婚したことで、ものの見方や感じ方は十人十色と改めて感じています。

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