

BtoBの新規事業や既存製品の改善において、市場のリアルな声を集める手法は多くの担当者が悩むテーマです。この記事では、BtoB市場調査の手順やBtoCとの違い、具体的な調査手法を解説し、実務でつまずくポイントや成功のノウハウを分かりやすくお伝えします。
BtoB市場調査とは、企業間取引における顧客のニーズや市場全体の動向を、客観的なデータに基づいて論理的に把握するための活動です。企業の意思決定を後押しするために不可欠なプロセスとなります。
BtoBとBtoCの最大の違いは、購買の意思決定プロセスと対象者の性質にあります。BtoC市場調査は個人の感情や好みが購買に直結しやすい傾向がありますが、BtoB市場調査は組織としての合理的な判断が表れます。
具体的には、導入費用に対する効果や業務効率化の度合いが厳しく評価されます。つまり、BtoB市場調査では個人の単純な嗜好ではなく、企業課題の解決にどう寄与するのかという論理的な背景を深掘りする必要があるということです。
| 比較項目 | BtoB市場の特徴 | BtoC市場の特徴 |
| 購買の決定者 | 担当者や決裁者など複数人が関与する | 個人または家族単位で完結する |
| 評価の基準 | 費用対効果や実績などの合理性が中心 | デザインやブランドなどの嗜好や価値観 機能性や使いやすさ |
| 意思決定期間 | 稟議を通すため数ヶ月から数年と長期 | 比較的短期間での即決が多い傾向 |
BtoB市場調査では、条件に合致する対象者の絶対数が極めて少ないという特徴があります。特定の業界の経営層や、専門的なソフトウェアを導入しているIT責任者など、ピンポイントで条件に合う対象者を探す必要があるためです。
例えば、従業員数が一千名以上の製造業で、生産管理システムを選定している人物を探そうとすると、該当する対象者はごくわずかになります。
この例から言えるのは、アンケートパネルのような一般的な手法だけでは十分なサンプル数を集めるのが困難な可能性があるということです。
調査を企画して実施する側にも高度な専門知識が求められます。対象となる業界特有の商習慣や専門用語を深く理解していなければ、適切な質問を作成できないからです。
具体的には、医療機器メーカーに対する調査を行う場合、医療業界の厳しい法規制や最新の技術動向を知らなければ、核心を突いた本音の回答を引き出すことは困難です。つまり、BtoB市場調査を成功させるためには、事前の業界研究や専門家の知見を借りる準備プロセスが重要です。
BtoB市場調査を実施する主な目的は、ビジネスにおける不確実性を減らし、合理的な意思決定を行うための確実な証拠を集めることです。思い込みによる失敗を防ぐ重要な役割を持ちます。
| 調査の目的 | 実施する具体的なアクション | 期待できる結果 |
| 新規事業における 需要予測 | 見込み顧客にヒアリングし、製品投入前に需要と適正価格を確認する | 開発投資に対するゴーサインの判断が可能に |
| 既存商材の ボトルネック特定 | 客観的なデータで売上停滞の原因を明らかにする | 的外れな改善施策を未然に防ぐ |
| 継続利用と 顧客満足度の可視化 | 既存顧客の継続意向や改善要望を定期的に把握する | 自社製品の明確な差別化ポイントの発見 |
新しい製品やサービスを市場に投入する前に、本当にそれを利用してお金を払う企業が存在するのかを確認します。開発に多額の投資を伴うBtoBビジネスにおいて、需要の見込み違いは企業の存続に関わる致命的な損失に繋がるからです。
具体的には、プロトタイプの段階で見込み顧客にヒアリングを行い、機能の過不足や市場が受け入れる適正価格を探ります。この活動を通して、事業の成功確率を客観的なデータに基づいて高めることができます。
売上が伸び悩んでいる既存商材の課題を見つけ出すためにも、市場調査は非常に有効です。機能が足りないから売れないと考えていた商材について調査を実施してみると、実は導入後のサポート体制への不安が原因だったというケースは珍しくありません。
社内の営業担当者の感覚や報告だけでは、本当の失注理由や顧客の隠れた不満を正確に把握できないことが多いと言えます。そのため、客観的なデータを外部から入手することで、的外れな改善施策を未然に防ぐことができます。
すでに自社の商材を導入している既存顧客に対して、継続利用の意向や改善要望を定期的にヒアリングします。BtoBビジネスはサブスクリプション型のサービスや継続的な取引が多く、解約を防ぐことが会社の利益に直結するためです。
