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暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる(20)「非言語情報」から仮説を立てるには。

「気づき」をみるポイント

暮らしへの「非言語的」アプローチとは、行動軌跡を生活シーンという形で可視化するということである。その方法はその生活シーンをスナップショットとして写真などで映像化することだ。行動観察という点でいえば、間接観察という言い方になる。

これは、デジタル化ということが大きなイノベーションになっている。手持ちのスマートフォンで自分の食事や目にしている風景を写真に撮り、それをSNSなどで瞬時にシェアできることは「非言語的」アプローチを観察する上で非常に便利な進化を遂げている。しかしまだその恩恵が十分には活かされていないので、さらに積極的に活用されていく必要があるだろう。

そして、「非言語的」に可視化された生活シーンの情報をどのように解析し、利用していけばいいのかということについては、まだまだノウハウが形成されてはいない。

たとえば、可視化された生活シーン情報から、「気づき」を作りだしていく、仮説を作りだしていくという言い方になるが、どのようにして「気づき」と言っていることに、気づくことができるのだろうか。

「気づき」の第一歩は、その生活シーンをみて「あれれ?!」と思ったり、「これって何だろう?」、「なんか変だなあ」、「わかるわかる」と感じとることであり、ある意味「異常値」を見つけだすということでもある。

この生活シーンは「誰しもがやっていること」なのか、それとも「突出的な出来事」なのかの類推はいったんおいておこう。それは第二歩目のアプローチであり、方法を変えていくことが必要だ。なお、類推方法については別の機会で解説する。

それでは、実践として前回の連載でも紹介した同じ女性の食シーンを、3パターン観察してみよう。

食シーンを連続線でみる

1枚目はテイクアウトのおにぎりがメインの食シーンである。2枚目は焼き鮭、ポテトサラダなどのおかず4点と白いごはんで構成されている。そして3枚目は肉だんご炒めなど3メニューの総菜と白いごはんの夕食シーンである。2・3枚目に共通するものを挙げると、おかずがバラエティよく3~4品あり、主食には白いごはんということだ。言語だけで形成されるイメージは、ごはんを核としたオーソドックスな食シーンということに尽きてしまう。少し深堀りしたとしても、みそ汁は無いのだなあ、といったことを荒探しをする程度のこと以上には「気づき」はない。そのみそ汁のことについて仮説を掘り下げようにもこれ以上でも以下でもないのだ。

この食シーンをみて「気づき」としてこだわってみるとすれば、1つには白いごはんを食べてはいるけれど、それがタッパーに入ったままの状態で食べられていることである。

「あれっ!?お茶わんに入れて食べないのかな?」ということが、「気づき」の第一歩になる。これって異常なのか。とはいえ、2つのシーンともにお茶わんには入っていない。たまたまこの時一回だけの異常値ではなさそうだし、さらにこの2回だけに過ぎないという風には割りきる訳にはいかなさそうなのである。

実際、このごはんはちゃんと炊飯されたものであり、毎日ではないにせよごはんは炊かれている。炊きあがったごはんは、その食シーンで食べられる量以外は、即タッパーに入って冷凍されるという習慣があることを類推することができる。この前提があって、冷凍をチンしたタッパー入り状態の白いごはんを食べることにつながっている。

安直に時短、簡便、手抜きでレンチンタッパーごはんが食べられているということに、この「気づき」を仮説にしてしまうと失敗なのである。

まずはこのごはんの食べ方からの「気づき」としては、「脱お茶わん」化しているごはんという視点あたりのキーワードにしておくべきなのである。そうしておくと、「脱お茶わん」化という視点で、他の食シーンをながめながら新たな「気づき」に広がつていく可能性があるのだ。

すでに述べたが、「ワンプレート」化する食シーンといった「気づき」と重層化させていくことができ、ようやく「仮説」づくりに近づいていくことになる。

「脱お茶わん」化という深め方

ごはんが「脱お茶わん」化し、「ワンプレート」化していく大きな変化の流れの中で、お茶わんに入ったごはんを食べるシーンの価値はどのようになっていくのだろうか。こんな視点も「気づき」を作りだしていくための要素になる。

