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400項目×男女の生活スタイルや価値観のコーホート分析から読み解く潮流

はじめに

現在、原材料費やエネルギー価格の高騰、物流コストの上昇などにより、国内のビジネス環境は厳しさを増しています。
さらに中長期的に進行してきた、以下の要素もビジネスに大きな影響を与えています。
・少子高齢化や景気停滞による市場の成熟化と商品やサービスのコモディティ化
・ネット・SNSなど情報接点が増えたことに起因する所属コミュニティや生活スタイル・価値観の多様化
・地球環境の悪化による気候変動や自然災害の増加
・緊迫する国際情勢や地政学リスクの高まり
・新型コロナウイルスの影響で加速したデジタルトランスフォーメーション(DX)など社会の変化

これらの変化を見据えて新たなビジネスチャンスを見つけるためには、企業は高い解像度で生活者を理解してインサイトを掴むと同時に、参入市場の代替品・サービスを含めた広い視野で事象や変化を見渡す必要があります。さらに、変化の背景や原因を探ることで、事業やカテゴリへの影響を見越して、将来のニーズや消費行動の変化に対応する準備ができるようになります。

図表1は、前述した様々な環境の変化が参入カテゴリにどのような影響を与えるかを見通すときに使っているフレームワークです。背景情報を広く収集し、構造的に整理することで、多層的な生活者の理解に基づいた先読みができるようになります。この図でカテゴリのニーズや消費行動に直結している「生活スタイル/価値観」ですが、いま何に注目すべきなのでしょうか?この記事では、5つの生活スタイルや価値観に着目し、ニーズを読み解くためのヒントを探ります。

図表1

カテゴリへの影響を整理するフレームワーク

注目すべき5つの生活スタイルや価値観

今回は以下の5つの生活スタイルや価値観をピックアップしました。
・ウェルネス (心身の健康維持・増進だけではなく美容も)
・コスパ (支払った金額に対してどれだけ価値を感じたか)
・タイパ (費やした時間や手間に対してどれだけ価値を感じたか)
・個人志向
・多様性

「健康」は長年の関心事でしたが、今は「身体の健康だけではなく心身の健康を」という機運が高まっていると言われています。また、過去には「若者のコスパ意識」といったキーワードが聞かれていましたが、最近では「タイパ意識」も加わっている印象です。
他者との関係性においては、コロナ禍で人と会えない時期を経て、婚姻数が減少し50万組を割り込んで戦後最少を記録しました。以前よりも内向的になり、個人志向が高まったという実感を持っている方もいるのではないでしょうか。

では早速、いま注目すべき5つの生活スタイルや価値観について、それぞれ誰の、どのようなニーズに紐づくのかを読み解いていきましょう。

「生活スタイルや価値観のコーホート分析」に見る今のニーズ

今回は、インテージの消費者パネルSCI※1に協力している15~79歳の男女への定点アンケート『Profiler』のうち、400項目×男女の2012~23年データをもとに、ベイズ型コーホート分析(詳細はコチラ)を使って、生活スタイルや価値観を構造化してみました。この手法を使うことで、時系列データを見た時に混同しがちな「年齢」と「世代」の特徴を分解して知ることができます。

図表2

分析スペック

ここからは、400項目からピックアップした5つの項目を具体的に見ていきたいと思います。

ウェルネス (心身の健康維持・増進だけではなく美容も)

最近では「ボディメイク」といった考え方も浸透し、心身の健康維持だけではなく、外見の美しさまで意識するようになっています。また、若年層を中心に「男性のメイク」といった行動も広がってきました。そこで、「他人からきれいに見られたいと思う」という項目を男女それぞれで3効果に分解してみました(図表3)。
数値がプラスであれば平均よりも該当率が高く、逆にマイナスであれば平均よりも該当率が低いことを表しています。

