

「アンケートの顧客満足度は高いはずなのに、なぜかリピート率や売上が伸び悩んでいる……」
自社の商品やサービスを展開する中で、そんなジレンマを抱えていませんか?
もしかするとその原因は、「満足」という指標だけを追いかけていることにあるのかもしれません。
企業の業績を安定して上げ続けるためには、ユーザーの「心理」の奥底にあるメカニズムを紐解き、適切な感情に働きかけ、理想的な「行動」へと導くことが不可欠です。では例えば、「長く利用してもらう」ためには、具体的にどのような感情を抱いてもらうことが効果的なのでしょうか。また、その感情を醸成するために、どのような働きかけや顧客体験の提供が必要になるのでしょうか。
今回は、8業界(n=8,537)の自主企画調査の結果からアパレル業界(n=1,086)を取り上げます。あるブランドを「長く利用し続けよう」という意向に影響を与える感情とは何か、そしてその感情がどのようなユーザー体験から生まれるのか――。これらを数値データに基づいて紐解いた分析事例をご紹介します。
本コラムの巻末では、今回の調査の詳細データや、関連するサービスについてまとめた無料ダウンロードレポートをご案内しています。ぜひ最後までご覧ください。
今回取り上げる事例は、全国規模のチェーン型アパレルブランド6社分の調査データを解析したものです。 数値を本格的に分析する前に、まずはユーザーから寄せられたフリーアンサー(自由記述)の「ブランドを選ぶ理由」を見てみましょう。すると、ユーザーの感情は大きく3つの傾向に分けられることが見えてきます。
図表1

1つ目は、『ベース満足』です。 「安くてそこそこ品質がいい」「欠品が少ない」といった声がこれに当たります。期待通りの品質やサービスに対する基本的な満足感であり、不満がないからこそ継続している状態です。多くの業界において、このベース満足はサービス品質の根幹ですが、実は「満足度が高い=ずっと買い続けてくれる」という単純な図式にはならないことに注意が必要です。 実際、多くの研究や事例(メタ研究例:Szymanski et al., 2001)において、満足度だけでは顧客ロイヤルティを十分に説明できないことが示されています。一部の業界では、一定の水準を超えると、満足度が購買実績に与える影響力が弱まることが報告されているのです。
図表2

残り2つの感情にも目を向けましょう。 2つ目は、『エンゲージメント』。 「自分の人生を支えてくれるパートナーのような存在」「応援したい」といった、ブランドに対する強い絆や愛着、同一視の感情です。 そして3つ目が、『スイッチングバリア』です。 「他が良いか悪いかわからず、失敗したくない」といった、リスク回避や現状維持を望む心理、つまり「他へ乗り換えにくさ」を表す感情です。
このように、フリーアンサーを読むだけでも、「満足」以外の感情が選ぶ理由になっていることが伺えます。
図表3

ここまでアンケートの声を眺めることで、ブランドを選ぶ理由には多数の感情が関わっていることが見えてきました。では、これら3つの感情(ベース満足・エンゲージメント・スイッチングバリア)を更に深掘りし、「このブランドを長く利用し続けよう」という意向(長期利用意向)にどう影響しているのか、定量的に検証してみましょう。 今回、1,086人のアパレルブランドユーザーの回答を、インテージ独自の「i-KPIマップⓇ」というフレームワーク(KPIと顧客体感価値の関係値に感情の要素を加えた分析モデル)を用いて構造化し、数値的な関係性を探りました。
結果を見る前に、このマップの構造を簡単にご説明します。マップでは、顧客の心理を「層」に分けて整理します。ここでは先述の「長期利用意向」を【1層(KPI)】に配置し、フリーアンサーの中に表れていた「3つの感情」の項目を【2層(感情パス)】に配置しています(図表5)。アンケートで聴取した「それぞれの項目をどれだけ実感しているか」の回答を基に、相関分析によって関係性を数値化しています。
図表4