継続して利用している本当の理由や、他社製品に乗り換えない理由を深掘りすることで、自社の強みを再認識できます。つまり、顧客満足度を可視化することは既存顧客を守りつつ、新規開拓に向けた強力な営業の訴求ポイントを磨くことになります。
BtoB市場調査には、目的に応じて自ら新しいデータを集める方法と、すでに公開されている外部の情報を活用する方法があります。状況に応じて使い分けることが重要です。
| 調査の手法 | 手法の主な特徴 | 適しているシチュエーション |
| デスクリサーチ | すでに存在する公開データの収集 | 市場規模の把握や初期の仮説構築時 |
| 定量アンケート | 数値として集計できるデータの収集 | サービス選択時の重視点の把握時 |
| デプスインタビュー | 心理や背景に対する深いヒアリング | 潜在的なニーズの探索や課題の深掘り時 |
調査の第一歩として、インターネット上の情報や官公庁の統計データ、業界の専門紙などの既存情報を収集して分析する手法です。コストと時間を抑えつつ、市場の全体像やマクロなトレンドを素早く把握できるのが最大の強みです。
一例として、経済産業省の統計データなどを活用することで、対象とする市場の規模や成長率について客観的な裏付けを得ることができます。デスクリサーチは、この後に続く詳細な調査に向けた仮説を立てるための土台作りとして非常に有効な手段です。
Webのシステムを利用して多数の対象者にアンケートを配信し、回答の割合や傾向を数値データとして大量に集める手法です。あらかじめ設定した仮説が正しいかどうかを、統計的な根拠を持って証明したい場合に適しています。
例えば、「業務効率化ツールを導入する際に最も重視するポイントは何か」という問いに対して、価格や機能などの選択肢を用意して回答の割合を比較します。この結果から、市場全体のマクロな傾向を客観的な事実として示すことができます。
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対象者と一対一でじっくりと対話を行い、アンケートの選択肢だけでは見えてこない詳細な課題や意思決定の背景を探る手法です。BtoBにおける購買プロセスは複数の人物が関わり複雑であるため、誰がどのように稟議を通したのかといった生々しい実態を把握するのに役立ちます。
具体的には、オンライン会議ツールなどを用いて一時間程度のヒアリングを行い、対象者の発言の裏側にある本音を引き出します。これにより、単純な数字には表れない質的な洞察を豊富に得ることが可能です。
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調査を成功させるためには、いきなりアンケートの質問を作成するのではなく、目的の整理から順番に段階を踏んで進めることが不可欠です。
| 実施する手順の ステップ | 具体的なアクションの内容 | 進行時に注意すべきポイント |
| 目的の明確化 | 最終的な意思決定のゴールを設定する | 調査を実施すること自体を目的化させない |
| 仮説の設定 | 顧客の課題や市場の反応を予測する | 担当者の思い込みを排除して客観的になる |
| 手法の選定 | アンケート形式やインタビュー形式など、仮説に対して検証するための方法を選定する | 確保できる予算とスケジュールのバランスを取る |
| 調査の実施と データ収集 | 調査票の作成・配信やインタビューを実施する | 回答者の負担を最小限に抑える工夫をする |
| データの集計と分析 | 回収データを整理し仮説を検証する | データの意味を多角的に解釈する |
何のために市場調査を行うのか、調査結果を用いてどのような意思決定を下したいのかを最初に定義します。目的が曖昧なまま作業を進めると、後から「集まったデータでは経営判断ができない」という事態に陥るからです。
たとえば、「新しいクラウドシステムの開発に数億円の投資をすべきかを判断する」という明確なゴールを社内で設定します。このゴールから逆算して設計することで、無駄な質問を省き、本当に必要な情報だけを効率的に集めることができます。
調査を実施する前に、「顧客はこのような業務課題を持っているはずだ」「この新しい機能が高く評価されるはずだ」という明確な仮説を立てます。仮説が存在しない網羅的な調査は、焦点がぼやけてしまい意味のあるビジネスインサイトが得られません。