図表3

他人からきれいに見られたいと思う

男性は新しい世代ほど、女性は若い時に、他人からきれいに見られたい≒美容意識が高くなっていて、男女で大きな違いがあります。
近年、男性の化粧品市場が成長しているのも納得の結果です。また、昨年に話題となった『日傘男子』も、「日焼けによる肌へのダメージを防いで肌のコンディションを保ちたい」というニーズの表れです。一方で、女性は化粧品や美容サービスだけではなく、ボディメイクへの関心が広がり、プロテイン市場が拡大しています

コスパ (支払った金額に対してどれだけ価値を感じたか)

図表4は「商品を買うときに、本当に必要なものかどうかを考える」という項目のグラフです。

図表4

商品を買うときに、本当に必要なものかどうかを考える

男性は古い世代ほど、女性は新人類~団塊Jr.が慎重にコスパを吟味すると、こちらも男女で違いがあります。男性の古い世代において該当率が高い理由を探ると、第二次世界大戦の前に生まれたキネマ世代~戦後直後に生まれた団塊世代は、戦中・戦後の物不足や貧しい時代を経験しているため、消費に対して慎重で「もったいない精神」が強く、物を大切にして長く使う傾向があるのでしょう。

また男女で共通して、大学生や社会人生活を始めたばかりで収入や貯蓄が少ない20代と年金生活が始まる65歳以上で、そしてコロナ禍や物価高が続く20年以降に、コスパへの意識が高まっています。やはり可処分所得が少なくなる「年齢」や「時代」で財布の紐が固くなることが分かります。最近、100円や300円の均一ショップ、ドラッグストアや、ワークマン、業務スーパー、ロピア、オーケー、ニトリといった衣食住でお得感を訴求するお店が好調ですが、この「時代」によるコスパ意識の高まりを受けていると言えます。

タイパ(費やした時間や手間に対してどれだけ価値を感じたか)

図表5は「夕食に総菜や冷凍食品を使うことがある」という項目のグラフです。

図表5

夕食に総菜や冷凍食品を使うことがある

男女で共通して、新しい世代ほど、また時代を経るほど、惣菜や冷凍食品を使うようになっています。
この背景には、共働き世帯や働くシニアの増加により可処分時間が減ったことで、「料理する時間を短縮、もしくは負担を軽減したい」というニーズがあります。この需要を取り込むために、スーパーやコンビニで惣菜や冷凍食品の売り場が広くなっています。また、ミールキット、カット野菜、液体だしの市場規模が拡大していることからも、「プロセスにあたる料理」よりも「結果にあたる食事」のパフォーマンスを重視するタイパへの意識が高まっていることが分かります。

料理の他にも、タイパへの意識が高まっている事象は、生活のあらゆるシーンで見受けられます。
・口コミやSNSの評価を参考にして効率的に消費や体験をする
・ネット通販・宅配、キャッシュレス決済、セルフレジで買い物の時間を短縮する
・オンラインでの動画・音楽・ゲームの利用、会議、学習、金融取引で移動時間を短縮する
・ショート動画や倍速再生を使って短時間で欲しい情報を得る

逆に、年金生活が始まると節約意識が高まるため、65歳以上の女性は惣菜や冷凍食品を控える傾向があります。お金と時間・手間のどちらを優先するか、究極の選択を日常的に迫られている様子が伺えます。 コスパもタイパも、すべては「ゆとり」が失われていく中で情報武装して対抗しようとした結果、「失敗したくない心理」が強くなっているのかもしれません。

個人志向

図表6は「人づき合いをあまり積極的に広げたいと思わない」という項目のグラフです。

図表6

人づき合いをあまり積極的に広げたいと思わない

男女で共通して、近年になるほど、人づき合いへの意識が希薄化しています。この背景には、2004年頃から急速に浸透して定着した「自己責任」という価値観や、SNSによるオンラインでの交流の影響が考えられます。これ以前は、社会全体の問題と捉えたり、リアルなコミュニティ以外は人づき合いの手段が限られたりしていました。