実は「お茶わん」ごはんというシーンも当然存在している。具体的な例を一つ紹介しておく。

かつおのたたきにみそ汁、漬物などで構成された絵にかいたような和のごはんシーンである。一汁三菜という言葉が似合う。60代男性の夕食シーンであり、一つの視点としていえば、誰かがちゃんと用意してくれるからこそ成立しているといえそうなのである。

加えてこの彼の「お茶わん」ごはんに至りつくまでの、この日の一日の食はそれとは似ても似つかぬものである。詳細はこの連載の10回に紹介してあるが、サラダチキンをそのまま食べるといった「部分最適」のパターンが繰り返されている。

この典型的な一汁三菜的「お茶わん」ごはんのシーンは、もはや「絶滅危惧種」に近いかもしれないという「仮説」にようやく近づいていくことになる。とはいえ、これとは全く異なった「お茶わん」ごはんのシーンが当然ある。

たとえばおいしい卵かけごはんを食べる、あっさりと納豆ごはんを食べるといったようなシーンでは実は「お茶わん」ごはんなのである。TKGなら「お茶わん」ごはん、炊きたてのおいしいごはんが食べたいとなる。あるいはチビッ子のあっさり納豆ごはんとなるので、子供にはやっぱりお茶わんは必需品ということになる。こんな「気づき」を作りながら、「ごはん」というものが登場する生活シーンを観察し、新しい価値の流れの「仮説」につなげていくことになる。

言語的定量データとの融合

こんな「気づき」の視点を持ちながら、改めて言語的アプローチを数量化した定量データを見直すと、また様々な「気づき」のきっかけが見つかったりもするものだ。

この連載の第16回でみそ汁の話題として紹介したことがあるが、「キッチンダイアリー」 という定量データからごはん類の動向をみてみるといくつかの「気づき」が浮きあがってくる。TI値(※Table Index)でみてみると、ごはん類トータルの出現は510近くあり、群を抜いて食シーンに登場していることがわかる。さらにこの出現の中の約2/3が白いごはん類(玄米、雑穀米などを含む)なのである。残りの1/3がおにぎりやカレーライス、寿司、丼などのさらに「ワンプレート」化したものである。

ところが、この2/3近くを占める白いごはん類の食べ方という実際の食シーンは、様々なバラエティになっているはずである。この白いごはん類がいわゆる「お茶わん」ごはんであり、一汁三菜的シーンを想像してしまうことでは食シーンの実態には全くかすりもしない結果になってしまうのだ。

たとえば、TKGや納豆ごはんといった「お茶わん」ごはんの食べ方の価値からみていけば、当然一緒に食べられるはずのおかず類というメニュー数は減少していくことになる。そんな「気づき」の可能性でみていけば、なるほどごはん類と一緒に食べられているメニュー数はやはり減少している。そもそも食卓登場メニュー数そのものが減少している背景があるが、ごはん類でも如実にそうなっているという傾向をみることができる。

このように、非言語情報からみつけだしていく「気づき」を、さらに定量情報と融合させていくことで「仮説」づくりへの厚みが生まれてくることになる。

ごはんのその他の食べ方としてみると、おにぎり類の出現もそれなりに大きいものである。しかし、このおにぎりの食べ方そのものも、一般的に想定しているものとは違っているかもしれない。

たとえば冒頭紹介したテイクアウトのおにぎりを食べているシーンの中で、フライドポテトが唯一一緒に食べられていることには気づいただろうか?これも一つの「気づき」である。ごはんの食べ方の典型ではあるが、どこかマックのセットメニューの食べ方に近似化しているようにみえる。そんな中からおにぎりの持つ価値の新しい「気づき」が生まれでてきたりもするのだ。

※1,000食あたりのメニュー(材料、商品)の出現率を表す値。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

Marke-TipsちゃんねるURL:https://www.youtube.com/channel/UCmAKND92heGN-InhC0sp7Kw

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