n=1からみる令和の新ライフスタイル Case10:40代女性Jさん
新型コロナ感染拡大が始まって2年が経ちました。感染拡大が始まった直後はテレワークの推進、密を避けた行動、外出自粛や消毒など、今までほとんどの人が経験しなかった変化が一気に押し寄せました。コロナが生活者の行動や意識に与えた影響は、短期的な変化に留まらないものも少なくないでしょう。
そこで、株式会社インテージクオリスでは自主企画インタビューを実施。生活者ひとりひとりにどのような変化が起こったのか、そしてその変化は感染収束後も定着するのか。生活者の生の声を聴き、行動や気持ちを理解することで今後の生活がどう変わっていくかの兆しを捉えるために10名の方にオンラインのデプスインタビューを実施しました。
最終回となる今回は、40代女性のJさんのお話です。
Jさんの、コロナ禍での生活変化
Jさんは、東京都にお住まいで、家族は夫、お子さんが3人(大学生、高校生、小学生)。お仕事は、自営の理容業で、ご家族3人(ご夫婦と、お母様)で営んでおられます。この道20年以上。お店を開業したご両親とは二世帯住宅でご一緒に住んでいます。お仕事柄、普段は在宅時間が長いため、休日になると気分転換で電車に乗って映画を見に行ったりしています。
Jさんは、コロナ禍で、以下のような点で生活に変化があったそうです。
■人付き合い・コミュニケーション
■食
■健康
■買い物(商品・サービスの選び方・買い方)
■お金の管理・使い方
■趣味・娯楽・エンタメ
■ペット
それぞれの変化について、詳しく伺いました。
なくなった人づき合い、増えた自分時間
「人付き合い・コミュニケーション」に関しては、以前は学生時代の友達とランチに行ったり、飲みにいったりしていたのが、全くなくなりました。食事に関係なく、LINEやメールのやりとりもしなくなってしまって、「付き合いがなくなった」と感じています。
この背景には、昨年、お子さんが大学受験と高校受験をそれぞれ控えていたことがありました。お子さんの受験のことでJさんご自身が悩んでいたので、友達に相談したいという気持ちがありましたし、友達と話すことでストレス発散をしたかったのです。しかし、自分がもしコロナに感染をしてしまったら・・・、受験を控えたお子さんにうつしてしまったら・・・、そうなってはいけないという意識が強くありました。映画を観に行くのも買い物に行くのも、外出は一人で、感染対策をしっかりとって出かけていました。
LINEでの連絡も、以前は、友達に「ちょっと連絡してみようかな」と気軽にメッセージを送ったり、相談をしたくて電話をしたりしていましたが、お互いに仕事に、子育てにバタバタした様子で連絡をする機会がなくなっていきました。
一方で、あまり好きではなかった、子供の学校のPTA活動での親同士の付き合いがコロナ禍でなくなったことで、気持ちが楽になりました。お子さんが学校の運動部に所属していたため、親は土日に当番や応援に参加することが求められます。しかし、Jさんのお仕事は忙しい自営業。PTA活動になかなか参加できずにいると。「当番、できないんですか?」とほかの母親から言われて、うしろめたい思いをしていました。
ところが、コロナ禍でそういう集まりが全部なくなったのです。本当に親しい友達付き合いが減ってしまったのは残念ではあるけれど、PTAの集まりも全部なくなったので、その点はすごくストレス解消になりました。
「趣味・娯楽・エンタメ」については、コロナ禍で、理容業も時短営業や休業の機会が増えたため、以前よりも自由時間が増え、趣味を楽しむ機会がふえました。前から好きだった刺繍や洋服作りをしたり、映画館に行って映画を観る。映画館でやっていないものは家でNetflixやAmazon Primeで観る。韓国ドラマや映画を一人で見る時間も増えました。
運動嫌いから高まった健康意識
Jさんは、「健康」の変化について、アンケートでは以下のように答えていました。
コロナ以前のJさんは、健康に関して全く気にしておらず、お酒が好きだったので、休みの前日に友達と飲み過ぎて、翌日には二日酔いになることが結構ありました。それでも、お酒が楽しみだったのです。ところが、コロナ禍で友達と飲みに行く機会がなくなり、家で一人でお酒を飲むようになりました。ちょうど、お子さんの学校のPTAの付き合いなどで人間関係の辛さを感じるようになっていたので、ストレスからお酒を飲む量が増え、翌朝起きられず、家事が疎かになることがありました。
また、コロナ以前は、仕事がある一方で家族の食事を作るなど、毎朝義務感に襲われ、パニックに近い状態だったそうですが、コロナ禍で学校がお休みになり、朝、子供の弁当を作るストレスからも解放され、仕事も忙しくなくなって時間ができた頃でもありました。ちょうど、コロナ感染拡大の前から、ご主人がダイエットのために、仕事の後に近くの公園でジョギングをするようになっていましたが、Jさん自身はもともと運動嫌いで、「疲れるから、自分は走るのは嫌だ」と思っていました。
しかし、万一コロナに感染をして、基礎疾患があるお子さんや、高齢のご両親に感染させることがあってはいけない、とりあえず自分が健康でいるために何かをしなくては、生活を見直さなくては、という思いが強くなりました。そして、家事も疎かになるような二日酔いの生活は良くないと思い、好きだったお酒を完全にやめようと思いました。家族に何かを言われたからではなく、コロナ感染が拡大する中で、「自分が健康でいなくてはならない」という思いが、強くなったのです。