また、「14年の消費税8%への引き上げ」と「コロナ禍や物価高」によって可処分所得が減少したタイミングで人づき合いへの意欲が減退し、個人志向の考え方が加速したことが分かります。コスパやタイパと同様、「ゆとり」が失われていく中で、やや閉鎖的な価値観が広がっているのかもしれません。

この個人志向は、家族の中でも個人を尊重し合い「ひとり時間」を求めることで、「おひとり様消費」につながっている側面もあります。ひと昔前であれば、ひとりで行くことに抵抗があった焼肉、カラオケ、キャンプ、旅行などを一人で利用する人が増加している要因でもあるのではないでしょうか。

多様性

図表7は「別に結婚はしなくてよいと思う」という項目のグラフです。

図表7

別に結婚はしなくてよいと思う

男女で共通して新しい世代ほど、また時代を経るほど、結婚しなくてもよいと思うようになっています。「結婚してはじめて一人前」という昭和の価値観から大きく転換したことは明らかです。
この背景には、個人志向が広がっているだけではなく、可処分所得が増えない・明るい先行きが見通せない現状から、経済的な理由で躊躇する人もいると考えられます。さらに女性で顕著なのですが、コロナ禍にリアルの出会いが減ったことで、この考え方が急増しています。

また男性は20代、女性は40代と、結婚しなくてもよいと考えるピークが男女で異なりますが、35歳以上の傾向は男女で共通しています。男女の線が交差している35歳前後に、実際に結婚するか、しないかを決断する境界線があることが読み取れます。外食、中食、宅配、レトルト食品、インスタント食品、冷凍食品など料理をしなくても食べられる選択肢が充実し、ネット通販で買い物を済ませて、ロボット掃除機、乾燥機付き洗濯機、食器洗い乾燥機など家事を自動化できるようになった現代においては、家事に割く時間を減らしても快適に生活できるようになっています。こうして増やした可処分時間を「ひとり時間」として楽しめるようになったのも非婚化が進んでいる要因のひとつかもしれません。

おわりに

ここまで、コーホート分析を使って生活スタイルや価値観を構造化し、5つの潮流を読み解いてきました。最後に読み解いた潮流をまとめてみると、「個人ごとに多様化したシーンとパフォーマンス意識や感情を捉えた価値を提供すること」がより大切になっていきそうです。

今回はあえて分かりやすく顕在化している項目をピックアップしましたが、3つの効果に分解することで、何となく感覚的に分かっていたことを定量的に明らかにできたり、これまで時系列の変化≒「時代」効果は分かる一方で「年齢」と「世代」の効果を混同しがちだったことが実感できたりと、このアプローチの独自性や読み取れることの広がりを感じていただけたのではないでしょうか。

次回は、400項目×男女=800項目を類型化した上で、今後も広がりそうな生活スタイルや価値観を探っていきたいと思います。


【SCI®(全国消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女53,600人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データです。食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品、タバコなど、バーコードが付与された商品について、「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。
SCI Shopper Indexデータは、このSCIで収集している消費財購入時のレシート情報を基に、日常の買い物金額や買い物頻度などを集計したものです。
※SCIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません

著者プロフィール

株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 ナレッジ&インサイト開発部 プリンシパル・アナリシス・デザイナー  鶴田 育緒 (つるた いくお)プロフィール画像
株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 ナレッジ&インサイト開発部 プリンシパル・アナリシス・デザイナー  鶴田 育緒 (つるた いくお)
株式会社インテージに入社以来、パネル/アドホック/データサイエンス/コンサルティングなどリサーチ&アナリシス全ての分野でソリューションやコンテンツの開発を担当する傍ら、幅広い業界・150社を超える企業に対してプロジェクト型のマーケティング支援・分析に従事。

株式会社インテージに入社以来、パネル/アドホック/データサイエンス/コンサルティングなどリサーチ&アナリシス全ての分野でソリューションやコンテンツの開発を担当する傍ら、幅広い業界・150社を超える企業に対してプロジェクト型のマーケティング支援・分析に従事。

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