具体的には、社内の営業担当者へのヒアリングや事前のデスクリサーチの結果をもとにして、検証すべき項目をリストとして洗い出します。つまり、調査とは新しい発見をゼロから探すものではなく、事前に立てた仮説の答え合わせをする作業だということです。
立てた仮説を検証するために、アンケート形式にするのかインタビュー形式にするのかを決定し、誰に聞くべきかを厳密に定義します。なぜならば、対象者の設定が間違っていると、どんなに優れた質問を用意しても信頼できるデータにはならないからです。
このターゲティングの精度が、調査全体の品質を大きく左右するため、調査手法と対象者の選定は丁寧に行う必要があります。
【関連記事】アンケート調査の方法とコツ② 課題設定~仮説構築~調査手法の選び方編
調査票の作成やインタビュアーの調整を行い、実際に市場からデータを集めるフェーズに入ります。BtoBの場合、対象となるビジネスパーソンが多忙であることが多いため、回答への負担を最小限に抑える工夫が特に求められます。
アンケートであれば設問数を極力絞り込み、五分以内で完了できるように画面を設計します。インタビューであれば、事前に質問事項の概要を共有して回答の準備をしてもらうと対話がスムーズに進みます。
相手の貴重な時間を頂戴しているという意識を持つことが非常に重要です。
回収したデータを整理し、当初立てた仮説が正しかったのかどうかを検証します。単に美しいグラフを作成するだけでなく、そのデータが自社のビジネスに対してどのような意味を持つのかを深く解釈することが求められます。
たとえば、特定の機能に対するニーズが想定よりも低かった場合、ターゲット層がずれていたのか、機能の伝え方が悪かったのかを多角的に考察することが大切です。この分析結果をもとにして、次に打つべき具体的なアクションプランを策定します。
BtoB市場調査の失敗を未然に防ぎ、事業の成長に直結する価値あるデータを得るための重要なノウハウを解説します。
| 成功のポイント | 主なメリット |
| BtoB専用パネルの利用 | 役職や業種で正確にスクリーニングでき、属性が不透明な回答を排除できる |
| 決裁者と担当者の区別 | 立場ごとの評価軸に合わせた質問設計で、実態に即した施策立案につなげられる |
| 専門会社への依頼 | 専門知見を持つリサーチャーにより質の高い調査設計が可能になる |
一般的な消費者向けのアンケートパネルではなく、ビジネスパーソンに特化したモニターを保有している専用サービスを利用することが重要です。
役職や業種、職種などで細かくスクリーニングができるため、意見を聞きたい相手に確実にリーチできます。名刺管理ソフトのデータやビジネス特化型のSNSを活用した調査パネルであれば、所属企業の規模や決裁権の有無まで正確に把握することが可能です。
これにより、属性が不透明な信頼性の低い回答データを排除できます。
BtoBビジネスの現場では、実際にサービスを利用して作業する人と、お金を払う最終決定をする人が異なるケースがほとんどです。そのため、それぞれの立場に合わせた適切なアプローチが必要になります。
現場の担当者には業務効率化の観点から使い勝手を深くヒアリングし、経営層や決裁者にはコスト削減効果やセキュリティの観点から質問を投げかけます。両者の意見のズレを正確に把握することで、より適切な意思決定や施策立案につなげることができます。
自社内での調査企画や実行に限界を感じた場合は、BtoB領域の支援実績が豊富な専門の調査会社に外部委託することを検討します。BtoB特有の難解なテーマであっても、専門的な知見を持つリサーチャーが介在することで質の高い調査設計が可能になるからです。
調査会社を選ぶ際は、自社の業界に関する基礎的な知識を持っているか、課題の背景を深く理解しようとする真摯な姿勢があるかを必ず確認します。目先のコストだけで選ばず、良きパートナーとなる企業を見つけることが成功への一番の近道です。
【関連記事】はじめてのアンケート調査 成功のコツは“準備”にあり!
この記事の要点をまとめます。
これらの調査ステップを実務に落とし込み、客観的なデータに基づいた精度の高い事業戦略の推進にぜひ役立ててください。
もし、具体的な調査手法や業界ごとの活用事例をさらに詳しく知りたい場合は、専門家による資料も参考にしてみてください。
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