「2層(3つの感情)」は「1層(長期利用意向)」に対してそれぞれどの程度の影響を与えているのでしょうか。 分析の結果、最も強い影響を与えていたのは、やはり基本となる「ベース満足」でした。 しかし注目すべきは、「自分と切り離せない」というエンゲージメントの項目も中程度の相関を示し、「乗り換えると高くつくかも」というスイッチングバリアの項目も、弱いながら確かな影響力を持っていたという事実(※)です。
※重回帰分析によって「満足度」の影響を統制した上でも、エンゲージメントとスイッチングバリアは長期利用意向に対して統計的に有意な影響を示しました。単なる誤差ではなく、明確なロジックとして存在している結論です。
このデータが示唆するのは、「満足度が高止まりして差別化が難しいフェーズに入ったら、次はエンゲージメントの育成や、スイッチングバリアの構築に舵を切る」という、新たな戦略アプローチの有効性です。
次に、これらの感情が「どんな体験の積み重ねによって形づくられているのか」を見ていきましょう。これらの感情は、自然発生するわけではありません。では、日々のどのような顧客体験から生まれるのでしょうか?
ここで、先ほどのi-KPIマップⓇにさらに【3層(CXファクター)】を追加し、感情と体験の相関関係を確認していきます。「CXファクター」とは、「顧客がサービス利用を通じて体感する様々な価値」を指す言葉です。
3層と2層の関係について、アパレル業界に共通する代表的なCXファクターに対するアンケート回答者の評価を基に分析したところ、以下のような興味深い結びつきが確認できました。
図表5

服を買う行為そのものが持つエンタメ性の充足が、基本的な満足度を押し上げる要因として表れました。
公式サイトなどで他の愛用者の声が見えることで、「自分と同じような人がいる」という共感やコミュニティ的な一体感が生まれ、ブランドへの愛着が育つ、という仮説が立てられます。
独自性の高い商品があると、「自分に合うものを他で一から探すのは面倒だし、失敗するリスク(コスト)が高い」と感じさせ、乗り換えを防ぐ防波堤になっていると読み取れます。
ここまで深く分析を行うことで、「長く利用したい」という思いを形作る感情、その感情を醸成する体験について、誰にでも理解しやすい形で可視化することができました。
上記はあくまで今回の一分析事例の結果に過ぎませんが、大事なことは、「このように構造を整理できれば、勘や経験に頼らない『データドリブンな打ち手』が見えてくる」ということです。
例えば今回の分析結果を前提にすれば、長期利用を促したい時、むやみに値引きクーポンを乱発するよりも、店舗の鏡の配置やディスプレイを工夫して「選ぶ楽しさ」を演出した方が効果的かもしれません。また、熱狂的なファン(エンゲージメント)を育てたいなら、ECサイトのレビュー機能やSNSでのコメントバックを充実させる方が近道になります。 自社において、どのCXファクターが、どの感情に効くのか。これを定量的に把握することこそが、限られたリソースを無駄なく配分する最大の武器になるのです。
今回の分析で紹介した通り、「長く使い続ける」という行動の裏には、満足・エンゲージメント・スイッチングバリアという感情が複合的に絡み合い、それぞれが特定の「CXファクター」と結びついています。 KGI(業績向上やLTVの最大化)を目指す際、私たちはつい「とにかく顧客満足度を上げよう」と漠然とした号令をかけてしまいがちです。しかし、本当に業績を変えるために必要なのは、ユーザーの心理変化のメカニズムを精緻に捉えることです。自社が目指すべき「理想の顧客行動」を定め、その行動を引き起こす「心理(KPI)」を特定し、そこに直結する「CXファクター」へ戦略的にリソースを集中させる。この構造をひもとくことこそが、勘や経験に依存しない、確実で無駄のないアクション仮説を生み出します。
最後に、この記事をお読みいただいた皆様が、明日から自社のビジネスにこの考え方を落とし込むための「3つの問い」をご紹介します。ぜひ、チームのメンバーと一緒に考えてみてください。
見落としていた「アクション仮説」は、思いがけないところに眠っているものです。まずはこの3つの問いから、自社独自の「3層構造の仮説作り」を始めてみてはいかがでしょうか。
i-KPIマップを活用したKPIマネジメント支援サービス
今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。
調査概要
調査手法:インターネット調査(定量調査)
調査対象:インテージ マイティモニター 全国20~79歳男女
調査時期:2024年10月29日(火)~11月14日(木)
標本サイズ:全8業界合計 8,537(うちアパレル業界 1,086)
参考文献
Szymanski, D. M., & Henard, D. H. (2001). Customer satisfaction: A meta-analysis of the empirical evidence. Journal of the Academy of Marketing Science, 29, 16–35.
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