お酒をやめて、ご主人にも影響されて、自分もジョギングをするようになりました。すると、毎朝寝起きが良くなり、体も軽い。ジョギングをやり始めたら、もうハマってしまって、やめられなくなり、毎朝、小学生のお子さんと一緒に、公園で1時間くらい走るのが日課になりました。
すると、健康への意識がさらに高まり、テレビ番組を見てスクワットをやるようになり、毎日200回くらい、2~3ヵ月続けたら、体重が5kg減りました。食生活でも健康を意識するようになり、炭水化物を控えて、タンパク質と野菜を多めにしたら、お腹が痩せて、きつかったズボンが履けるようになりました。
スクワットを続けるうちに、足に筋肉がついてくるのがわかり、それが面白くて、スクワットをやめられなくなりました。ボロボロだった自分の腿が引き締まってくるのが面白くて、自分で筋肉を触って硬くなっているのが分かると嬉しいと感じるようになりました。スキニーの細身のパンツをはいた時のシルエットが、以前の自分とは全然違って見えて、誰に言われるわけでもなく、自分で自分が変わったと思ったら、もうそれで幸せと感じるようになりました。
Jさんは、いつの間にか「幸せ」について考えるようになりました。「今の自分は、幸せ?」 そんなことを思いながら、セロトニンという、幸せを感じる成分があることも、ネットで調べてみて知ったそうです。コロナ禍の中で、ジョギング中に知らない人とでも挨拶をしたり、ちょっとしたことが、すごく幸せだと思うようになりました。コロナの前、お酒を飲んでいた頃は、そんなことで幸せを感じなかったJさんが、今はちょっとしたことでもすごく幸せを感じるようになったそうです。例えば、子供が縄跳びで二重跳びをできるようになったのを見て、ああ良かった、幸せと感じるようになり、気分が前向きになりました。
生活の変化がもたらした自己肯定感と幸福感
お酒をやめて、ジョギングやスクワットをするようになり、お菓子作りをやってみたり、以前は手間に感じていたお弁当に凝ってみたり、いろんなことをやってみようと思うようになりました。やってみて、お子さんに「ママ、今日の弁当おいしかったよ」「弁当を開けるのが楽しみ」などと言われることが嬉しくなり、次第に、良い母親になってきた自分を実感するようになりました。自分が行動・習慣を変えたこともありますが、ストレスの原因でもあった嫌な人間関係がなくなったことも一因と考えています。つまり、自分のこと、家族のことに、集中することができるようになったことが大きな要因だとJさんは言います。
コロナ禍が続いていますが、Jさんは「自分は今、幸せの絶頂期です!」と話してくれました。もう、以前のようにお酒を飲みたいと思わなくなりました。コロナ感染拡大以前から生活も気持ちもガラッと変わって、今は良い母親でいられる自分を感じ、「幸せの絶頂にいる」と感じているそうです。
以前は、仕事の都合でPTAの土日の集まりにも行けず、ママ友も作れず、母親としての役割を充分に果たせていないと感じていました。それが、子供同士の友達付き合いにもマイナスに影響するんじゃないかと思って悩んでいました。また、家では、仕事をしながら家事をしなくてはならず、その両立に大変な思いをしていました。しかし、コロナ禍で、時間に余裕ができたことで、家事をもっと丁寧にやろうという意識に変わり、そんな母親の姿に子供が喜んでいる様子を見て、丁寧にやってよかったと思うようになりました。
PTA活動があった頃は、人間関係を気にして、ほかの母親たちからも好かれるようにしなければいけないと思っていましたが、Jさんは発想を転換して、「誰からも好かれなくたっていい、嫌われてもいい」という勇気を持つようにしました。そんなことで思い悩むよりも、自分の家庭がうまくいっていればいいさ、と思うようになったそうです。
コロナ禍の中で、Jさんの人間関係に向き合う態度が変わり、ポジティブな変化が生まれたのです。良い母親として行動することで、良い母親としての自己肯定感を持つことができ、「幸せの絶頂期」を迎えたと感じているJさん。今後、コロナ感染が収束しても、以前の生活に戻るより、現在の生活を続けていきたいと考えているそうです。
今回の自主インタビューの連載は、今回で終了です。いくつかのテーマでそれぞれの方にお話を聴き、生活に起こった変化とその裏側にある不安や喜びなど様々な気持ちにフォーカスしてみました。コロナ禍の閉塞感の中で、少しでもより良い方向へ進みたいというポジティブな意識がうかがえました。その意識がこれからもいろいろな形で生活に変化を生んでいくであろうと思います。コロナ禍で生活はどう変わったか? そこにどのような意識があったのか? そしてこれからどう変わっていくのか? 今後も引き続き注目していきたいと思います。
今回の分析は下記の設計で実施した株式会社インテージクオリス・株式会社インテージの共同自主企画の調査結果をもとに行いました。
・調査主体:株式会社インテージクオリス・株式会社インテージ
・調査実施日:2022年1月26日~2月10日
・調査対象者:一都三県在住の20~60代男女10名
・調査手法:デプスインタビュー(オンライン)※WEB環境を利用し、会場に集まらなくても任意の場所からオンラインでインタビューを行う手法です。自宅でインタビューを行うケースが多く、リラックスして参加できるので、よりリアルな消費者の声がみえてきます。
インタビューに先立ち実施したアンケート調査結果に関する記事も掲載していますので、あわせてご覧ください。
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